お腹の中に海がある

 昔うどんを食べに行ったときのお話。

 本当にそれだけ、どう頑張っても「ただうどんを食べた」以外に要約のしようのない物語……のはずなのに、このじわりと胸に染み入るような質感は一体なに?

 とても不思議なお話です。
 何か特別な出来事や不思議な事件が起こるでもなく、それどころかわかりやすくカタルシスを生み出すような構造はどこにもないのに、読み終える頃には不思議な満足感に包まれていました。
 なんだろうこれ……この正体不明の読み出に、異様な心地よさ……。

 うまく言葉にできないので単純に好きなところを上げるのですけど、件のうどんが好き。
 美味しそう。とっても。いわゆる「飯テロ」なんて言われたりする、見ているだけでお腹が空くようなあの体験を、文字でここまでやられたのは初めてかもしれません。

 感想がまとまらないのが悔しいんですけど、本当に好きなお話。
 最初から最後まで、ずっと方言による語りの形式なので、変わった読み心地も味わえます。
 気になった方はぜひ。おすすめです。

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