第4話

 あさりうどんな、見た目はごく普通やったわ。

 うどんの丼に、薄ゥいきつねさん色の出汁がたっぷりで、殻付きのあさりがゴロゴロ入ってな。

 わりあい、大粒のあさりやったから、田舎のくせに豪気なんか、田舎やから豪気なんかどっちやろて思った覚えがあるわ。

 食べる前から、ええ香りがしてなァ。ねぎと、細いこまい三つ葉なんかも載ってたわ。

 なんや急に腹減ってきて、大急ぎで箸割って。

 ワシ、うどんはな、出汁からすするねん。熱いし重いけど、こう、丼両手で持ち上げて。一口、二口。

 それがまたまあ絶品やったんよ。

 うどんなんかどこにでもあるし、よお食べるやろ。そやけど、そのあさりうどん、海の味がしたわ。しょっぱくってな、醤油辛いんとちがうで。しおの味がするんよ。しょっぱいの塩ちゃうで。いや、しょっぱいねんけどな。海や。海の……白い波が立つ、その潮の味。

 あさりて、海のもんやか川のもんやかわからんけど、あないにいーい香りがするもんやて、ワシそん時まで知らなんだ。

 こぶとかつおと…みりんも入っとったかな。ちょっと甘みもあったわ。

 あわてて箸使こてすすったら、うどんもで。

 こない美味いもんあるんかとびっくりしてな。

 ほんで、美味いだけ違うくて、深いんよな。

 いままで食べたモン、全部思い出したみたいに、ずーんと沁みるいうか。

 あんなんなったん初めてやったわ。

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