告白

「奈央ー。今度試合あるから見に来ない?」


「どうしたの突然?」


あなたが試合を見に来てほしいなんて言うのは初めてのことだった。


「いやぁ。先輩たちも引退してやっとスタメンで試合に出られそうなんだよ。スタメンで出るなんて久々だからさ、奈央がいるって思えば少しは緊張が紛れるかなって」


「えー。どうしよっかな」


あなたの頼みなら私は断らないし、あなたが私を頼りに、心の支えにしてくれていることが何よりもうれしい。けどそんなことを思っている様子を出さないように私は一度悩むそぶりを見せる。


「お願い!」


「まぁいいけどね。それでその試合はいつなの?」


「今週末」


「へぇ今週末…って明日じゃない!」


今日は金曜日。わざわざ明日という言い方をせずに、今週末と言ったのは流石に前日に聞くのは気が引けているからだろうか。


「うん」


「はぁ。私にだって予定ってものがあるんだからあんまり直前に言わないでよね。たまたま明日は空いてるからいいけどさ」


土曜日の予定を金曜日にたてるこの計画性のなさ。


「奈央なら来てくれるって信じてるからね」


あなたはどや顔でそういった。


「じゃあ明日よろしくね。10時から体育館でだからね」


あなたはそう言い残して部活へ向かった。



翌日の土曜日。私は一人学校に来て体育館に向かうと、玄関までバレー部の声が響いてきた。

体育館に入ると私のほかに保護者の方々、そして数十人の観客が試合開始の時を待っていた。対戦相手もこっちも試合前に円陣を組んで声を出している。あまりの迫力に思わずのけぞりそうになった。

それが終ると整列し、あいさつなどをしたら審判の笛の音が体育館に鳴り響いた。

正直試合はあんまりよく分からなかった。昨日帰ってから今日までの間に、授業で習ったバレーの知識に付け焼刃程度の知識を追加したが、あまり覚えれたとは言い難い。けれどあなたがスパイクを決めた時、サービスエースを決めた時すごくカッコよくて惚れ直してしまった。

恐らく試合終盤。観客席に目を向けたあなたと目が合った。私は目が合うと小さく手を振った。するとあなたは悲しげに笑った。


「香澄…?」


相手のサーブを味方が上手くレシーブして、セッターから綺麗なトスがあなたに上がった。

その時私は見た。あなたが飛んだ瞬間、背中に大きな翼を。

そして私は気づいた。あなたは私があなたを好きだということに気づいたことに。そしてきっと私は振られるであろうことに。


試合後私は玄関であなたを待った。私もあなたに言いたいことがある。そしてあなたも私に言いたいことがあるだろうから。

あなたは一人だけ先に玄関に来て、まっすぐ私を見る。


「バレー部のみんなはいいの?」


「うん。今日は奈央の方が大切」


私の方が大切…か。その言葉を常にあなたに思っていてほしかった。


「公園に行こう」


「わかった」


玄関で話して後からくるバレー部のみんなと鉢合わせたら気まずいから、とりあえず場所を公園に移した。学校から公園までの道中あなたとの間に一切会話はなかった。


公園につき、ベンチに二人で腰掛ける。

しかしあなたはすぐに話を切り出さなかった。何を言うかは決まっているけど、どういえばいいのかが決まっていないのだろう。

なら、私がその言葉を引き出す。つらくはない。いつかこうなるって分かってたから。それが分かってたけど私はあなたに恋をした。


「香澄」


私はベンチから立ち上がってあなたを正面から見据える。


「な、なに」


あなたは驚いたように目を顔をあげる。そして私とまっすぐ目が合った。あなたの目は震えて、私の手も震えている。きっとこれは武者震い。伝えられるはずのなかった思いを伝えられる喜び。


「私は」


そこで一息つく。わかっていても、直接言葉にしなければきっとこのままでいられる。その選択肢を考えていたあなたの邪魔をする一言。悪いとは思わない。だって恋は勝手にするものだ。気付いたら堕ちているものだ。あなたからしたら迷惑だけど、そんなこと知ったことか。相手の迷惑を考えて恋なんてできない。


「私はあなたが好きです」


親友としてじゃなく、恋愛相手として。言葉にしては言わないが香澄には届いている。そんな言葉を付けたくなかった私のわがまま。あなたに思いを伝える時が来たらこれだけを言おうと心に決めていた。

私のまっすぐな思いに香澄は腹をくくったのか、瞳の震えは消えていた。


「ごめん」


短い拒絶。しかしそう言った香澄の瞳からは涙がこぼれていた。


「うん」


「私もなおのことは好き」


「うん」


「だけどきっと私の好きと奈央の好きは違う」


「うん」


「だから、ごめん」


一言一言口にするたびに、香澄の瞳からさらに大粒の涙が流れる。私は相槌だけ打って香澄に応える。


「けど私たち友達だよね?」


「うん」


「私たち親友だよね?」


「うん」


香澄がそうありたいなら。


「次の学校で会ったら今まで見たいに話せるよね?」


「うん」


大丈夫。きっとできる。香澄への思いはここでけりをつけたんだから。


「私はできるよ。けど香澄にもできるかな」


「できるかできないかじゃないよ。私は奈央と親友でいたいからやるんだよ」


「そっか」


それから私たちはいつものように話した。学校のこと、さっきの試合のこと。そしてあたりが暗くなってきた


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


「そうだね」


「バイバイ」


「またね」


別れた後私は泣いた。私はえらい。香澄の前で泣かなかった。私は恋心と最高の親友を今なくしたんだ。きっと香澄も分かっていた。学校で会っても今までと同じようにはできないって。だからさっきのが最後のいつも通り。今までと同じようにはきっといられない。それが分かっていたけど、私は選んだ。ならあとは前に進むしかない。







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