テスト明け
「テストお疲れさまー!」
「お疲れ様」
テストが明けてテスト返却も終わり、私は香澄とカラオケに来ていた。
「いやぁ。奈央様様だねぇ。今回も奈央のおかげで赤点回避。いつもありがとうございます!今日は私の奢りだからね。是非楽しんでいってください」
「ただ香澄が来たかっただけじゃないの?」
「それもあるけど。奈央にお礼したかったのも本当だよ?」
「どうだか」
お礼という形で来てはいるが、絶対何かしら裏がある。いつもテスト勉強のお礼は帰り道の店で何か奢る程度だったのに、今回は初めてカラオケに来ている。何かあると考える方が普通だろう。まぁ嬉しいからいいんだけど。
「それで相談なんですが」
ほらきた。
「実は今度咲耶君たちと一緒にカラオケに来る約束をしてまして。そのための特訓に付き合っていただけたらなぁと思うのですが」
咲耶君というのは香澄の好きなバレー部の男の子だ。その名前を聞いて少し心がズキっとした。それに嬉しそうに語るあなたの顔を見て、咲耶君に嫉妬したことは内緒だ。
「まぁ別にカラオケに来たら歌うだけなんだからとりあえず歌ってみたら?別に私はプロの歌手でも、ボイストレーナーでもないから教えられることなんてないと思うけど」
「そうなんだけどさぁ。とりあえず私が歌っていいと思った曲を教えて?やっぱ点数だけじゃなくて実際に人にどう聞こえるかって大事だと思うしさ。そしてそれを磨いて当日歌うからさ」
「まぁそれくらいならいいけど」
「よし。じゃあ早速歌おう!」
香澄に合ってない曲をわざと進めて咲耶君にガッカリさせようかなとも思ったけど、あんなに楽しみにしているあなたの顔を見たらそんな真似は出来なかった。
「やっぱ香澄には元気な曲が似合うよ」
「やっぱり?私もそうだと思ったんだよねー。なんかゆったりとした曲は焦ったくて合わないのかも」
「せっかちだもんね」
「そうそう。とりあえずじゃあそっちの方向を練習するとして、一回休憩。流石に疲れた」
「連続で何曲も歌ったらそりぁそうだよ」
「奈央も歌ったら?」
「そうだね」
香澄から差し出された端末を受け取って曲を探す。いつもは言葉に出来ない思いを曲に乗せて歌ういい機会だ。あなたに伝わらなくてもいい。けど言いたい思いがある。もはや告白をしているんじゃないかというくらい感情を込める。
私が歌い終えると、あなたは大きな拍手をしてくれた。
「奈央、歌うまぁ。それに、なんか本当に告白されてる気持ちになっちゃった」
「付き合っちゃう?」
「是非」
と言って2人とも同時に笑う。あなたのは本当の笑い。私のは………。
「いやぁでも本当に歌上手いね。こんなに上手いなんて知らなかったよ」
「歌う機会がそんなにないからね」
「くっそぉ。そんなに上手いなら言ってくれれば良かったのに。奈央ともっとカラオケに来ておけば良かった」
「自分から上手いなんていうわけないじゃん。それにちょっと待って。それは私が歌下手だと思ってたってことかな?」
「いや、そんなことはない。…はず」
「はずって何よ」
と言ってまた2人笑う。
楽しい。2人だけの時間。咲耶君のための時間だとしても、あなたと過ごせる時間はいつだって、どんな理由だって私の宝物だ。
「そろそろ喉復活してきた?」
「うん。よーしこれからまた私のターンだ。どんどん歌っていくよー!」
似たような曲を歌って、なんとか上手くなろうという思いが伝わってくる。あなたのことだからきっと咲耶君には完璧に近いあなたを作って彼に見せるだろう。だからこんなに失敗している、挑戦しているあなたを見られるのは私だけ。
彼はもしかしたらこれから先私の知らないあなたを知っていくのかも知れない。けれど今は彼が知らないあなたを私は知っている。それが少し嬉しくて少し寂しい。
「どうだった?」
歌い終えた香澄が少し呼吸を荒げながら聞いてくる。
「うん。良くなってると思うよ。点数も上がってきてるし」
カラオケの点数ってこんなにすぐ上がるものなんだろうか。
「ちょうど喉もあったまってきてるし、まだまだいくよー!」
「がんばれー」
ただ香澄の喉があったまってきたから点数が上がってきただけのようだ。いや、10曲以上歌ってやっとあったまる喉って一体どんな喉なんだ。
「はぁー!楽しかった」
「最後結局色んな曲歌ってたね」
「いやぁ練習も大事だけどさ、奈央と楽しむのも大事だしね」
その一言で心が少し跳ねた。
「奈央も楽しかった?8割くらい私が歌ってたけど」
「大丈夫。私も楽しかったよ。それより彼の前でいいところ、見せられるといいね」
「うん。そのために付き合ってもらったんだから、頑張ります。でも、それとは別にさ」
「うん?」
「また2人でカラオケこようね」
あなたは今日一番の笑顔を私に向ける。
頬が熱い。ずるい。彼のためという理由で付き合っていたから楽しかったのも本当だけど、少し寂しかったのも本当だ。
けれどあなたのその笑顔を見ればそんな気持ちは吹っ飛んでしまう。
「そうだね」
顔が赤くなっているのをバレないように顔を背けて、私はそう言った。
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