叶わぬ恋と友情

春ノ夜

テスト勉強

あなたが私のことを知らなくても私はあなたのことを知っている。

君は短い髪が好きで、裸眼の人が好きで、よく食べる人が好きで、勉強より運動ができる人が好きで、活発な男の子が好き。

私はそんな君の好みとは逆な人。髪が長くて、眼鏡をかけていて、小食で、運動は苦手で、その代わりに勉強は得意で、時間があれば読書をしたい女の子。


私はあなたのことが大好きだけどこの気持ちを伝えたところで迷惑なのはわかっている。だから私はあなたの隣にいる。この気持ちは永遠に伝えられないままで。


「奈央?どうしたの?」


ぼーっとしていた私の顔を覗き込んでくる私の好きな人。


「何でもないよ。少し眠くなってきただけ」


「確かに。ちょうどこの時期は涼しくなってきて気持ちいいもんね。私も授業中よく眠くなっちゃう」


「香澄は寝すぎだよ。授業の半分以上寝てるんじゃない?」


「そこまでは寝てないよ!寝てたとしても三分の一くらいだよ」


「そもそも寝ないようにしなさいよ」


「気を付けてるつもりなんだけどなぁ。でも部活頑張ってるからしょうがない」


「今は部活ないでしょ」


「そうなんだけどさぁ」


「無駄話してる場合なのかな?そんな授業中寝ている誰かさんのために私はわざわざ放課後残って勉強を教えているんだけど。無駄話してる暇があるなら私は帰ろうかな」


「すいませんでした。ちゃんと勉強するので帰らないでください」


そういった香澄はペンを走らせる。しかしそのペンはすぐに止まる。問題を解こうと必死になる香澄を見て考える。言われなくても帰るつもりはない。香澄と二人きりになれるこの大事な時間を自ら手放すなんてまねは絶対にしない。きっとあなたにとって私はきっと永遠に友達のまま。いや。いつかは友達とすら思われなくなって、ただの知り合いになって、いつかは忘れられてしまうのだろう。

それでもいい。いまあなたの隣にいられるのならそれでも。そう思う気持ちもあるが、忘れないでほしい。あなたの特別になりたいって気持ちも確かに私の中にある。

だけどきっと私はあなたの特別にはなれない。それは私が女の子だから。でもそもそも女の子じゃなかったらあなたの隣にすらいられなかったであろうと思うと女の子でよかったと思う。

あなたには好きな男の子がいる。同じバレー部の男の子。好きになった時、私に彼のことが好きかもしれないといったあなたの恥ずかしそうな顔は今でも忘れられない。

その日からあなたは部活に力を入れ始めた。きっと彼にいいところを見せたくて努力しているのだろう。そのせいで授業で寝ることが増えたが、そのおかげで私はあなたといられるこの時間を過ごせている。

彼が羨ましいが、彼のおかげでこの時間が得られていることには感謝している。

彼と付き合ったりしたらこんな時間は過ごせなくなるのかなって考えると、この一瞬一秒が大切なものに思える。

必死に問題を解くあなたの顔を正面から眺めれる。これは私だけの特権。

いつか誰かがこの立場になるとしても今は私の特等席。

どうしても分からなかったのか顔を上げて私に助けを求める香澄と目が合う。


「私をじっと見つめてどうしたの?」


「解けなくて悩んでる様子が面白くて」


「えー。そんなに面白い?」


「うん」


「バレーの方が面白いよ」


「香澄にとってはそうかもね」


「いやほんとに。スパイク打つ瞬間とかさ、背中に翼が生えた気がして全てから解き放たれた気がするんだよね」


「今はその瞬間じゃないので勉強にしばられてちょうだい。その様子が今一番面白いから」


「まぁ奈央がいいならいいんだけどさ」


「いいんだ」


「実際わかんないし、どうしようもないからね。教えてもらっている身としては多少の面白さを提供するのはやぶさかではないよ。ところで奈央君」


「ん?」


「ここが分からないんですが」


その問題はさっきのところから一問も進んでいなかった。


「しょうがないなぁ」


この時間がいつか終わるとしても、あなたのために過ごせるこの時間が今何より大切だよ。









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