第4話 進めジョウハ通り 魔法を覚えて

 ゴトッ…ゴトッ…

馬車は小さく揺れ進む…ヒネズミ町から次の町、スイギュー町を目指して…

「ムスビ…?」

「…」

「さっきから何やってるの…?」

ムスビは持ってきたマジックボックスに夢中だった。最初はミレアも気にしてなかったがふと見たらマジックボッ クスはバラバラに分解されていた。マジックボックスは単なる木や鉄で出来た箱ではなく、その一面一面にマジックボックスの効果を引き出す仕掛けがあるからマジックボックスを分解する事も全く分からないことではない…ムスビが魔法に詳しい人間なら…

(あなたが分解したって意味ないでしょ…)

分解されたマジックボックス…黒の外面の中には魔法陣がそれぞれ書かれていたがミレアはそれが何を意味するものだったのかは分からなかった…

「…取り敢えず安心」

「安心?」

「…箱の術式を見たんだ」

「……え?」

「ムスビ、あなた魔法知らないんじゃ…(知っていれば今まで使わなかった理由はないし、そもそもお友達のミサキちゃんはマジックボックス見るまで魔法そのものを信じてなかったのに…)」

「ううんミレアちゃん、少しややこしいけど多分私達、魔法の知識は前から知っているの」

「ど、どういう事…?」

「実は前に魔法について書いてある本をムスビちゃんのおばあさんと一緒に見てたんだよ。でもその後自分達で試してもダメだったし、使ってる人も見たことなかったから偽物なのかなって思ってたの」

「へぇ…だから魔法が存在しないと思ってたのね」

「おばあさんも本を読んではくれたけど魔法なんて使ってはなかったし。あの本も絵本みたいなものできっと子供を喜ばせる為のものかなって…」

「まあ、魔法についての理由は分かったけど…それにしたって前に図鑑で見ただけで本当に分かるものなの?」

「…取り敢えずあったら嫌な魔法は使われてなかった…仕組みは半分だけしか分からなかったが」

(え、魔導具の術式を…?本当にその魔法の図鑑に載っている内容で半分も分かったの…?)

「ん?図鑑…?魔法の…?」

ミレアはその図鑑とやらがいわゆる魔導書…市場価格が一冊百万超えの値段がついても不思議じゃない、そんな代物ではないかと思ったのであった…

「と、ところで…その本って今はどうなったの…?」

「リュックの中」

「!?ちょ、ちょっと見てもいいかしら!?」

ムスビは頷く。

ミレアはリュックを開けて一つの黒い本を見つけたのだった…

「懐かしいなぁ、それだよミレアちゃん」

ミレアは本の表紙を見た。

『魔法術式図鑑 基本術・秘術・禁術』

そして表紙の下の方に小さく試作魔導書と書かれていた…

(……こ、これやっぱ魔導書じゃない!そ、それに図鑑ってあるけど基本術はいいとして、何よ秘術・禁術って!?これ相当ヤバイやつなんじゃ…!?)

(あれ…?これ売れば普通に船代とか心配しなくていいんじゃ…ってダメダメこれはいわばムスビのおばあさんの形見なのよ…旅のためなんかに売れないわ…というか禁術の本とか売ったら捕まりそうだわ…)

ミレアは魔導書についてはそっと胸にしまったのだった…が…

(ん?でもこれ持ってても捕まるんじゃ…)

そしてしばらく考えていたが…

「でも信じてないって言った割にその後二人で丸暗記とかしてたんだけどね…」

「…やったな」

「…」

思考停止した彼女は魔導書を何事もなかったようにリュックに戻したのだった…

(私は何も見なかった…危険な形見なんて見なかった…)

「…」

ミレアが魔導書を見てる間もムスビは、カチャカチャ鳴らしながら分解したマジックボックスをいじっていた。

 日が昇って来たところでお昼の休憩となった。ヒネズミ町とスイギュー町を結ぶジョウハ通り…その途中にある湖近くで休憩をする事にした。

「ねえ?さっきの事になるんだけど良い?」

「さっきのって…魔法の事?」

「そうそう、その図鑑で見たのが魔法って分かったのに魔法が使えないってどういう事なの…?確かに使えないのもあって不思議じゃないと思うけど、おばあさんの話の頃より成長してるんだから一個ぐらい使えててもおかしくなさそうなのに…」

「いや実は…本当は魔法があるって分かった後、二人をビックリさせようと魔法使えないかこっそり試したんだけど何も起きなかったの…ムスビちゃんも使ってる様子無かったし、使えなかったんだろうなって…」

「そ、そうだったのね」

(お、おかしいわね…。前に確か二人と変わらないぐらいの子供が魔法を使ってるの見たことあったのだけど…。魔法を使えないのは知る機会がなかった人間だと思ってたんだけど違うのかしら…。二人共魔導書の内容丸暗記までしてるのになんで…)

(も、もしかして二人共魔法の才能無しなんて嫌な奇跡起きてないわよね…!?)

(ム、ムスビ!あなたはきっと使えるでしょ!使えるか試すのただ忘れてただけよね!?)

「…俺もこっそり試したけど使えなかった」

「ムスビちゃんも無理だったんだね」

『ガーンッ!!』

(な、なんて事なの…これでは宝の持ち腐れよ………そ、そうだわ!)

「ねえ、今度私にもどんなのがあるか教えて、ね?」

「うん、いいよ」

「ありがとう、私も魔法が使えるかどうか試してみたくって…」

(こ、これで私が魔法を使えさえすれば…)

ミサキに教えを乞うミレア…。その間に結びは昼食の準備を進めていたのだった。

 そして食事の時間…

ミレアとミサキは驚いていた…何故なら今日はリンゴにパン、そしてサラダ、ハチミツを好きにかけて食べるぐらい…買った物で言えばそれらが出るものだと思っていたがそれに追加でおにぎりと漬物、そしてコーンスープが並んでいた…

「あ、あの…」

「ムスビさんこれは…?」

「足りなさそうだから追加で作った」

「い、いやそれは嬉しいけど…」

「買い物の時、ムスビこういうの買ってなかったような…」

「…旅の食料は最初から鞄の一つにしまってた…これはそれに入ってた物」

「そ、そうだったんだ…」

「で、でも良かったの…?鞄にはそんなに入らないだろうからこれだって貴重な食料でしょうに…」

「…取り敢えず一ヶ月分あるから心配はまだ要らないはず」

「へえ、それは凄いね。一ヶげ…?」

「ゴメン、もう一回良い?」

「…鞄に一ヶ月分の食料いれて持ち歩いてた」

ミレア・ミサキ「………は?」

二人共一瞬固まってしまった。

「あ、あの鞄あの軽さでそんなに入ってたの!?」

「というか入るわけ無いでしょ!?マジックボックスじゃないんだ…か…ら…?」

(ま、まさか…)

「…おばあちゃんの手作り鞄だから大丈夫」

(おばあちゃん何者だよ…!)

おじいちゃんの地図の時もそうだがムスビは当たり前のようにそれを話すのに対して二人は驚きで呆気に取られるのだった…

そして二人共ムスビに鞄の中を見させてもらい本当に食料が大量にある事を確認したのだった。

「ほ、本当にあるだなんて…」

「す、凄いね…」

ミレア・ミサキ「と、というか…(こんなのあるなら最初から言ってよ…)」

二人共その言葉を口に出すことは留めておいた。

「…飯、冷めるから食べて」

その後二人は食事のために元の場所に戻り、

ミレア・ミサキ「…そ、そうだね…いただきます」「お、美味しい~~!!」

ムスビはそこまでの物出してないと思いながら幸せそうに食べる二人を眺めて食事を進めていたのだった。

「ごちそうさまでした」

最初は驚きでいっぱいな食事だったが皆満足したのだった。そして片付けを始めようとするムスビに二人は近寄り…

「そ、その」

「ま、またお料理頼みたいな~なんて…」

「…いいよ」

ミサキ・ミレア「よ、良かった(い、言えない…料理がまるで出来ないだなんて…)」

ミレア(私からのプレゼントはどれも喜んで受け取ってくれるショコラですらお料理だけは思いっきり嫌がられたなんて言えない…)

ミサキ(前に作ったお料理食べたら皆三日間寝込んだなんて恥ずかしくて言えないよ…)

片付けを皆で済ませた後少し休憩したら再び馬車を進めるのであった。

「そう言えば二人共何歳なの?私は十二歳だけど」

ミレアはまだ二人について色々知らないと思い改めて少し話して聞こうと思ったのだった。

「私もムスビちゃんも十歳だよ」

「そ、そうなんだ…」

ミレアは話し始めたは良いものの何か話題が無いか考えていた。自分やミサキの今の状況を考えたら昔話なんてしても暗い気持ちになるだろうし、下手に夢や目標なんて明るい話題なんて出しても気乗りしないんじゃないかと考え始め、どうしたものかと困ってしまうのだった。

「…ミレアさっき魔法を教えてと言ってたな」

「あ、ああそうだった。ミサキちゃん、少しずつ教えてもらって良い?」

「うん、いいよ」

(ナイス、ムスビ)

「最初は何からが良いかな?」

「う~ん、ミサキちゃんが覚えるの簡単だったものからがいいかな…」

紙とペンを用意して準備完了である。

「そうだね~う~ん…。……そうだ!これなんか覚えやすいよきっと!」

そう言ってミサキはペンで大きな円を描いてその中に星形で線を結んでいた。そして、円と星の間にある小さいスペースにさらに小さく円、その中に星形を描く。これを繰り返し三十一の星が描かれたのだった。そして、一番端の円の周り、つまり最初の一番大きい円の周りに文字列を書き始めた。

『降り注ぐ夜の明かりよ。今、形を持ってこの地に舞い降りよ』

と書かれていた。

「えっとこれって何の魔法なの?」

ミレアは魔法は使えない。それでも魔法はそれが何を意味するのかを具体的にイメージ出来なければならない。そういった魔法の一般的な事は少しだけだが何となくは分かっている。故に聞いて確認したが…

「えっとね、使うと辺り一帯に隕石を描いた星の数だけ降らせる魔法だよ」

「………え?」

「名前は流星群って言ってね、ムスビちゃんのおばあさんが楽に描けるし強力って、それに中の魔法陣にも重ねて呪文を書いたら威力も上がるって言ってたよ」

「ま、待ってミサキちゃん…やっぱり他の教えてもらっても良い?」

「でもこれ覚えやすいやつだよ?」

「い、いや!私にはまだ早いわ!そ、そうだ炎の魔法なんて教えてほしいわ~!」

「そ、そう?」

ミレアの中では本来魔法とは火や水、風なんかを発生させる、しかもそれは木の葉を燃やす、コップに注ぐ、目の前の空き瓶を倒す。そんなレベルから始まり段々と上達するもの…。なのに、落ちたらヤバい隕石、それをさっき描いたのだけで約三十も降らせる…初心者がそんな魔法いきなり出来る訳が無いのである…と言うかそんなの出来ても使わない…。

「な、なるべく最初はショボいやつからお願いね…」

「えっとじゃあこんな感じかな」

ミサキはさっきより小さめの円を描いて中に六芒星を描いた。六芒星の中には一つ大きく炎を模した形が描かれていた。そして、さっきと同様に魔法陣には文字が書かれていた。

『火よ燃えよ』

「これは小さな火を起こすだけの魔法だよ。一応この水桶を近くに置いて、っと」

「えーと、ここは…」

「あくまで真ん中の火は自分が一番イメージしやすいのを描ければ良いらしいよ」

「そうなのね。じゃあこれで」

ミレアは魔法陣を描き終わった。

最初の数秒間は何も起こっていなかったが…

「あれ、失敗したのかしら?」

「う~ん、やり方が違うのかな…」

「熱っ!え?」

ミレアの魔法陣を描いた紙が燃えていた。

「ミレアちゃん!?は、早く水桶に!」

『ジュッ…』

火が燃え広がないように慌てて消火した。

「ミレアちゃん、火傷大丈夫?肌ひどくなってない?」

「大丈夫よ弱い火だったし、すぐ消したから。それに私は吸血鬼なのよ、火傷したってすぐ治るわ」

確かにパッと見た感じそこまでひどいものではなかった。ただそれでも水でミレアの手を冷やすミサキであった。

「ふぅ、驚いたわね。まさかいきなり燃え出すなんて…ミサキちゃんの馬車が燃えなくて良かったわ」

「あはは、ミレアちゃんも無事で良かったよ。でも火の魔法は危ないから馬車じゃ出来ないね…」

「そうね、それにローブも燃えなくて良かったわ」

ミレアは黒いローブをずっと着ている。さっきの火の魔法の時もそのローブを身に纏っていた。

「ずっと着てるそのローブお気に入りなの?」

「ええ、これは私が十歳になる時にね母から貰ったのよ。先祖代々からの風習でね自分の子に例え日が昇っていても、日に焼かれずに安全に外を出られる様、願いを込めて作られるものなのよ。まあ、盗賊に追われてる間に少しボロボロになっちゃったけど…」

「じゃあ、それはミレアちゃんにとっての宝物だね」

「そうね…大事なものは殆ど奪われたまま置いてきてしまったけれど…何とかこれだけはまだ残っているわ…」

「それからずっとあの盗賊達に追われてたんだもんね…」

「そうね…、今思い返してもちょっと辛いわ…。何処までもしつこく追ってきて…。ムスビに助けられるまで終わらない悪夢の中に居るみたいだった…」

(うぅ、しまった…。いつの間にかミレアちゃんに辛い記憶掘り返す感じに…)

「でも…思い返してみると…やっぱり私のせいなのかな…ミサキちゃん達の村が襲われたのは…」

「え?そんなことないよ、何言ってるのミレアちゃん?」

「ミサキちゃんが居た村を襲った盗賊達は本来別の島の盗賊よ…。おそらく私を追っていた盗賊と同じ島の盗賊…。それなのにこの島に来て人攫いや金品の盗みをしているなんて…私がここの島へ逃げたからわざわざ追って来たのよ…そしてあいつらはミサキちゃんの村にまで好き勝手非道な真似をしたのよ多分…」

ミレアの言っている事はあくまでも推測である…だが、確かに隣の島から盗賊が来て、そして島の中心部に近い村まで来るなんてミレアが逃げてきた場所だから以外の理由は見つからなかった…だが…

「…違う。盗賊自体が悪いのだからミレアは気にする必要はない」

「そうだよミレアちゃん!そんなの自分の責任だなんて思わなくたって」

「で、でも…」

「…そもそも大元のセブンスとか言う奴が悪いし、盗賊に好き勝手にやられて被害がある点で言えば、盗賊を途中で捕まえる事も出来なかった島の警備隊とかも役に立っていないんだ。お前のせいだなんて考えなくていい」

「う、うん…」

「…それにかえって良い機会」

「え?良い機会って…」

「…今回は偶々ミレア達家族を襲ったりミサキの村を襲ったが今までだってそういう所はあったはず。…今まで知らなかっただけでどこかが犠牲に。…それの元凶を叩き潰す良いきっかけ」

ミレアは少し呆気に取られていた。正直捕まった妹達を何とか隙をついて助ける…それで上出来、目指せる限界だと思っていたのにムスビは元凶と言えるセブンス・グリドをどうにかするつもりなのである。

「そうだね…皆助けて安心して元に戻れるようにしないとね」

「でもどうやって…セブンス家は正直盗賊や魔獣だけじゃない、自分の国だって味方につけてるわよ…」

 セブンス家は国の中枢から貿易業、生産業、軍事、国中の人間の掌握…ハッキリ言ってシュガー島においてセブンス家の与える影響は国を左右する程大きい。

「ミレアちゃん…」

(きっと知ってるんだ…盗賊達よりも恐ろしい元凶達を…だから私達以上に不安や恐怖を今も感じて…)

ミレアは出会って間もないが二人を信頼している…友達となった二人との出会い…それに逃げてしまいたい気持ちがあった。過去を投げ出して…だが…

(お姉ちゃん…)

その言葉がミレアを留めた…

(いや…ダメよ…今さらよね…逃げれば良かったのよムスビに助けて貰った時に…逃げれるなら…忘れられるなら…姉である事を捨てられるなら…!)

「…ダメで元々、そんなことは俺も分かっている。だがそれでも前向きに生きたい…」

「そうね…いけないわね決意なんてとっくに決まってると思ったのに…」

ミレア…彼女はまだ何処かで自分は逃げる立場である、自分はあいつらの手の平で遊ばれているだけ…そんな気持ちが抜けきっていなかった。だがそんな自分とさよならしなければならない。でなければ妹を助けられない。

「ミサキちゃん…」

「どうしたの?」

「さっきはごめんね、ちょっと弱気になってたみたい…この中で一番お姉ちゃんなのに情けない…でももう迷わないわ。ミサキちゃん、次は水の魔法を教えて」

「う、うん!何だか少し元気出て良かった。えっとこれを真似してみて」

(ありがとうミサキちゃん…ありがとうムスビ…)

正直に言えば、ムスビは無謀としか言いようがないだろう。当然である。敵は個人が相手にできるレベルではない。ましてや子供三人ではとても無理難題である。他人からしたらバカとしか言えないかもしれない。しかもムスビに関しては一人で森で暮らしている分にはまるで困らないにも関わらずだ。だが…、そんなバカ者だからこそ通れる道を今三人は進んでいるのかもしれない。


 そして一行がスイギュー町を目指してジョウハ通りを進んで二日目の昼…

「吹きすさべ風よ」

ミレアは手をかざした。

今ミレアは風魔法の練習をしていた。ミレアの魔法は軽いそよ風のようであった。

「涼しいね~この魔法~」

暑い夏にピッタリの涼しさである。

「…」

ムスビは黙っていたが羨ましそうにミサキ達の方をチラチラ見ていた。

「……ッ!…ハァ…ハァ」

ミレアの魔法は途中で解け、魔法を使っていた当の本人は疲労している様子だった。

「ミレアちゃんすごい!今の五分以上続いてたよ!」

当初は一分も保てないレベルだったが、日を跨いで練習を続けていたら少しずつ伸びていった。

「ハァ…ハァ…、でもこれじゃ実践にはまるで使えないわね…まだまだ練習あるのみよ…!」

「さ、流石に少し休もうよ。起きてからずっと練習してちゃ疲れて倒れちゃうよ」

「そうね…悔しいけど…今の私なんかじゃこれが精一杯ね」

 だがミレアの進歩は凄まじかった。ただ単に使っている時間が伸びている訳ではない。ミレアは魔法を使う上での壁を越えようとしていた…それは魔法陣と呪文を当初描いて魔法を使っていた形から、呪文を唱えて魔法陣を描く形。呪文の描く手間を省いたのである。また、紙に描いてた魔法陣…それを手に描くことで手から風が放たれる形に変わっていた。ミレアが片っ端から簡単なレベルの魔法を使えるか試し、その中で魔法の放つ方法を変える工夫を覚えたのである。だが…

(魔法を使えるのは嬉しいけど…でもまだちょっと違うわよね…)

ミレアは納得していなかった。魔法の威力、持続時間等のレベルが低いことではない。

わざわざ魔法陣を紙や手に描いて魔法を使う…明らかにミレアのイメージより劣る使い勝手であり、これでは魔法が使えてもそこまで役に立つともミレアには思えなかった。

(しかもこれじゃ大きい魔法陣を書けないから魔法もたかが知れてるわね…)

魔法陣を毎回描いている中で大きさのばらつきが魔法の規模と体力の消耗に影響している事もミレアは学んだ。おそらく二メートル程の魔法陣ならミサキを吹っ飛ばす事も出来る威力であり、ミレアも一回ぐらいなら無理なく使える…だが現状の手に描いてる方法じゃ弱々しい風がちょっと長い間当てられる程度にしかならない。

少しずつ進んではいても山積みとなっていく課題にミレアは少しため息をついた。


 ジョウハ通りを進んで既に半分以上は道なりに進んだところで一行は休憩していた。

小さな川が近くにあり、ムスビは釣り、ミサキは馬にご飯あげ、ミレアは魔法の練習。

一行はそれぞれの事をしながらたまに話しかけていた。

「………ッ!ハァ…ハァ…ねえ、二人共?ムスビのおばあさんが魔法使うところ本当に見た事は無かったの?」

「私はないよ」

「…俺もない」

「そう…じゃあ魔法は何が大事だとかも言ってなかった?」

「…イメージ」

「それは…」

「…そしてイメージをその通りにするための知識」

「ミレアちゃん何か魔法で気になる事があるの?」

「ええ、魔法陣無しで魔法を使えたらなあ…って」

「でも魔法陣無しで使えるの?」

「実際に使っている人は見たことないから分からないけど、もし私のイメージが合っているなら魔法は使う時に呪文は唱えても魔法陣を描くなんてしないわ…」

「確かにその方が使う時便利だね…」

「でしょ?でも実際にそうやって使っている人でも見ないとどうしようも…」

「…魔法陣作ったら?」

「だから魔法陣を無くしたいって話…、いえ…でも今は魔法陣を書きながらやるべきかしら…」

「…!そうだよ、ミレアちゃん!作ろうよ魔法陣!」

馬の世話を終えたミサキがミレアの方へ向かってそう言った。

「ど、どうしたの?もしかして魔法陣のストックを紙に描いとくって事…?」

「ううん、魔法陣は描かないで作ろうよ」

「ど、どういうこと?」

「目の前に魔法陣をミレアちゃんが作ったら、魔法出来そうじゃない?」

「そ、そんなのどうやって…目の前に壁でも無ければ魔法陣の形自体出来っこない上に、空に魔法陣を描く魔法があってもそれを使うには魔法陣が必要なのよ…」

「…いや、ある」

「え…?」

「…実現する。…ミサキ、あの本のおまけページの最初から真ん中辺りまでをミレアに教えてあげて」

「うん、分かった」

ミサキはあの禍々しい魔導書をリュックから取り出してミレアの方へ行った。

「おまけページ…?ってまさかそれ…」

さっきの魔導書の最後の方のページを開いていた。

ミサキ「ちょっと待ってね、えっとこれかな?」

 おまけページ

魔法…それを使うには魔法陣と呪文が必要…魔法は一人の術者から様々な形で放たれる…それは魔力を魔法陣を介して自分が望む魔法を使える形に変えている為…

呪文はそのタイミングを決めるもの…声、文字を始めの合図として唱える…

魔法の源…それは魔力と呼ばれているが…

本来は人間の潜在エネルギーである…潜在エネルギーの使い道の一つとして魔法がある…

これを理解しないと魔法のレベルも低いまま…幅も広がらない…

潜在エネルギーを変化させる魔法陣と呪文の知識…そしてエネルギーが体から発せられ火や水へと変化するイメージが出来て魔法は成立する…

潜在エネルギーを使いこなす事は難しい…だが魔法は知識とイメージによって自分の潜在エネルギーを基本的に誰でも使いこなせる可能性がある…


「こんな感じだね」

「確かに魔法について少し知れたし、二人が言いたい事も何となく分かったわ…」

おそらく潜在エネルギーの使い方次第では魔法陣にもなり得るものだと二人は考えていたのだろうとミレアは思った…が…

「良かったこれで何とか…」

「無理よ…肝心の潜在エネルギーをどうすれば魔法陣の形に出来るか、潜在エネルギーをどう扱えば良いか分からないわ…」

「…いや出来る、イメージすれば良い」

「イメージ…?」

「うん、魔法は自分のイメージを潜在エネルギーの変化で実際に起こすけど。それにはエネルギーから火や水に変えるのに魔法陣が必要ではあるけど、形だけの変化なら、魔法陣の形の鮮明なイメージができれば何とか出来そうじゃない?」

「そ、そうかしら」

「ちょっと試してみようよ」

 実際に試してみたら成功した。八回程効果無しで諦めかけていたが、同じ魔法陣のイメージをしていたら何とか形になった。潜在エネルギーと言うものは目に見えないものでありそれが本当に魔法陣の形になっているのかと言う疑いが失敗の原因であった。初めて放たれた自作魔法陣での風魔法。それは目の前の川を通り抜け、向こう側の木へ当たった。魔法が成功した証拠に木からいくつもの葉が舞い降りていた。

「ハァ…ハァ…!やった…!」

「やったねミレアちゃん!今の凄かったよ!」

「ハァ…ハァ…ハハハ、でももう疲れちゃった」

ミレアその場で力が抜けた様に座り込んだ。

「日陰で休もっか、よいっしょっと」

ミサキがミレアに肩を貸してる間、ムスビは三匹目の魚を釣り上げていた。

しばらくして日陰で休憩中の所に漂ってきた焼き魚の匂いが二人の食欲をそそらせたのだった。その後ムスビ達はパラパラと魚に塩をかけて美味しくいただいたのだった。


 ミレアはその後も魔法の練習を続けていた。魔法陣を自分で作る。この行為に慣れるために手の平サイズ魔法陣を何度も作っていた。色々試してみたら、二つの魔法陣を自分で作る事も手の平サイズなら何とか出来なくもない事や同じ魔法を連続で使うと段々と魔法の精度が少し向上している事、逆に風魔法の後に火や水等の違う系統の魔法を使うと魔法の精度が下がってしまう事がわかった。おそらく直前に使った魔法がイメージに影響するのだろう。なので違う系統の魔法を使う時にはある程度のインターバルを置かないと本来の期待した威力は出しづらい等使う際の注意点が分かってきたのであった。発見も多かったが流石に魔法を練習し過ぎて夕方前には休みに入るのであった。

「もう暗くなってきちゃったね、そろそろここら辺で休む?」

「そうね、丁度開けた場所もあるしここで一晩過ごしましょうか」

「…」

ムスビは米を炊いていた。手伝う事も特に無いらしいのでご飯が出来るまで時間に二人は少し話していた。

「でも何だか変ね」

「ん?魔法でまだ何か納得いってないの?」

「いえ、魔法は正直思った以上に進んでいるわ。私が気になるのは道中の事よ」

「道中?と言っても何も無かったよ?天気も晴れてて順調に進めてるし」

「いえ、それがおかしいのよ。普通ある程度の動物と遭遇してもおかしくないのよ?運が悪かったら盗賊にだって襲われるかも知れないのに…」

「そ、そうだね。門番さんもそう言えば気を付けてって言ってたのにまるで出てないね…」

「まあそのまま進めるに越したことはないけど」

 ガサッ…ガサッ…

ミレアとミサキは音がした方を向く。揺れる草むらから黒い影が飛び出してきた。二人は身構えていたが…

ワン!

影の正体は一匹の犬だった。

「い、犬…?な、なーんだ…」

「で、でも何でこんなところにわんちゃんが?」

犬に首輪はついていない。子犬のようだが野生の犬なのだろうか。

犬がてこてこ歩きだした。米を炊いてるムスビに近づいていた。

ワン!

尻尾を振りながらムスビを見つめていた。

「…これやる」

そう言ってムスビは食べ物をあげていた。良い食べっぷりに二人もご飯が楽しみになるのだった。

そして食事へ…

「あ、あの…その状態で食べるの?」

ムスビは頭に先程の子犬を乗せていた。居心地がいいのかさっきから頭に乗っていた。

「懐かれちゃったみたいだね」

「でもどうするの?連れてくの?」

「…どうする?」

頭に乗った子犬に問いかけた。その後にはワン!と言う返事が返ってきた。

「…行くって。…二人共いいか?」

「私は良いわよ」

「私も良いよ。じゃあ名前はどうするの?」

「………アズキだ」

(多分適当に決めたわね…)

(ムスビちゃんが好きな物の名前つけたんだね)

そして食事が終わり…

「アズキちゃんかわいいな~」

「グ、グググ…!……ッ!ハァ…!やったわ…!大きな魔方陣で五分持続できた、これで少しは実用的になってきたわ」

「お疲れ様、そろそろ寝よっか」

「ええ、流石に眠たいわ」

アズキはムスビの方に行き一緒に寝るようだ。一同は眠りについた。

 その後皆が寝静まった所へ…

「ククク…運の悪いガキ共だ。旅の途中で俺達に襲われるなんてよ…」

 バタッ…バタッ…ドカッ!

「あん?」

振り返ると盗賊の一員達は倒れていた。

ワン!

(なんだこのガキ…?頭に犬なんか乗せて、いやそれよりいつから後ろにいたんだ?)

「…今日は出てきたか」

何の事を言っているのか盗賊達には分からない。

「チッ、何人か倒していい気になるなよ」「不意打ちはもう通用しねえ」

「バカなガキだ、俺達に逆らいやがって」

「…お前らで練習させてもらう」

 翌朝

「もう朝ね…」

「ふわぁ~おはようミレアちゃん…ってあれムスビちゃんは?」

ムスビは一足先に朝ごはんの準備をしていた。どうやら早起きしてしまったらしい。一行はご飯を済ませた後にジョウハ通りを進む。そしてジョウハ通りを少し戻ったところには木に縛りつけられた十人程の男性達と、「盗賊です、誰か町に連行して下さい」と書かれた貼り紙があった。数日後彼らは飢えてろくに力が出ない状態で町に連行されたのだった。

 そして…

「見て二人共、次の町スイギュー町だよ!」

「ホントね!それにしてもヒネズミ町よりだいぶ大きいわ」

ワン!

(…何だかずっと前から違和感が、誰かつけているのか?…まっいっか敵じゃなさそうだし)

「お昼どうする?宿のにする?それとも安いお店でも教えてもらう?」

「そうね、大きな町だから色々ありそうで迷うわね」

(…今はこの違和感はいい。それよりも何か嫌な予感がする、町で何かあるのか?)


 第四話 進めジョウハ通り 魔法を覚えて 終

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