第2話 山下り 旅立ち

吸血鬼の少女・ミレアを追う盗賊達を山に住む少年・ムスビが撃退した日の夜、山奥にある家でその吸血鬼と少年が話していた。

「ほ、本当にいいの?」とミレアは聞き、それにムスビは頷くが、「で、でも会って一日の私の為なんかについてこなくたって…」とミレアはそれでもいいのか訪ねる。

ムスビが妹捜しの旅を手伝うと言うのだ。

「…どうせなら人助けの為に山から出ろって昔じいちゃんに言われた…ミレアの助けになる」そう言いムスビは道具を積めた鞄を持ってミレアの手を引っ張る。

「ちょ、ちょっと、分かったから引っ張らなくても大丈夫よ!」とミレアが言うとムスビは引っ張る手を離して振り向く。

「じゃ、じゃあ一緒に行きましょっか」

その言葉にムスビは満足そうに頷く。

「そう言えば、盗賊たちはどうしたの?どこにもいないけど?」

ミレアはムスビに問いかけた。それの答えとしてムスビはある方向を指した。そこには盗賊たちを抱えた熊等の森の動物たちだった。

「ど、どういうこと?…もしかしてこれムスビがやらせてるの?」ミレアの質問に対しムスビは頷いた。

そしてムスビは山の麓まで行こうと指を指しながらミレアに伝える。ミレアがその辺りをみるとどうやら村がそこにはあるようだ。

「じゃあ、一緒に行こっか」

その言葉にムスビが頷きムスビは家の方へ手を振る。ミレアもそちらを見ると家の方には森にいたであろう動物たちが並んでムスビたちを見送っている。

ミレアもこれには「すごい…!皆ムスビのお友達?」と少し声が弾んでしまう。

「…」

ムスビは言葉は発しなかったが森のお友達に手を振りながら家から離れていった。

動物たちのお別れの言葉が山に響き渡る。


 その後、ムスビとミレアは動物と共に山を下った。

「それにしても盗賊の他の仲間も全員捕まえてるなんて思わなかったわ」

昼間に捕まえたのは十数人程度だったが今動物たちが抱えている数は二十人を超えていた。

縄で縛られ身動きがとれず、口も塞がれ喋ることも出来ないでいる盗賊達を見ながらそんな話をしていると、ミレアは下山がもう少しで終わるところで村の位置を確認する。

ミレアが村を指差すとムスビは頷く。だが…

「なんだか様子おかしくない?夜なのに騒がしいって言うか…」

その言葉でムスビは足を止める。

「…何か聞こえるのか?」

「え、ええ。私…結構耳はいいから…。遠くてちょっと聞こえづらいけど村の方から大きな声が聞こえてるのよ」

「…まさか」

「なにかお祭りでもしてるのかしら…?」

呑気なことを考えているミレアだったが、ムスビは荷物を動物たちに預けて、武器として木の棒だけを持って村へ走っていった。

「ちょ、ちょっとどうしたの!?」

ミレアも慌ててムスビの後を追いかけるがムスビの全力ダッシュにミレアは全然追いつけなかった。それどころかムスビは山道ではない場所を通り、最短ルートで村へ向かって行った。

そしてミレアが山道を十五分程走り下った後に、道なりに走り続けると山の上から見えていた村があった。

ミレアがその村に入るとそこは荒らされていた。

村のいくつかの家は壁やドアが壊れ、タンスの中身やめぼしい物はいっさいがっさい無くなっていた。

そしてそこに住んでいたであろう人間がまるで見つからない。居るのは村を守るために戦ったであろう男たちが倒れているだけだ。

「だ、だめ…皆息してない…」

ミレアは倒れている者達を調べたが皆既にこときれていた。

「で、でも一体誰に…それに他の村の人たちはどこへ…」

いったい誰がこんなことをしたのだろうか。

そのことにミレアは頭を悩ませていたがもう一つ、先に来ていたはずのムスビが見当たらないでいたこともミレアは村を見ながら疑問に思っていた。すると…

「…いない」

ムスビは馬小屋付きの家から出てきた。もっとも、その馬小屋には馬がいないようだが…。

「ムスビ!あなたこんなところに…」

「…ん?ミレアか。置いていってすまない」

「それはいいけどあなた急にどうしたの?それにこの村の様子…、ただごとじゃないわよこれは…」

「…家にはいなかった。頼む、こっちに居てくれ」

「ちょ、ちょっとムスビ?ここの家がどうかしたの?誰かさがしてるの?」

ムスビが家の中から出てきたと思ったら今度は馬小屋の方へ向かって行った。ミレアもムスビについていき、その馬小屋を覗くが山のように積み上がった干し草があるばかりでここで起こったことの手がかりも無さそうだ。

「ここがなにか気になるの?」

ミレアのその問いに答えるようにムスビは積み上がった干し草を掻き分けていった。

そしてムスビが干し草の山を1/3程度取り崩していくと、そこから「いやっ、やめて、来ないで!」と誰かの声がする。

「えっ、女の子の声…?」

そこには一人の少女が干し草の影で震えながら隠れていた。

「良かった…無事だった…」

ムスビがそう言うと、

「えっ…その声…ってムスビちゃん…!?な、何で!?に、逃げて!今、村には盗賊たちが居るんだよ!?」

驚きと同時に少女の言葉で二人は事情を察した。

「盗賊…こっちの村にも別のが…」

「…ミサキ。怪我はないか?どこか痛かったり」

「う、うん大丈夫だよ。でも良かったよぉ…。ムスビちゃんが来てくれて…、心細くて…。でも今は危ないから隠れないと捕まっちゃう…」

「…ちゃんはやめて」

「大丈夫、少なくとも今、村に盗賊達はいないわ」

「え、う、嘘…ホントに…?」

「…ミサキ、取り敢えず今は大丈夫だからミレアの言うように落ち着くんだ。話はそれからしよう。あとちゃんをつけて呼ぶのはやめて…」

そして少女が少しでも落ち着いてから話せるように少し時間を置いた。

「というかムスビの知り合いだったのね」

ミレアがそう言うと、少女も知らない人が一緒にいたことに頭が回るようになったのか「は、はじめまして。私はモチヅキミサキ、ムスビちゃんの友達です!」「ミサキちゃんって言うのね、私はミレア。ムスビと会って間もないけどよろしくね」と挨拶を交わすのだった。

そしてムスビの言葉は流されていたのだった。

「ミサキちゃん…いったい村で何があったの…?」

「私の家なのここ…、お父さん…お母さん…、二人ともここに隠れて待っていてって…ルーナを…私の妹を助けに行くって…」

(妹…)

「妹が盗賊に最初に捕まっちゃったの…私も助けに出ようとしたんだけど盗賊の一人が馬小屋に入ってきて…そしたら私…怖くて動けなくなっちゃって…」

泣きそうな声でミサキは二人にあったことを話していく。

「ミサキちゃん…辛かったね……」そして「ねえムスビ、どうする…?」とムスビに問う。それのムスビの答えは…

「…取り返す」

であった。

「そう…。ねえミサキちゃん…その盗賊達について何かわからない?人数とかどこへ行ったとか」

「人数は多分二十人は最初からいて、後からも何人か呼ばれたと思う…でもどこへ行ったかはずっとここに隠れていて分からないの…ごめん…」

ミレア「謝らないで…、それに馬や家の物盗んでいったんだから何か追跡できる痕跡が見つかるかもしれないわ」

ミサキ「うん…、じゃあ何かないか探そっか…あれムスビちゃんは…?」

ムスビは既に外にいた。外から角笛の音が響き渡る。


村からそう遠くない位置にある古びた教会では…

そこには盗賊たちがたむろし、教会の地下には牢屋があった。

そこには村に住んでいた者達が入れられていた。村人達は皆が両手を縛られていた。

「なんと言うか不思議というか変なもんだなぁ、昔はお偉い神父やらシスターが使っていた教会も、今じゃ俺たちみたいなのに良いように使われちまってるんだからなぁ」「もっとも、こんな地下牢が元から隠して造られていたってこと考えたら、元居たそいつらも裏で何していたのか分かったもんじゃねえがな」

そんな話を見張り役の盗賊二人は村人達に話していた。そこへ…

「おいお前らぁ!そろそろ第二弾運ぶぞぉ!今夜中には全部持っていけそうだ、はりきれよぉ!」

盗賊のボスの声だ。

「よし、てめえら!ぶっ殺されたくなかったらおとなしく歩くんだな!」

牢から村人達を出してぞろぞろ歩かせた。

「分かっちゃいると思うが、ここの村まで助けなんてすぐには来ねえ、逆らうなんて考えないことだな」

ボスは村人達にそう言っていた。

村人達が教会の外に出るとそこには、大きな魔獣二匹、そして二匹が引っ張り運ぶのであろう鋼鉄の檻があった。

ボスが檻の鍵を開けた。

「さあ、入った入った!」

その言葉で村人達は次々と進み、村人の半分が入ったあたりで…

「っ、くそっ!」

自分の番が近づいた村人の男性は檻に入れられる前に逃げようと試みたが…

十秒もしたら彼は盛大に地面に転がっていた。その足に矢を射たれて…

「おいおい、今さら逃げようだなんて賢くねえなぁ…ボス、こいつ痛めつけて良いですかい?」

「構わん、やれ」

「ぐっ、やめろ!」

村人の男は必死に近づいてくる盗賊の一人から離れようとするが足をやられて逃げることはできない。

「安心しろ、殺しやしねぇ。だが檻の中でおとなしくなるぐらいには制裁してやらないとなぁ」

男の叫びが教会近くで響き渡る…

「ぐおぉぉ!痛ぇぇぇ!」

そう一人の男が叫ぶ。もっともそれは村人ではなく盗賊の声だった…

「誰だぁ!俺を吹っ飛ばしやがったのはぁ!」

盗賊が周りを見渡しさっきの村人の方を見ると、そこには一人の仮面をつけた少年が立っていた。

(なんだ、あの小僧…?)


少し前の教会近くにて…

一行は村で見つけた痕跡を辿り、進んでいた。森に住む大きなオオカミに乗りながら…

「ビックリするわね、何度見ても…角笛で動物達呼んで指示するなんて…痕跡も所々途切れてたのに臭いを追ってどんどん進めてるもの…」

「で、でもこれであいつらの居るところまで送って貰えるし、村も綺麗にして貰えてるし、ありがとうムスビちゃん」

「で、でも着いて来て良かったの?盗賊達に会うの怖いんじゃ…」

「うん…。今も怖いよ…。でも、お父さんやお母さん、それにルーナが捕まって居るんだもん…助けなきゃ…!」

「ミサキちゃん…」

「それに大丈夫!今はミレアちゃんも居るし、ムスビちゃんも居るんだから!ミレアちゃんは知らないかもしれないけどムスビちゃんはすっごく、強いんだよ!山に住んでる動物達と一緒に遊んでて凄いんだから」

「そうね…ムスビは強いわ…!」

そう二人が話しているとオオカミは動きを止める。二人がもう着いたのかとオオカミから降りて周りを見るとこの場から少し先にある崖の下に教会があるのを見つける。

「ここがあいつらが隠れている場所…?随分古びているけど教会だったのかしら?」崖は教会の裏側の方を囲うような形であり、教会の屋根に崖から飛んで行けるぐらい近い。

「ここって確か私が生まれるより前にもう使われなくなっちゃった場所じゃ…それに子供は危ないから近づくなって村の皆は言ってたけど…」

確かにこの崖を見たらわざわざ行かせたくはないと思う場所に教会は位置していた。

話しているとムスビは一足先に屋根に飛び乗り崖側からじゃよく見えない教会の入り口の方を覗いていた。

ミレアとミサキも意を決して屋根に飛び乗り上から覗くとそこにはミサキの家の馬が2頭居た。

「良かった、馬さん達皆居たよ…!」

様子を見ると今は荷馬車を引いた分休ませているのだと見受けられた。

「あいつら、盗賊の見張りね…」

八人の男が入り口近くや馬の近くに居た。

「きっと、拐われた村人達は教会の中に居るのね、まずは見張りをやっつけて中に入らないと」

ミレアがそう言った直後に教会の内部から声がしてきた。

「おいおめえらぁ!もうすぐ第二弾を運ぶぞぉ!」

そう言って一人の男が出てきた。

「きっとあいつが盗賊のボスね…でもどうやって村の人達を連れていくのかしら…馬車はミサキの二つしかなさそうなのに…」

「第二弾って聞こえたけど馬車で何回かに分けて連れていくのかなぁ…」

そう話していると盗賊のボスは教会の前の開けたところに黒い箱を置いた。

大きさはボス一人でも運べるような程度であり、見た目も赤い丸がデザインされている以外なんの変哲も無さそうだった。

「よし、てめえらも離れてろよぉ!」

設置後ボスはそう言い、赤い丸の部分を押して箱から離れていった。

何をしたのかよく分からないままムスビ達は見ていたが、十秒経った後に箱は光を発して段々と開いていた。

少し開くと中からは煙が発せられており、完全に開ききったら中の煙が辺りに広がって消えていった。

煙が消えるとそこには二匹の魔獣が荷台の様なものに繋がれていて、その荷台には大きな人が十人程度は入りそうな檻が出現していた。

「な、なんなのあれ!?どうして見たことない動物や檻がいきなり出てきたの!?」

ミサキは二人聞いたが、ムスビは首を横に振り知らぬようだった。

「…まさか、…あれってマジックボックス…!?」

「ミレアちゃんあれ知っているの?そのマジックボックスって言うやつなの?」

「分からないけど多分…、私が5年ぐらい前に聞いた話だけど、確か大きな国の方でマジックボックスっていう、箱よりも大きなものを入れることが出来るってお金持ちに人気だったのが作られていたらしいわ…」

「す、凄いね…、都会だとそんなのがあるだなんて…」

「…でもマジックボックスは生き物は入れられないって話だったような…それにマジックボックスは赤い箱で大きさもポケットサイズだったような気も…」

「きっと新しいのが作られたんだよ、でもそんな凄いものこんなことに悪用されて、作った人も道具も可哀想だよ…!」

(でも、何で盗賊がこんなの持っているのかしら…。赤い箱は国中のお金持ちが欲しがり続けて生産が追い付かないって話まで聞いたのに、それより稀少かもしれない黒い箱を持っているだなんて…)

「で、でもどうしよう。あの動物さんの方が盗賊なんかよりとってもおっかないよ…」

「あれは多分魔獣ね…盗賊達も少し怯えているわ…」

「ま、魔獣?動物さん達とはちょっと違うの?」

「ええ、凶暴性、希少価値、身体能力、生命力等様々だけど動物と特に違うのが魔法を使ったり、魔法に対して耐性を持っている事ね」

「ま、魔法って本当にあるの!?」

「え、ええ…。教えている人も今じゃ少ないみたいだけど、ある都には魔法を使えるもの同士の集まりで魔法の大会が行われているらしいわ…」

「へ、へぇ…。世の中って凄いんだね…(おじいちゃん達の話、嘘じゃなかったんだ…)」

声を何とか潜めて会話していたが、どうやらその間にボスは再び中に戻っていた。

「どうしましょう…降りて見張りから一人ずつ倒す?」

「ここから屋根の一部頭に落としたら気絶するかな…」

「ミサキちゃん…多分それじゃ殺しちゃうわ…」

「そ、そうだね…」

「ねえ、ムスビはどうおも…っていない!?」

「え、ムスビちゃん!?どこ行ったの!?」

教会の上から見渡すと、少し離れた木々の辺りに倒れた盗賊達が見つけられた。

二人は草むらに引っ張り込まれて、しばらくすると草や葉だらけになったムスビが帰ってきた。

あいつらの持っていた服、弓矢やナイフ、剣などを持って…

「ムスビちゃん!?いつの間になに盗賊から追い剥ぎしてるの!?」

「というか、これで怪しまれて見つかったらどうするの!?」

二人は盗賊にばれるのを危惧したが…

「あの二人遅くね?小便でどんだけかかってんだ?」「変な草でも食って腹でも下したんだろ」

ほかの盗賊達は気づいていなかった。

「……まだ大丈夫そうね」

「え、ムスビちゃん…?何しているの…?盗賊の服なんか着て…?」

「もしかして変装して不意打ちしようって事…?」

その言葉にムスビは頷くが…

ミレア・ミサキ「……バ、バレるに決まってるでしょそんな仮面つけてちゃ!!(それにちっちゃくて服のサイズあってないし…)」

『ガ~~~~ンッ!』

変装をしても仮面を外そうとはしないムスビでは意味のない作戦であった…

この男は仮面を外そうとしないのである。もっとも外して実行したところでバレる可能性大の危険な真似でしかないが…

「と、取り合えず厄介になりそうな弓を持った奴やボスから不意打ちでやりましょ…、タイミングは檻に鍵をかける最後の時が良いかしら……。油断してそうだし鍵かけるのがボスなら背中ががら空きになる絶好の機会よ」

「そうだね…、じゃあこっちも準備始めよっか」

 するとボスや他の盗賊達も出てきて総勢30人近く盗賊達が教会の外に出てきた。

「お前ら、他の二人はどうした」

「トイレに行ってますぜ」

「そうか」

盗賊のボスと外に居たメンバーが話していた。

「盗賊達や村人達がどんどん出てきたわね…」

「うん…(あの中にお父さんやお母さん、ルーナはいない。まだ中なのかな…)」

「もう少しね…、………!誰か逃げようとしてる!」

「あっ、あっちの盗賊弓構えて…!」

ドサァァァ…

逃げた男は倒れた。片足から血を流しながら…

「あいつら…!」

「あっ、盗賊が近づいてるよ!きっと酷いことされちゃう!た、助けなきゃ」

「ま、待って!気持ちは分かるけど今あいつを倒したってあの人どころか誰も救えないわ…!」

「う、うん…ごめん。皆助けるんだもんね…」

「ごめんなさい…臆病で…」

「そ、そんなことないよ。ミレアちゃんだって皆を助けに来てくれているんだから…それに本当に助ける気があるから慎重に動いてくれてるんでしょ…?」

「ミサキちゃん…ありがとう……、ってあれ?ムスビは?」

「え?そう言えばどこにも…」

盗賊「グエエエェェェ!!」

ミレア・ミサキ「!?(まっ、まさか…)」

「誰だぁ!俺を吹っ飛ばしやがったのはぁ!」

ムスビは下で盗賊を蹴り飛ばしていたのだった…

ミレア・ミサキ「な、何でそこに居るのぉ!?」

と今現在に至るのであった…


「なんだ小僧?てめえかぁ?」

「てめえがおれにこんな事してくれたのかぁ?」

「何とか言えやクソガキィ!!」盗賊はムスビに殴りかかろうとしたが、ムスビはあっさりと避けて顎にアッパーを決めたのであった。

盗賊が泡を吹いて倒れたのも束の間…他の盗賊達が剣を抜きムスビへ向かっていった。

「おいお前ら…、いざという時の為準備忘れんなよ」

ボスがそう言うと弓を持った盗賊達は頷きムスビの方へ狙いを定めていた。

「馬鹿なガキだ、大人相手に一人、しかもこっちは弓も剣もあるってのにあんな武器かもわからん棒っきれ一つで…」

そう言いボスは、ムスビと盗賊達の戦いを眺めていたが…

「な、なんだと…?」

盗賊達はムスビに軽くいなされていた…一人ずつ頭、鳩尾等の急所を狙っており、また中には足を集中的に攻撃して倒すなど、どんどん戦闘不能に陥っていた。

「ホゲェ!」「フンガッ!」「ベアハッ!」

盗賊達のやられる声が響く。

「七人だと…?なにやってんだあいつら…!」

「ちっ、おいてめえら!今周りに居る奴ら全員倒れちまったら一気に矢を放て!」

ボスのその指示で六人居る弓使いは構える。

そして近くの十一人目が倒れたその時ボスは指示を出したが矢は射たれなかった…

「どうした!何してやが…!?」

弓を持った盗賊達はその場に倒れていた。腕や足、胴体に複数の矢を受けて…

ボスが周りを見渡すと屋根裏から一人の少女が弓を構えていた…そして矢がボスに放たれたが…

「てめえ!あのクソガキの仲間か!よくもやってくれたなぁ!!」

手持ちの金棒を振り回して矢を防いだボス。そして狙いを弓を放つ少女に定めたようだ…

「おい野郎共!俺は屋根の上のガキを殺す!下のガキはてめら全員でぶっ殺せぇ!」「アイアイサー!!」

残った盗賊達は十三人全員でムスビに、ボスは教会の屋根に居るミレアに向かっていった。

(ヤ、ヤバいわ!?つい勢いで…!ど、どうすればいいの?見つかっちゃったしもう矢は無いし…!またムスビが矢を射たれてピンチになるんじゃって慌てて射っちゃったけど!武器なしであんなのどうやって倒せば良いのよぉ!?)

「ガキめ…、すぐに殺してやる…!」

(こ、こっち睨んで来てる!で、でも逃げる訳にもいかないし!…ん?)

ボスは倒れている内の一人から弓と矢を取ってこっちに向かって構えていた。そしてミレアが気付いた時には既に狙いは定まり射たれようとしていた…

(や、やられる…!)

そう身構えていたがボスの矢はミレアには当たらなかった…

(あ、あれ?狙いが外れたの?)

そう思い下を眺めるとボスは膝を崩していた…よく見ると片足にナイフが突き刺さっていた。そして近くにはミサキがおり、ミレアはミサキがボスの足を刺したのだと理解した。

(ミレアちゃんに矢が当たらなくて良かった…。で、でも足刺しちゃったのはやりすぎだったかな…)

「ミサキちゃんに助けられちゃった…ん?やばいわミサキちゃん!そこから逃げて…!」

「え…?」

「ガキが…まだもう一匹居やがったか…!」

突き刺さったナイフを抜き、

「てめえにもナイフぶっ刺してやるよぉ!」

「ッ…!……?」

ミサキがゆっくり閉じてしまった目を開けるとボスはムスビに顔を蹴られて倒れようとしていた。

「ムスビちゃん…!」

「…無事で良かった」

「クッ、このクソガキめぇ!」

そう言って自慢の金棒をムスビ達へ勢いよく投げつけた。

「あ、危ない避けて!」

「…!」

ミサキはそこから動く事ができなかった…

金棒が誰かに当たり、金棒は血だらけに染まっていた…

「あぁ…ム、ムスビちゃん…?」

ミサキの目の前には血を体から流して、必死に自分を守ってくれたムスビがいた…

「そ、そんな…ムスビ…ちゃん…?」

「クハハ…面倒そうな方から片付けられたぜ…!次は死に損なったガキの方だ!」

だが周りを見ると、十三人の盗賊達は既に倒れ、ボスの周りには捕まえたはずの村人達が囲んでおり、皆が武器を持っていた。

「な、何だと…?てめえらどうやって」

村人達「あの子達のお陰じゃ」「戦いであんた達がこっち見てない時にミサキちゃんがナイフで縄を切ってくれたのよ」「それに盗賊のボスは間抜けに鍵もかけ直さないでいてくれたからな」「さあ観念しろ!」

「……フッ、馬鹿め!てめえらが何人いようが俺にどうすることも出来やしねえ!てめらも一人ずつ半殺しにしてやるよ!」

村人の何人かが武器を持って挑むもボスはそれを簡単にさばき、二人程戦闘不能にした。

村人達「な、何て事じゃ…」「足も刺されてるはずなのに…」「歯が立たないなんて…」

「だから言っただろ!お前らなんぞはいくら逆らったところで無駄だ!」

その言葉で村人達の顔は暗くなっていったが…

「さあ、あきら…ん?」

ボスの目の前には金棒が物凄い勢いで投げつけられていた…

「グエェ!」

(な、何で俺の金棒が…!)

金棒が飛んできた方向には怒りに満ちた顔で金棒を投げたであろうミレアが居た、そして…

「ぐ、だがこれさえありゃあ怖いもんなしよ…」

そう言い、投げつけられた金棒を拾おうとするが…

「グオォ!」

その伸びた手にはナイフが突き刺されていた…

そして既に金棒は拾われていた、ミサキに…


ブンッッ!!


物凄い勢いでボスの顔めがけて金棒はスイングされた…

「グゥアァァァ!!」

呼吸は乱れ顔中は痛みで満たされていた。

歯の数本は折れ、その顔は全体が血みどろであった…が…


ブンッッッ!!

ブンッッッ!!

ブンッッッ!!!


ミサキは続けて殴りつけていた…何も言わずに…村人達はその姿を前に止めに入ることが出来ずに呆然とそれを眺めていたが…

一人が勇気を出して止めようと近づくとミサキは村人達の方を見たが、それは村人達が知っている顔とは全く違うものであった…

だが、これを止めようとする事は許さないと言う意思だけがハッキリと伝わった…

それだけの殺意がミサキから溢れていたのだ…

「ムスビ…生きていて…」

ミサキが金棒を振っている間にミレアはムスビの方へ近づく…すると…

ムクッ

「え!?」

ミレアは驚きつい声をあげてしまった。


ミサキの容赦ない攻撃は続く。

最早逃げることも抵抗する力もないと思われる盗賊のボスだったが、再度ミサキは金棒を振り下ろそうとしていた…

「ホゲェ…ホゲェ…た、助け…」

ポンッ

ミサキの肩に誰かの手が置かれた…

「ミサキ…もうそこまでで良い…守ってくれてありがとう…」ムスビの声だった…

「ムスビ…ちゃん…?」

振り返るとそこにはボロボロになりながら立っていたムスビ、ムスビを支え涙を目にためているミレアだった…

「…ぅぅぅう!!!良がっだぁぁぁ!!!ごめんムスビぢゃん…!!まだだずげでもらっぢゃっでぇぇぇ!!…あんなに血まみれだから…ぐす、死んじゃうんじゃないかって…」

「俺は死なない…それに助けられたのはこっちもだ…ミサキのおかげでボスも倒す事が出来た…」

「へっ?ボス?……あっ本当だ!…ん?これもしかして私がやったの…?」

ムスビ・ミレア(………え?)

「…ともかくミサキが無事で良かった…」

「さあ、皆を助けられたし!一緒に村へ帰りましょ…!」

「うん!」


 盗賊達を倒したが、ムスビ達は何か大事な事を忘れているのではないだろうか…

 ムスビ達の冒険は始まったばかりであるがこの調子では命がいくらあっても足りないと初日から感じさせるものであった…


  第二話 山下り 旅立ち 終

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