アドベンチャー

ポンやさい

第1話 山での出会い 少年と吸血鬼

 ある夏の晩、山奥で男たちの声が響き渡る。男たちは皆武器と灯りを持ち、山の中を見て回っている。

その中でも体が一際大きい赤いバンダナの男が「おいっ、まだ見つからないのか!」と声を周り男たちにかけると、男の一人が「すみませんボス!探してるのですがまるで見当たりません…、山の外とかに逃げられたんじゃ…」と答えた。

だが赤いバンダナの男改めボスは「バカなこと言うんじゃねぇ!見失っちまったとはいえ、やつは傷だらけなんだ!そう遠くまで行けてたまるか!」と男たちに一喝。ボスは男たちにくまなく山の中を捜索させた。

そして1時間程が経った後、男の一人が「ボ、ボス!来てほしいんです!」と慌ただしく声をかけてきた。

ボスや他の手下の男たちがその男についていくとそこには倒れた男とその近くの木に付いた血の痕だった。

ついてきた男たちは驚いた様子でどうしてこんなことになっているのかと互いに顔を見合わせている。

ボスが倒れている男に「おいシーパ!どうした、ここで何があった!」と無理矢理起こし問いかける。男が意識を取り戻すと少しずつ話し始めた。


 ボスたちがここに来る30分以上前…

一人の少女が木にもたれかかっていた。少女は息を荒げており、血だらけのその体は傷だらけであった。

「はあ…はあ…、まさかここまで追ってくるなんて…!」

少女はボロボロの体であり、何とか歩きだそうとするもすぐに痛みでバランスを崩してしまう。

「も、もう痛くて歩けな…、いえ、でも逃げなきゃ…は、早くここから離れないと…!」それでも痛みに耐え少女が歩みだそうとするがそう遠くない所から

「この辺りを捜すぞ!」と男達の声がした。

少女はとっさに木の影に隠れ、そのまま木に体をあずけた。

(み、見つからないで…!)

そして少女のいる場所の近くが男たちの灯りで照らされる。男たちは少女に気づいていない様子。

(あの盗賊たち、もうここまで…!見つからないからってこの山の中くまなく捜すって言うの…!?これじゃ逃げるどころか山の中を見つからず出ることなんて…!)


 男たちの一人がしばらくすると「ここにもいねえのか?暗くて分かりづらかったが、血の痕みてえなのもあったからここだと思ったんだがな」と言い捜す場所を変えないか相談した。

「だが奴は怪我でとても遠くに行けるわけがねえ!ここじゃないにしても必ず近くにいるはずだ。シーパ、俺たちはもう少し先を捜してくるからお前はここら辺をもう一回見て回ってくれ」と他の一人が言い、その場にシーパだけ残ることとなり、後の二人は道の少し先を見に進んでいった。

少女(は、早くどこかへ行って…!)

物音一つたてられない状況が続く。

シーパはそこらの草を掻き分けて、辺りを灯りで照らしながら捜すが見つからない。

シーパ「はあ、なかなか見つからねえな…あんなガキ捜すのにこんな時間かかるくらいなら誰か犬でもつれて捜してほしいぜ…見つかんなきゃボスからのとばっちり受けんのは俺達だってのに…」と一人喋りながらそこらを探していると、茂みから小動物が飛び出し、少女が隠れている木が近くにある茂みまで駆け抜けていった。

(う、嘘…)少女は焦っていた。

小動物がこっちに来たと思ったら男の足音がだんだんと近づいているのだ。少女は来ないでと願う…だが…

「さっきのこっちに行きやがったなそういえばこっちはあまり見てなかったような気が…」

シーパはそう言ってこちらへ近づきそして…

「おやぁ?こんなとこに隠れてたのかぁ?」少女を見つけたシーパは歪んだ笑みを浮かべながら見つけた少女に近づいた。少女は動けないながらもそこから少しでも離れようとするが、負っている傷が深く徐々に男に詰め寄られる。

(も、もうだめ…!)

少女は諦めかけるがその時、男はドサッと地面に倒れこんだ。

何故目の前の男が倒れたのかは分からないが少女は驚きと共に少し安心していた。さっきまで捕まえにこっちに迫って来た人間が倒れていたのだから。

少女は今のうちに逃げなければと考えてはいたが、さっきまでの緊張の糸が切れたのか、はたまた今までの疲労が限界に来たのか分からないが、少女は眠気に襲われその場で倒れてしまった。

少女は倒れ、意識が朦朧とする中で、倒れた男の後ろに誰か立っているのに気付く。

(誰かいるの…?だめ…このままじゃ捕まっちゃう…でも、眠い…)

そうして少女は意識を失ってしまった。


 そしてその後先ほど分かれた二人が戻ってくるとそこには倒れこんでいるシーパと血痕があり、ボスを呼びに行くまでに至った。

ボスは「じゃあお前はそのガキを見つけたが、後ろから別の誰かに殴られて伸びちまったってのか」と問うとシーパはそうだと答えた。

「一体誰が…この山に俺たち以外にもまだ人が居るってんですかい?」と盗賊の一人はボスにそう問いかけるが「分からん、こんな時間に人が山奥に居るなんてとても思えんからな」と答え、「だがもしここに居たならまだ近くに居るかもしれん、すぐに捜せ!」と続けて指示を出し、盗賊達に山を一晩中捜し回させたのであった。


 次の日…

少女(…ここは、どこ?暗い…他に誰もいないの?)

女の子(お姉ちゃん…)

少女(ッ!こ、この声は!どこ、どこにいるの!?)

女の子(お姉ちゃん…助けて…!)

少女「ッ!はあ…!はあ…!い、今のは…ゆ、夢?」少女は布団から飛び起きた。その体から嫌な汗を流しながら。


少しして少女は気付く。自分が森の中ではなく家の中の布団で寝ていること。そして身体中にある傷口には包帯が巻かれて手当てがされていることに。

少女はそれを不思議に考えていたがフッと横を向くとそこには人が座っていた。少女と同じかそれより下だろうか。居たのは黒い仮面と紫の頭巾を被っている小さな少年が一人である。

「い、いつの間に…!」

だが落ち着いて見たところこの家の中に居るのは少年と自分だけであり、少年の風貌も盗賊の仲間には見えない。それにもし自分が盗賊に捕まっているのなら、ある理由から傷の手当てをされる訳がないとも少女は考えた。

「もしかしてあなたが私を助けてくれたの?」少女は少年へ問いかける。少年はその問いに対して頷く。少女は続けて言葉をかける。

少女「でもどうして…?あんな森の中だったのに。それに私を追ってた盗賊たちが居たのにこうして助けられたなんて…」

少年はその言葉には答えず家の窓の方を覗く。少女も覗くとそこからは太陽の光に照らされた木々が広がっており少女はここが森の中にあると理解した。

「この森に住んでいるの?だからあんな夜遅くの森の中でも気付いて助けてくれたの?」少女の問いに少年は頷き、少女は今の自分が盗賊からひとまず逃れたことに安堵した。

少女「助けてくれてどうもありがとう」

その言葉に少年は仮面をつけているのに少し照れくさそうに顔をそらす。そして少年は用意していた食事(米、味噌汁、サラダ、小魚、漬物)を少女の近くに置く。

少女「これ、私のために用意してくれたの?」

少年は頷くが少女がこれを申し訳なさそうにしていると少年は首を少し横に振り、食事のお膳を少し前に出した。どうやら遠慮せずに食えと言っているようだ。

少女はまだ申し訳ない気持ちがあったが食事をいただくことにした。

目の前の食事、その誘惑は今の少女にとってとても魅力的に映っていたのだ。

少女「お、美味しい…!」

少女は食べ始めるとドンドンと箸が進む。

少女(久しぶりにこんな美味しいの食べられるなんて…!)

その時の少女の目は少しうるうるとしていた。そしてあっという間に完食した。

「ごちそうさまでした…!」さっきよりも元気に溢れるような声で少年に礼を言った。


少女は少年に感謝の言葉をかけ、少年はまた少し照れくさそうにしていた。だがそんな少年に対しある疑問が少女にはあった。

「でも聞いていいのか分からないけどさっきから言葉を喋ろうとしないのはどうして?」

「…」

「え?あの、ちょ、ちょっと!?」

その問いに答えるのを待っていたら、少女は抱えられて部屋にある大きな壺の中に入れられた。


少年は少女にシーッと喋らない様に伝えた。

蓋を閉められてしまい、壺の中が外から見れない状態である。

(嫌なこと聞いて怒らせちゃったのかな?)

少女がそう不安に思っているとしばらくして男の声が聞こえてくる。その声に少女は聞き覚えがある。

そうあいつら、盗賊たちだ。


少女(な、なんで?もうここを捜しに?)

ボス「おい小僧、昨日からここらでガキを見なかったか?お前と同じくらいの背丈の紫の髪をした女をよ」

少女(ッ!私のことだ!い、いけない捕まっちゃう!)

だが、少年は首を横に振り少女を見ていないと否定した。

ボス「ほ~う、そうか、それは残念だ。だが、お前が嘘をついてるかもしれないんでな。一応家の中を見させてもらうぞ」

盗賊たちは無理矢理家に押し入ろうとする。

少女(かばってくれたの?で、でもこの壺に入ってるのを見つかったら…!私だけじゃなくてあの子までひどい目に!)

 そして盗賊の中でも弱そうで小柄な男が「オラ、早く中を見せろ」とズカズカと家の中に押し入ろうとすると「グエッ!?」と声をあげながらその男は後ろへ吹っ飛んだ。

男は飛び蹴りを少年から受けていたのだ。そして地面に伸びてしまった。盗賊達は「このクソガキィ!」と少年に怒りをあらわにしながら武器をもって襲いかかるが…

 少年は素早く盗賊の中でも弱そうな奴らに狙いを定めて一人ずつ急所に蹴りや奪ったこん棒を殴り付けていった。

十人以上いた盗賊たちも残りが八人程度まで減っていき、「ちょこまか動いてこざかしい!」「死ねぇ!」と盗賊たちも武器を振り回すが驚くほどに当たっていない。少年が全ての攻撃を避けきっているのだ。

「クソッ、他のとこに居る仲間呼んでくるか!?」と一人が言うとボスが「ガキ一人に情けねえこと言ってんじゃねえ!」と叱咤し「おい、コザ、ルズ!てめえら弓であいつ狙え!」と離れた位置に居る二人に指示し、二人は弓を構えた。

そしてさらに二人「ブゲェ!」 「ホゲラァ!」と倒し、コザが弓を放つが少年には当たらずにコザは思いっきり鳩尾に一撃を決められてしまう。だが…

「ッ!」

少年の足から血が流れている、ルズが少年に矢を当てたのだ。

「でかした!クソガキめぇ!」ボスが少年を蹴り上げ、木に少年がぶつけられてしまう。

シーパ「昨日俺を殴ってくれたのはてめえだなぁ?サンドバッグにしてやるからなクソガキィ!」

盗賊たちが倒れた少年に近づいていくと…

「その子をいじめるな!!」

少女はそう大きな声を上げ、それを聞いた盗賊たちは振り返る…。

だがそこには、さっきまで少女が入っていた大きな壺がこちらに向かっていた。

少女が壺を盗賊たちに投げつけたのだ。

盗賊達は「うっ、うわぁぁぁぁ!」と悲鳴を上げて壺に押し潰されてしまった。残ったのはボスとルズの二人のみ。

「弱々しく逃げるだけかと思ったら、とうとう本性表しやがったか!吸血鬼の化け物めぇ!」「だがてめえは夜じゃねえとろくに外に出られねえ!その家から逃げることもできねえだろ!」ボスのその言葉に少女はその言葉に動揺を隠せなかった。

吸血鬼は基本的に一分間でも太陽の光を浴び続けるとそれなりの傷になり、三分で意識を失い命に関わるレベルであり、五分も浴びていると完全に消滅し骨も残らないと言われている。

そして「射て、ルズ!吸血鬼は矢ぐらいじゃ死なねえ!傷つけてもすぐに治るから売りもんとしても被害はねえ!」とボスの指示を受け、弓を構えるが…

 ブンッッ!!!

と音を立てて石がルズの頭に投げつけられる。

バタッ…

と音を立ててルズは倒れた。

そして少女やボスが少年に目をやると少年は起き上がり剣を鞘にいれた状態で構えていた。

少女「その足で戦うなんて無理よ!何処かへ逃げ…」

ボス「クソガキめ!てめえはここでぶっ殺してやるよぉぉ!」

少女の声をかき消しボスは斧を大きく振りかぶり横に大きく少年が真っ二つにする勢いで襲いかかる。だが…

ボス「なっ!ど、どこだ!どこへ消えた!」そう言っていると空が暗くなった。いや、ボスの頭上だけ影ができていた。

「何ィ!」

ボスが気付くと共に少年は上から大きく剣を振りかぶっていた。

「グッハァ!!」ボスは地面に倒れ、しばらく起き上がることはなかった。

「う、嘘…」

 少女はその光景をみたら力が抜け、その場で座り込んでしまった。

少女「信じられない、あの盗賊たち皆やっつけちゃうなんて」目の前の光景がとても信じられなかった。

そして少年は座り込んでいる少女に近づき「…怪我はなかった?」と声をかける。

「喋った!?」

少女の盗賊を倒したことへの安堵が驚きへと変わっていた。

少女は怪我はしてないことと壺投げてしまってごめんなさいと伝えると、仮面の少年は続けて「そうか…良かった…」と小さく喋っていた。

少女はそして思い出したかのように「あとごめんなさい、私あいつらが言ってたように吸血鬼なの…隠していてごめんなさい」と少年に言うが、少年は「知ってたよ」と答える。どうやら少年が少女を寝かしていると窓からの太陽の光で皮膚が焼けていったのを見たそうだ。

少女は驚いたように「じゃあなんで私なんかを助けてくれたの?人じゃないって分かったのなら私をさっさと盗賊に突き出してしまえば危ない目にあわなくて済んだのに…」

少女の人間に吸血鬼だとして迫害されてきた過去が少年のこの行いに疑問を持たせた。

 少年はただ一言「命だから…」と答えた。それを聞いた少女はなぜか不思議な気持ちだった。それは今までの人から追われ、相容れることのなかった生活をしばらくおくっていた彼女にとって、その理由の答えとしてはあり得なかった言葉だったからだ。いやむしろその言葉でそれより前にあったもの…、過酷な生活のなかで忘れていったものをほんの少し思い出せたからなのかもしれない。

 少女はしばらくすると一言「私の名前はコーヅキ・ミレアあなたの名前を聞いても良い?」

少年は「…ムスビ」と答えた。

ミレアは「ムスビ、ありがとう…!」と礼を言い、それに対してムスビは照れくさそうにしていた。

「…私は今のあいつらの仲間に捕らえられた妹、ショコラを助けたいの。私は遠く離れたここまで逃げてしまったけど、必ず妹の居るところを見つけて妹を救う、その為にも今ここで捕まる訳にはいかなかったのよ。だから捕まりそうだった私を助けてくれたこと、本当に感謝しているの…ありがとう」

ミレアは続けて再び礼を告げた。

「…大丈夫…必ず助けられる…!」とムスビは答え、その言葉でミレアは少し笑い、こうして笑ったのはいつぶりかと少し嬉しそうにしていた。だが次にずっとあった疑問を口にした。

「でもどうして最初喋らなかったの?」

ミレアは問いかけた。

ムスビは「…人と話すの…恥ずかしかったから…」と小さな声で言い、その場から逃げるように盗賊たちを拘束しに行った。

「変だけど…面白い人ね…」

優しい口調で呟きながらミレアは離れたムスビを眺めていた。


 この出会いが一人の少年、そして多くの人々の新たな冒険や出会いにつながっていくのであった。

 第一話 山での出会い 少年と吸血鬼 終

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