第16話⁂洋介は何処に⁈⁂


 それでは村上の本当の姿を紐解く上で、その原因となった過去の要因をいくつか辿って行く事にしましょう。


 父親建造は陸軍のエリ-ト軍人で最終階級は陸軍中将。

 元々徳川家の血を引くお家柄の為、華族階級の伯爵家。



 ★華族の特権

 *財産は保護されていて、差し押さえられる事はない。

 *試験を受けなくても現在の学習院に進学できた。

 *選挙に勝たなくても政治家になれた。


 この様な条件下、祖父は大蔵官僚の要職にあり、お金は貯まる一方。

 資産家で豪邸住まい、更にはお手伝いさんも2人。


 そんな恵まれた環境にも拘らず、何とも運が悪い事に、本妻との間に子宝に恵まれず四苦八苦している。


 もう年齢も結構行っているのに子宝に恵まれず焦る建造は、焦り過ぎて妻もよく知る寄りによって一番身近な、女中の1人に手を出した。


 女中の雪乃も抵抗したのだが、大の男の力には勝てずに、とうとう男と女の関係になってしまった。

 暫くすると妊娠が分かり旦那様に相談すると、意外な言葉が返って来た。


「頼む産んでくれ!」


 そう言われた雪乃は(エエ————ッ!何かの聞き違え?こんな私のような者にそんな事を言うなんて?でも、ひょっとしてこれは結婚して貰えるかもしれない?)

 そんな大それた夢を見るようになった雪乃は産む事を決意する


 やがて建造は、妻にバレるといけないので妊娠7か月で休暇を与えて、別荘を持っていたのでそこで子供の誕生まで生活させた。


 雪乃の意に反して建造は、結婚する気など毛頭ないのだが、今まで妻との間にも、浮気相手との間にも、それも散々浮気もしたが、「妊娠した!赤ちゃんが出来た!」など一度たりとも聞いた事が無かった。


 それが、なんと自分の一番身近なお手伝いさんとの間に、子供を授かれるなど考えても見なかったが、もう45歳にもなるのに、跡継ぎが授からなくて心配していた矢先に誕生してくれて、反面嬉しくて、嬉しくて、天にも昇る思いなのだ。


 プライドの高い伯爵さま。たかが家の使用人など、鼻にも掛けていなかったのだが、それでも…背に腹は代えられぬ。


(まだ若い20歳そこそこの娘なので、ひょっとしたらこの娘との間に子供が授かるかもしれない?誰とでもいいので、子宝に恵まれないと俺の代で家が滅びる!)


 その危機感で節操のない女と見たら誰彼無しに手を出していたのだった。

 こうして別荘で大切に大切に雪乃を静養させて、無事玉のような赤ちゃん洋介が誕生した。

 こうなれば家の跡継ぎで、ましてや長男を産んでくれたのだから、実際のところ妻よりも大切な存在になって来た。



 ◆▽◆

 最近家に帰って来るのがすっかり遅くなった夫を不審に思いつつも、今までだって遅く帰宅する事はよくあったので、気にも留めていなかった本妻さん。


 ある日の事、年配のお手伝いさんと買い物に出掛けた時に、懐かしさも手伝って辞めてしまった雪乃の近況を知らなくて当然と思ったが、聞いてみた。


「そう言えばユキちゃん今頃どうしているかしらね~?」


「あぁ~?なんでも?………子供を出産したらしいですよ?」


「へぇ~?………じゃ~結婚したって事?」


「イヤ~?………それが?………どうも………父親は居ないらしいですよ?未婚の母って奴ですよ?」


「………まさか………まさかとは思うけど、父親が建造って事は無いわよね?………でもウッフッフッフ、今までだって建造との間に子供が、全然出来なかったのに……まさか出来る訳無いわよね?ウッフッフ~?」


「アッ?でも……?1度だけ2人が一緒に歩いている所?………アッ………チッ違います?…知っ知りません?」


「あなた何言っているの?余計に怪しく感じるじゃないの?」


 ◆▽◆

 別宅ではやっと3歳の誕生日を迎えた洋介が、父と母の愛情を一身に浴びて幸せ一杯の笑顔で飛び回っている。


「こんなに可愛い目に入れても痛くない洋介を、このままにしておけない。洋介の為にも妻とは別れる。親にも孫の存在は話してある!」


「あなた………無理しないで下さい。私は……今のままで十分に幸せ」


「そう言ってもだな~?家の跡継ぎをこんな場所に置いて置けない。妻には可哀想だが………家を出て行って貰うよ」


 ◆▽◆


 ある日の本宅での一コマ。

 妻は和室で1人懸命に反物で着物を縫っている。


 一方の建造は、真剣な面持ちで今日こそは妻に全てを話して、離婚も視野に入れた話し合いに入ろうと考えている。


 早速リビングの椅子に腰を掛け、お手伝いさんに妻を呼んで来てもらっている。

 暫くすると妻がリビングに現れた。


「あ~らあなたどうしたのですか?今度の祝賀パ-ティに着て行く着物を縫っていた所よ」


「チョット座ってくれ!」


 妻がソファーに座ると建造は、暫く押し黙り、やがて覚悟を決めたように徐々に話し出した。


「……実は…実は………重大な話がある……俺……子供が居るんだ。今3歳なんだ………それで………それで………こんな事………こんな事言えた義理じゃないが?………俺と………俺と………別れて欲しい」


「あなた………あなた………なんて事言うの………そんな事………そんな事絶対イヤ!………絶対に嫌よ!………それで………それで………相手は誰なのよ………言いなさいよ!ワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「あぁ~!実は…実は………お手伝いの……お手伝いの……ユキちゃんなんだ」


「……そんな……そんな………あんまりじゃありませんか?酷い!酷い!酷すぎる!ワァ~~ン😭ワァ~~ン😭」



 妻に泣かれてしまった建造は、もう何十年も夫婦生活を送って来た古女房だが、慣れ親しんだ妻を、今更ゴミクズのように捨てる事など、到底出来ないのである。


 だが、その反面家柄こそ悪い田舎の娘だが、自分の分身を産んでくれた若くて可愛い唯一無二の大切な女性。


 考えあぐねた結果、家を出る決意をした建造。

 そして…妻が外出している隙に入り用の物を持って雪乃の元に向かった。


 だが、大変な事が起こる。

 大切な!大切な!洋介が突如として家から忽然と居なくなってしまった。


 建造は余りの出来事に、泣き崩れて、それこそ死ぬ思いだ。

 やっと授かった大切な我が子洋介が誘拐されて、眠れない日々を送っている。

 洋介は何処に?


















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