第3話⁂江梨子の家族⁈⁂


「キャ————————ッ!」


 夜だというのに、13歳の江梨子は家を飛び出して懸命にある男から逃げている。

 それは、10歳年上の義兄から逃げているのだ。


「ハァ!ハァ!ハァ!やっと………やっと………逃げ切れた!」

 

 ガサガサ何やら音が?


 やっと逃げ切れたと思ったのも束の間、草むらから本能剝き出しのギラギラした、いやらしい目付きで尚も江梨子を犯そうと襲い掛かって来る。


「ウッフッフッフ~逃がさないぞ!」


「キャ————!タッタスケテ————ッ!」


 幾ら異母兄妹と言えども、仮にも妹だというのに手を出すとは、とんでもない不届き者。

 逃げ惑う江梨子の跡を執拗に付きまとう義兄幸助。


「ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭もう止めてワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」

 そして捕まり江梨子は残酷にも、義兄に強姦されてしまった。


「ギャ————————————————ッ!」

 


 ◆▽◆

 遡る事15年前、江梨子の母多恵は富山市内に有る小さな小料理屋〈むらさき〉を、若干18歳ながらも母と2人で切り盛りしていた。

 

 そこに近藤建設社長が仕事帰りの一杯でもと思い、たまたま1人でフラフラ~ッと立ち寄った、それが多恵との最初の出会いだった。


 一体どういう事なのか、近藤は余程小料理屋〈むらさき〉が気に入ったのか、最近は時間が空くと、小料理屋〈むらさき〉に顔を出している。


 それはズバリ娘の多恵目当て!

 

 まだ若いのに、どんなに疲れていてもいつも明るい笑顔を絶やさない、多恵の一生懸命働く姿を見るにつけ、感心させられるのと同時に、いつしか淡い恋心の様なものが芽生えて来る近藤。


 かと言って妻も子も有る身、どうにも出来ない。

 それから……あんなに若くて美しい娘さんが、こんな20歳も年上のおじさんなんか相手にしないだろうと諦めている。


 ある日の事である。

 スッカリ夜も更けた時間帯、もう小料理屋〈むらさき〉は閉まっているだろうと思いながらも、それでも多恵ちゃんの顔がどうしても見たくなった近藤は、閉まっていて当たり前と思いながら〈むらさき〉に向かった。


 すると、その日は多恵が、こんな遅い時間帯にも拘わらず1人で切り盛りしていた。


「あれ~?今日ママさんは?」


「あぁ~?母は最近体調が悪いので私1人で切り盛りしているのです。それとお手伝いの方が1人いるので何とか回っています」

 

 もう閉店間際だった事も有り、お客様は近藤だけだ。

 すると、裏方のお手伝いさんが時間が来たので帰る準備を進めている。


「ゆみさん今日はもう上がって」


 そう促されて「宜しいのですか?」


「ハイ!ありがとうね!」


 すると、そそくさと、お手伝いのゆみさんは帰って行った。


「多恵ちゃん俺送って行くよ?」


「あっ!ありがとうございます」


 こんな事が幾度となく繰り返されたある日の、帰りのマイカ―の中で近藤が訪ねた。


「多恵ちゃんは、お付き合いしている彼氏は居るのかい?」


「……いません」


「こんなべっぴんさん放っておくとは勿体ない話だな!ワッハッハッハ~」


「違います……それは……それは……心に思っている人が?」


「あぁ~?そうなんだ!……成就出来るといいね?」


「違います……それは……それは……社長」


 そう言うと社長の手を、そっと握った多恵。


「ダメだよ!こんなおじさんで所帯持ちなんか?」


「良いの!私はそれでも良いの!社長のお側に居たいの!」


 こんな危険な恋にハマったら破滅だ!

 

 そう思い跳ねのけようと思えば思う程、足が〈むらさき〉に向かう近藤なのだ。

 こうしてこの危険な恋は幕を開けた。


 近藤は多恵を見た瞬間、それこそ身体中稲妻が走り立って居られない程の衝動に駆られていた。

 そんな一分一秒たりとも忘れた事の無い、若く美しい多恵に思いも寄らない告白をされて嬉しさ半分、苦しさ半分どころか、真剣なだけ苦しみは倍増するばかり。


 それはどういう事かと言うと、妻は取引先の御令嬢で会社がここまで成長できたのもひとえに妻の実家の後ろ盾有っての事。

 近藤は死ぬか生きるかの、苦しい決断を迫られる事になる。


 ◆▽◆

 遡る事15年前、大学時代から付き合っていた彼女が居た近藤なのだが、両親の妨害に遭い致し方なく分かれた経緯がある。


 そして…親会社である日本有数の大山建設の親戚筋に当たる、公家華族のお嬢様である妻と、無理矢理政略結婚をさせられた経緯がある。


 お嬢様というだけで、全くタイプではない冴えない妻に、どれだけ嘆いた事か、それでも一にも二にも会社発展の為と思い目を瞑って来た。


 お料理1つ洗濯1つした事の無い生粋のお嬢様。

 ばあやを従えて嫁入りして来た妻、只々会社の為だけのお飾り妻。


 一方の多恵は家柄こそ決して立派なものではないが、美しく聡明でこんな若くしてプロの腕前を持つ料理人。

 その差は歴然たるものが有る。


 ここで妻と離婚したいと両親に訴えれば、大変な事になる。

 今までも妻に内緒で愛人を囲った事は何回もある。


 だが、多恵はそんな女達とは一線を画す、全くの別物なのだ。

 もし多恵が他の男ものになったら、それこそ生きていけない。


「そんな水商売の女と一緒になりたいんだったら、全て捨てて今すぐに会社を出て行け―!」と言われてもきっと多恵を取る。

 その位のめり込んでしまっているのだ。


 これが冒頭で紹介した義兄の常軌を逸した現状に繋がっている。

 一体この家庭にはどんな秘密が隠されているのか?


【公家華族】

元公家で、明治維新後華族となったもの。























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