第2話


「なに落ち込んでいるのよ」


 森に向かうオオガミを見送って、しばらく経った後。

 オオガミは間に合ったのだろうか?と考えている僕に話しかけてきたのは、

 同じパーティーに所属するエナだ。

 腰まで伸びている金髪の上に黒い三角帽、可愛らしい顔をしているのだが、気

 が強いのが残念なところである。


「別になんでもないよ。金欠に悩んでいただけさ」

「簡単よ。そんなの私に任せればすぐに解決できるわよ」

「……」


 ………解決できてないんですけど

 僕が回復担当なら、オオガミが接近戦担当なら、彼女は遠距離担当である。

 エナは魔法を使って戦う魔法使いである。

 魔法使いの攻撃は強力。そして派手である。なのでエナの攻撃は毎回僕を魅

 了する。でも……あのせいで、エナの魔法は滅多にしか見ることできないけど。


「ねぇサク。あんたの回復ヒールで空腹って治せないの?」


 こいつは何を言っているのだろうか?


「できないよ。ヒールは傷を無くすだけなんだから」

「万能じゃないのね」

「無茶なこと言うなよ!」


 まったくヒールを何だと思っているんだよ?


「エナ、さっき僕とオオガミの食料奪って食べてたじゃないか?」

「少ないわよ!魔法を発動させるにはかなりの体力が使うの!だからお腹なんかすぐに減るの」

「オオガミ。そのせいで毒キノコ食べて、下痢なんですけど」

「知らないわよ。まぁ、さすがだわ。毒キノコ食って下痢なんて子供じゃないんだ

 から。あ!頭は子供だったわね」


 ……最低だ

 下痢しているオオガミを心配することなく、あざ笑うエナ。食べたオオガミ

 も悪いけど、なんだか可哀想になってきた。

 彼女は可愛いのだが、性格に難がある。

 出会った当初。エナの可愛い顔にときめいた自分がいたが、人の不幸が好きなところ、貪欲なところなど知ってしまった今、恐ろしい女だと思っている。


「さっさと依頼を終わらせて、ご飯にするわよ!もし依頼失敗して飯抜きとかなったら許さないからね!」

「……分かったよ」

「さぁ、今日も肉を食べるわよ!」


 ……マジかよ。

 あんなに肉食べたのに、まだ飽きないのかよ。

 残高0ゴールド。僕ら金欠になったのはオオガミが聖剣(ニセモノ)を買ったせ

 いでもあるが、エナのせいでもあるのだ。

 四日前の出来事。

 依頼を終わった俺らはもらった報酬が予想以上に多かったので、酒場で宴を

 することにした。

 それが事件の始まり。

 彼女は大食いだった。酒場にある肉全てを食いつくすほどの。

 次々に出てくるお肉を一瞬で消してしまうのだ。

 この人魔法使いだから魔法で消しているのかな?と思っていたけど、魔法は関係なく、普通に食べていただけだった。

 その結果、俺らは高額な請求に払うことができず、全財産の六万ゴールドを払って、「二度と来るな!」と酒場のオーナーから出禁にされてしまった。


「はぁ……お金……あんなにあったのにな」

「確かに。あのバカが聖剣ガラクタなんか買わなければ、もっとマシな飯が

 食えたのに」

「……」


 エナがあんなに肉を食わなければ、金欠に悩まされることはなかったのに。

 向けられる僕の視線に居心地の悪さを感じたのか、エナは冷や汗を流しながら睨む。


「何よ!私も悪いって言いたいわけ?あの時はしょうがなかったの……魔法使いすぎて、頭が回らないほどお腹空いていたんだから、いい? 私は空腹になると理性を失うの!何か食べないの、暴走してしまうのよ!」

「つまりあの日酒場の肉を全て食ったのは、暴れないためって言いたいの?」

「そうよ。納得でしょ」

「……そっすね」


 どんな設定だよ。

 僕は視線を逸らしながら答える。

 なぜか威張りながら笑っているエナを見て自然とため息が出てくる。


「うおおおおおお!」


 遠くから聞き慣れた声が聞こえる。

 オオガミ……と誰だ?

 小さい姿はどんどん近づき、大きくなっている。僕は目を凝らすとオオガミが誰かに追いかけられている。


「げっ!」


 分かった瞬間。自然と声が漏れる。


「なんでゴブリンなんか連れてきているんだよぉぉぉぉぉ!あのバカぁぁぁ

 ぁ!」

「へへへっ、クソしてたらゴブリン見つけてよ。こいつなら食えると思って」

「食えるわけないだろ! ゴブリンの肉なんて!」

「一匹だったから勝てると思ったけどよ。あの野郎仲間呼びやがって……卑

 怯と思わないか?」

「……」


 ゴブリンは臆病な生き物だから、敵を見つけたら襲う前に仲間を呼ぶ習性

 があるんだよ。って言ってもオオガミは分からないだろう。

 早く逃げよう。

 ゴブリンは20体。やばい、殺されちゃう。


「二人とも私の後ろにいなさい」

「エナ」


 僕とオオガミが逃げているのに彼女だけは戦闘態勢にはいっていた。

 ルビーが埋まっている杖を前に構え、魔法を発動させるために狙いを定める。


「赤き精よ」


 そして目を閉じて力を籠めると、杖先には小さい赤い光が灯っている。

 僕は綺麗だなと思いつつ、今回は成功するんじゃないかと期待する。

 赤い光は大きくなっている。

 頑張れっ!エナ。ゴブリンの皮はよく売れるぞ。


「私の炎でくたばりなさい!……インプレしゅぅ……ん」

「噛むなぁぁぁぁ!」


 大きくなっていた赤く光は消え、エナの顔が羞恥で赤くなっていた。それ対して怒る僕。

 失敗だ。

 魔法は呪文を唱えて発動させるものなのだが、呪文を一回でも噛んだりしまうと魔法は不発に終わる。

 彼女は呪文を唱えるのが苦手だ。

 もう呆れて笑うことしかできないぐらいの。


「エナ、オオガミ、退散っ!」


 僕が入っているパーティーは呪文を噛む魔法使いエナとバカでトラブルメーカーのオオガミ、計三人で活動している。もちろん弱小パーティーだ。その上お金がない。

 こんな僕たちだけど今日も生きるためにお金を稼ぐ。

 ……てか金欠の原因、僕関係なくない?

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ゴブリンも倒せない者ども 春晴 @harutyan220

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