第24話 鬼の目にも涙


「人間が追い回されてるな。」


「ねえ……。これってもしかして地獄じゃない?」



 そう言えば生き物パックに地獄ってあったな。


 言われてみれば確かに地獄っぽい。



「久満子ちゃんの言う通りかも。」


「でしょ? でも可哀そうだね。あの人達は何して地獄に来ちゃった人なんだろう……。」


「ちょっと聞いてみよっか?」


「お願い。」



(ダイよ。)


(神様ですか。どうしました?)


(あの人間達は何で追い回されているのか聞いてみてくれ。)


(わかりました。)



 ダイは赤く体格の良い鬼に話しかけ始める。



「やあ。俺は魔王ダイ。その人間達は何で追いかけられてるんだい?」



 グェッヘッヘと鬼は笑って答えた。



「アイツらは寝る前に歯を磨かない。だからだ。」



 嘘やろ? ばっちぃ……。



 続けて青い鬼のいる方を指さして……



「向こうの青い奴に追いかけられてる人間達、お風呂の中でおしっこした。重罪だ。」



 そりゃ重罪だ。



 更に黄色い鬼の方を向いて続ける。



「黄色い奴に追いかけられている人間、大犯罪者だ。凄く悪い奴。」


「い……いったい、彼らは何をしたんだい?」



 ダイが恐る恐る聞くと赤い鬼はこう答えた。



「アイツらは合コンで女の子にゲロをかけた。調子に乗って飲み過ぎだ。大犯罪者だ。」



 確かにそれは戦犯ものだ。大犯罪者だ。



「お前らもここにいる。さては悪い奴だな?」


「俺らはそんなに悪い奴じゃないと思うけど……。」



 ダイが答える。



「鬼は相手の魂を見る。罪を暴き立てるのだ。お前らを見てやるぞ!」



 魔王軍一同は「どうぞ、悪い事なんてしないし。」と答えた。



「ダイ。お前良い奴。全く悪い事してない。」


「それはどうも。」



 ダイは頭を下げる。



 それは嘘だろ。最初に男だけぶっ殺してたじゃん。


 鬼基準では男ぶっ殺すのは悪くないって事?



「そっちの吸血鬼の女は……。可哀想な奴。いつも怯えてる。何かあれば相談に来い。」



 きっとサリリに怯えてるんだろう。可哀想な奴。ジャンヌは涙目だ。



「魔法少女の恰好した奴。お前は……。」



 鬼はピタリと言葉を止める。


 どうしたんだ?



「お、お、お…おま、え……怖い。見た事、ない。こんなに魂真っ黒な奴見た事ない!」



 鬼は後ずさりながらも言葉を絞り出す。



「地獄でも無理。魂浄化できない程、黒い。悪魔の王よりもさら……」




 グシャッと何かが潰れる音がした。





 サリリが巨大なハンマーでもって赤い鬼を叩き潰していたのだ。


 ハンマーをどけると赤いシミだけが地面に残っている。


 恐らく凄まじい衝撃で肉が殆ど残らなかったのだろう。



「ほらほら! ここは敵地ですよ。敵とまったりお話しちゃダーメ!」



 その場に居た全員が無言だった。ジャンヌなんて怯えた顔で頭を両手で抑えながら涙を流している。


 ちょっと可愛い。


 鬼たちはサリリに気が付いたのか、パニックを起こし逃げてしまった。



「あれ? 皆どうしたの? おーい。鬼さんこちら!」



 サリリは鬼たちに話しかけるが、話しかけられた彼らは悲鳴をあげ更に勢いを増して逃げた。




 え? サリリって魂そんな真っ黒なの!?


 怖すぎるだろ!


 今後のサリリの見方が変わりそうだ。



 でもおっぱい要員は外せない。非常に悩ましいところだ……。



「魔法少女って凄いんだね!」



 久満子ちゃん……。感想がまさかのそれ?


 もっと言う事あるでしょ。



 ここに居ても仕方ないと思ったのか、ダイが指揮を取り鬼たちが逃げた方向へと混成軍の歩を進めさせる。


 ダイ、頼りになるなぁ……。


 先程の事は皆なかったことにしたいようだ。さっきの話題には一切触れず、魔法ってやっぱ凄いよね。とかサリリさんは甘いものが好きなんですよね? 可愛いですね。とか言ってる。



 怖いからご機嫌取りに走ったなこいつら……。



 ちなみに久満子ちゃんとこのシロクマコンビは、サリリから一定の距離を保ち絶対に近づかないようにしている。



 よっぽど怖かったんだろう。可哀想に……。




 賑やかに会話しながら歩いていると、鬼たちの逃げた方向から立派な服を着た身の丈10mくらいの大きな鬼が、混成軍に向かって歩いてきた。頭上には閻魔大王と表示されている。



 流石は地獄。地獄と言えば閻魔大王だしな。



「悪い魔法少女が居ると聞いて退治にやってきた。」



 閻魔大王が話しかけてきた。


 悪い鬼を退治しに桃太郎がやってきたんじゃなくて、悪い魔法少女を退治しに鬼がやってきたわけだ。



「悪い魔法少女なんて居ないわ! 魔法少女は皆の願いを叶える為にいるのよ!」


「はっはっは。お前のように大量殺戮する悪い奴が何を言う!」


「そんな事しないわよ。魔法の威力がちょっと強いだけ!」



 サリリの魔法なんて原爆規模だろ……。


 頼むから威力の調整ミスしないで下さい。



「悪魔の王より悪い魔法少女よ! 俺が裁いてやる。」


「ふん! 逆に私がアンタなんて捌いちゃうんだから!」



 それって魚とかさばく時に使う字だよね?


 閻魔大王を捌くの?



 俺達が見ているディスプレイは、微妙なニュアンスまで汲み取って字幕にしてくれるようだ。



「そーれぃ!」



 巨大ハンマーを持っているとは思えない速度……というかスロー再生してくれないと見えない速度。


 閻魔大王がピンボールのように弾き飛ばされては、それを拾う様に高速で移動してハンマーを次々と叩きつけるサリリ。


 工事現場とかでガガガガって音する機械あるじゃん? 掘削機って言うんだっけ? あれを大音量にしたような音が連続であちこちから鳴り響いてる。



「近接戦闘も出来たんだ……。」


「魔法少女ってこういうのも必要技能なのかな?」



 多分違うと思う。

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