第28話 真美ちゃんの夏休みの宿題 後編

 真美ちゃんが飲み物を取りに行っている間に資料として渡された漫画を読んで待つことにした。テレビでやっているのを見たことがある漫画だったので内容自体は少しわかっていたのだけれど、テレビと漫画では少し展開が違うところが面白かった。

 一冊読み終えても真美ちゃんは戻ってこなかったので二冊目を読んでいる途中で真美ちゃんが飲み物をもってやってきた。

「お待たせ。ちょっと手間取っちゃったよ」

 僕が漫画から真美ちゃんの方へと視線を向けると、そこには僕が呼んでいた漫画のキャラクターの服を着ている真美ちゃんが立っていた。

 真美ちゃんは何事も無かったかのように僕に新しいジュースを渡してくれたのだが、僕は思わず一巻の表紙に描かれている男の子と真美ちゃんを見比べてしまった。

 なんとなく違和感を覚える以外はパッと見た感じでは同じように見えるのだけれど、その違和感の正体はおそらく真美ちゃんの体が細すぎるというものだろう。細かい装飾品なんかも違ったりはするのだけれど、それ以上に体の線が細いという事が気になってしまうくらい体型に違いがあったのだ。

「ちょうどそれを読んでてくれたんだ。ねえ、私のこの衣装はどう思うかな?」

「良いと思うよ。細かいところはちょっと違うように見えるけど、それくらいだったらそんなに違いは無いと思うし」

「やっぱりそこが気になっちゃうよね。でも、これって漫画版のじゃなくてアニメ版のやつなんだよ。ほら、こっちの画像見て欲しいんだけどさ、アニメと漫画ではここも違うんだよ」

 真美ちゃんに見せてもらった画像を見ると、確かに漫画版とは少し違った服を着たキャラクターがそこには映しだされていた。今真美ちゃんがきている服とほぼ変わらない装飾品や小物もあるのだけれど、漫画とアニメは微妙に違うんだと知ることが出来たのだ。

「他には何か変なとこないかな?」

 真美ちゃんはまっすぐに僕を見つめてそう尋ねてきた。僕は渡されたジュースを一口飲むと、体の線の細さを伝えるべきか悩んでしまった。この漫画に詳しくない僕が違和感を覚えるくらいなのだから、この作品が好きな人にはそれが物凄く大きなことに感じてしまうかもしれない。でも、それを伝えたところで衣装が編という事でもないので何も改善することが出来ないという思いも僕の中ではあった。

 迷った結果、僕はそれを伝えることにしたのだ。

「正直に言うね。真美ちゃんは華奢なのにスタイルもいいじゃない。そのせいだと思うんだけど、このキャラクターに比べて線が細すぎると思うんだよ。着ている服も表情もとてもいいと思うんだけど、真美ちゃんがやるには体が細すぎると思うんだよね。それはどうすることも出来ないとは思うけど、そう思っちゃったんだ」

「それってさ、体型以外は大丈夫って事?」

「うん、僕はそう思ったよ」

「そっか、まー君はそう思ってくれたって事なんだね」

 僕も真美ちゃんもお互いにジュースを口に運んだまま気まずい沈黙が流れてしまった。

 何か別の言葉で言えばよかったかなと思いながらも、僕は今更訂正することも出来ずに自分の言った事を後悔していた。

 後悔するくらいなら言わない方が良かったとは思うけれど、言わなければ僕は違和感を隠して黙っていたということになるのだ。それは真美ちゃんも望んでいなかったと思うし、伝えるべき事柄ではあったと思う。それでも、僕は別の言葉を選んで傷つけないように伝えれば良かったと思っていた。

「まー君はさ、体型以外は問題無いって思ってくれたって事かな?」

 沈黙を破ってくれたのは真美ちゃんで、僕はそれにつられるような形で答えていた。

「そうだね。やっぱり性別が違うから仕方ないとは思うけど、体型が違うからそこは気になったかも。でも、それ以外は良く出来てると思うよ。真美ちゃんが用意された衣装を着ているっていうよりも、真美ちゃんがこのキャラクターになったって言われても気付かないくらい似合ってるからね」

「それって、私が体型以外はその子になりきれてるって事かな?」

「そうだと思うよ。上手く言えないけど、このキャラクターが女性化したら真美ちゃんみたいになるのかなって思う感じかも」

「そっか、そう言ってくれるなら安心だね。この服は私が着るようにきっちり測って作ったんだけど、そうすると女性っぽさが出てしまってると思ってたんだよ。胸の所とかはどうにかすることも出来たんだけど、股上だけはどうすることも出来ないんだよね。男性と女性ではズボンの造りがそもそも違うからさ、どうしてもそこが納得いかなくてね、まー君に助けてもらいたいなって思ったんだ。今履いているズボンを脱いで詳しく見せて欲しいところなんだけど、ジャージじゃ参考にならなそうだよね。今度さ、何でもいいんでズボン見せてくれないかな。今度で良いんだけど、まー君の履いてるズボンを参考に衣装を改良しようと思うから。ほら、愛ちゃんとデートした時のあのオシャレなやつで」

「わかったよ。今度もってくるね。でも、僕じゃなくてお父さんのとかじゃダメだったの?」

「パパのはダメなの。パパって太ってるから参考にならないんだよね。パパのズボンは私とママが一緒に入っても余裕があるくらい大きんだもん。そんなんじゃ何の参考にもならないと思うのよね」

 机に飾られている家族写真を見た感じでも真美ちゃんのお父さんの体が大きいというのは分かっていた。

 確かに、あれくらい大きい体の人が履くズボンは参考にならないのかもしれないな。そう思いながら写真を見てみると、真美ちゃんの顔はお父さんの方に似ているように見えていた。ハーフで外国人要素の大きい真美ちゃんなので当たり前だとは思うのだけれど、真美ちゃんのお父さんは大きいだけでイケメンなのは僕が見てもわかる事であった。


「じゃあ、私の衣装をじっくり見てもらおうかな。それも目的の一つだったからね」

 僕は手渡された画像と真美ちゃんを見比べていたのだけれど、体型以外は本当に問題が無いくらい良く出来ていた。男性用ではなく女性用に作られた衣装だと思えば何の違和感も無いくらいに素晴らしい出来であると思う。

 詳しい人が見れば多少の荒は見つかるかもしれないのだが、素人目に見ればそんなものは何も感じることは無かった。

「おかしいって思うところがあったら言ってね。着ているだけじゃわからないところもあるからさ」

「おかしくは無いと思うよ。さっきはこの衣装と比べてみてるだけだったから違和感があったけどさ、このキャラクターが女性になって着るとこうなんだろうって思うとそれもなくなったし」

「それなら良かった。じゃあ、その画像では見えないところも見てみてよ」

「画像では見えないところ?」

 真美ちゃんは上着を脱ぐと中に真っ白いシャツを着ていたのだ。その下にも一枚着ているようなので下着は透けていなかったのだが、ぴったりとしたシャツになっていたので体の線が強調されていた。特に、胸は圧巻のボリュームがあったのだ。

 僕が思わずそこから目を背けてしまったのだ。

「ちゃんと見てくれないと愛ちゃんに言うよ」

 真美ちゃんは少しだけきつい口調でそう言ったのだけれど、僕には胸をじっと見ている方が良くないのではないかと思ってしまった。

「次はさ、まー君の違和感を無くしてみようよ。そうすればこの衣装も違う風に見えるんじゃないかな」

 なぜか真美ちゃんは履いているズボンを脱ぎだしたのだけれど、さすがに僕はそれを直視することが出来なかった。

「ちゃんと見て欲しいけど、ズボンを脱ぎ終わるまでは見ないで欲しいな」

 僕は真美ちゃんがズボンを脱ぎ終わっても見るなんて出来ないと思っていたのだが、そんな僕を真美ちゃんは優しい口調で諭すように説得してきたのだ。

「大丈夫だよ。このシャツが大きいからパンツは見えないようになってるからね。ほら、見えないでしょ?」

 僕は自分の意思で見ようとしたのではなく、真美ちゃんに見てくれと言われたから見たのだ。いや、そう言ってくれるのを待っていただけなのかもしれない。

 真美ちゃんの着ているシャツは真美ちゃんの太ももくらいまである大きいモノであったので本当にパンツは隠れていた。

 隠れてはいるのだけれど、白いシャツなので若干透けているパンツが見えているのだ。そのうっすらと見えているパンツは今まで見た事とのあるどのパンツよりも隠されているブブが小さく、親指二本を並べると隠れるのではないかと思えるくらい小さかったのだ。

 どうしてそんなに小さいパンツを履いているのだろうと僕は純粋に思ってしまって、それがどうやら口から出ていたようだ。

「もう、まー君ってエッチだね。でも、これは仕方ない事なんだ。普通のパンツだと線が浮いちゃうかもしれないからね。私の体型にピッタリ合わせちゃってるからさ、パンツのラインが浮くとどうしても男性っぽくなくなっちゃうからさ。後ろもほとんど紐みたいな感じだからね。そっちは本当に見ちゃダメだからね」

 僕はそのシャツの裾があるのでパンツのラインは浮かないのではないかと思っていたのだけれど、僕にはわからない何かがあるのかもしれない。

 そんな風に思っていると、なぜか真美ちゃんはシャツを持ち上げて僕にその隠されていた部分を見せてくれたのだ。


 赤く小さい三角形は僕の親指二本よりも大きいように思えたのだ。

 いつもであればパンツよりも真美ちゃんの綺麗な白い肌が印象に残ってしまうのだが、今日に限って言えばその小さな布に隠されている部分がとても気になって仕方なかった。

 ひし形上になっているだけで隠されている部分はとても少ないのだが、大事な部分はきちんと守られていてかろうじてパンツの役目は果たしているようにも見えていたのだ。

 真美ちゃんは少し恥ずかしそうに僕を見下ろしていたのだけれど、目を合わせると恥ずかしそうな顔を浮かべて僕から目を逸らしたのだ。

 先程までのキリッとした表情のキャラクターではなく、恥じらいをもった真美ちゃんがここに居るのである。

 大きいシャツを着ているだけの女性だと思えば当たり前なのだが、先程まで見ていたきっちりとした服装を思い返すと、僕は何とも言えぬ感情を抱いてしまっていた。


「あんまりじっくり見ちゃダメだけど、ちゃんと見ないのもダメだからね」

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