第6話 総体予選・通過点

1 視点

 最後の一口を飲み干すと、再び淡いピンクの花柄があしらわれたティーカップに紅茶が注がれる。セバスは終始ニコニコ顔だ。


「さてさてお茶も入りましたし、あやみんさま。そろそろお隣よろしいでしょうか?」

Noのー


 今日はお肌にいいやつ、ローズヒップティーをご馳走になっている。透明度のある赤色が鮮やかで、カップから口を離す度に眺めてしまう。


「ほんら、あやみん。また試合が始まるよん」

「セバスの隠し撮りのターンが終わったから、早くこっちにおいでなさ~い」

「あ、うん!」

「あやみんさまお待ちくださ――……フフ。熱心ですね、本当に」


 そう、私は別に、薔薇が咲き誇る中庭を背景に、冷房の効いた凜々果のお屋敷でハーブティーを飲みに来たわけではない。

 総体予選が終わって、約1か月が経った。もう7月に入っている。

 ということで蝉の声で朝を迎え、蝉の声を傍らに授業を受け、蝉の声を窓一枚で遮断して、ラケットを振る日々の私たちは、夏休みの計画も兼ねてお泊り会を……じゃなくて研究会を開いていた。


 映画館張りの大きなスクリーンに映るのは、総体予選会場のバドミントンコート。

 取りあえず予選の団体戦、1試合目を観終わったところである。ああえっと正確には1試合目の後に始まった、セバスが録画編集をした私の謎映像が流れ終わったところだった。

 ストレッチをしたり水分補給をしているだけなのに、セバス視点だと何だか恥ずかしい。だから私は綺麗な色をしたお茶にエスケープをしていたのだけれど、花林と茉鈴に呼ばれて、みんなが座るふかふかなソファーへと飛び込んだ。


「ちょっとあやみんさん、子供ではないのですからめてくださいっ。そんな風にダイブなさったら、ソファーが傷んでしまいますよっ」

「だってこのソファーやばいんだもんっ。ねー?」


「ねー♪」と、花林と茉鈴も同調してくれた。

 三人でうつ伏せになって、キングサイズのベッド3つ分くらいの広いソファーの上で跳ねると、美鳥と凜々花の身体は簡単にぴょこぴょこ弾んだ。

 そうしてきゃっきゃ言いながらじゃれている間に、ネットの前で整列する私たちがスクリーンに映った。

 私が飛び起きてソファーの上で正座をすると、凜々花が「特等席ですの♡」と言って、太ももに頭を乗せて来た。花林と茉鈴は寝そべったまま頬杖をついて、美鳥は足を下ろして眼鏡をくい上げすると姿勢良くした。

 そんな風に各々好きな格好でスクリーンを注視する。


『お願いします!』


 布陣は一試合目と同じ。第1ダブルス、花林・茉鈴ペア。第2ダブルス、美鳥・私ペア。第1シングルス、凜々果である。

 相手は弥生高校。シード校との勝負だった。

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