6 閃き

「では片寄先生、外を走って来ますね?」

「ああ。でも廊下は走るなよ~」

「「「「「はーいっ」」」」」

「ちょっとみなさま~! 私めのことも忘れないでくださ~い! ……って、みなさま揃って無視をされるなんて、あんまりですよぉぉ~!」


 私はみんなの輪の中、おいおいと泣くセバスに笑顔で手を振る。


「あやみんさん、だめですよ?」

「セバスなんか無視で結構なんですわ」

「そうだよ~。ああいうタイプって、甘やかしたら絶対しつこいよ~。ね、茉鈴?」

「だね、花林。あやみん好かれてるから、気を付けた方がいいって絶対~」


 酷い言われようだ。

 でも、ちょっと背伸びしたい年頃の女子は、どんなに年上だろうが目上だろうが、異性を小馬鹿にするのがテンプレートだったりする。苦い経験もしてきて、ここまで大きくなったのだからと、胸を張って知ったような口を利くのだ。


 とは言え人を傷付けるのはだめだし、セバスもごめんね!


 けれどこうしてみんなとふざけ合っていると、あの子のことを忘れられる気がした。

 でもそれって、いいのかな。そんなこと、本当は許されないんじゃ……。そう思った。


「はぁ」

「またその目です」

「へ?」

「昨日も度々、その目をしていました。……最後にされたのは、居眠りをされる前にです」

「え……」


 顔に出ていたんだ。うわぁ、そういうところが足りないんだろうな私。


「話し掛けて良かったです。思い付きついでにしては、部の設立まで出来ちゃいましたし」

「え。ついで、思い付き……って、うええっ⁉」


 これには、みんなも驚いている。相変わらず超絶美少女だけは、小首を傾げているけれど。


「上手く引っ張り出せたつもりでしたけれど、まぁそんなに何でも都合よく、事は運びませんよね」


 そう言って、美鳥は眼鏡をくい上げする。

 私は只々ただただその姿を見つめた。びっくりしすぎて、滲んだ視界で見つめた。


「な~んか深刻そうだね?」

「んね。悩みは誰にでもあるけどさ、わけありかな? 話ならいつでも聞くよ?」

「あのっ、ワタクシにも、ワタクシにも話してほしいですのっ。ワタクシだって、あやみんちゃんの味方ですものっ。頭の天辺ここから足の爪先そこまで、あやみんちゃんのものですからっ」

「み、みんな……」


 嬉しい。みんなの気持ちが嬉しかった。でもみんなとは、まだ会ったばかりなのに、どうしてそんなに信頼をしてくれるのだろう?

 それに――。


「り、凜々果のは、なんかちょっと違うような……?」

「え? え~っ、ですの!」


 凜々果の反応に、思わず笑ってしまった。


「ううん、ごめんね嘘。すごくうれしいよ。ありがとう凜々果。みんなもありがとう」


 私の気持ちが伝わったのか、みんなは、ほっとしたように笑顔になる。みんなの瞳に映っていた自分も、同じような顔をして笑っていた。


「でもさ、ひらめきで部を立ち上げられるような道筋は考えられるのに、さっきの勝ち抜き戦は詰めが甘かったね?」

「あ、花林。それを蒸し返しちゃう?」

「いいじゃないですか。目標は高い方が楽しいですよ? 想像を超える結果が生まれますから。それに目標を高く設定したお陰で、花林さんと茉鈴さんはともかく、意外とあやみんさんがプレッシャーに強いこともわかりましたし、凜々果さんの実力もの当たりに出来ました」

「そっか確かに。んっじゃーさ、その高みってやつ。部の目標にしようよ? よくない⁉」


 花林の思い付きに、みんなで頷いた。


 数日後、注文をしたユニフォームが片寄先生から配られた。

 けれど、なぜか私が希望をしたピンクのユニフォームで、意味がわからなすぎて一瞬時が止まったようになった。

 どうやら茉鈴が変えてくれたらしい。

 気が変わって、2番目の候補にしたんだってさ。

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