窮地

僕は足早に廊下へと続く扉に歩み寄り、ゆっくりと扉を開けて外を確認する。

外には二体のアデラインの人形が破壊された状態で転がっている。奥へと続く扉の前にはトマーチンが立っていた。


「ご無事でなによりです」

「閃光弾は助かったよ。説明が足りなかったけど」

「少々忙しくてあのような説明で済ませてしまったことを反省しております」

「クレアラは?」

「ガーデニア様は奥の部屋に。アイリー様もこちらへどうぞ」

 

 奥の広間の扉を開けて僕を誘導するトマーチン。

 

 僕は素直に奥の部屋へと移る。広間にはクレアラと今まで姿を見せていなかったロドニーもいた。どうやら彼も無事だったようだ。トマーチンも部屋の中に入り扉を閉める。


「それでこの後はどうするの?エレベーターを使って出るには危険すぎるでしょ」

「今、裏口が使えるかレニエに確かめさせております」


 状況が分からないのはルーベスだけか。無事だと良いけど、確かめる術も助けに行く術もない。だから、今は待つしか無いようだ。


 ロドニーはこんな状況でも円卓を取り囲む椅子の一つに腰かけて、落ち着いた様子を見せている。おそらく彼だけは戦っていないのだろう。

 現在の状況にイマイチピンと来ていないのかもしれない。ロドニーは僕の視線を感じ取ったのか。僕の方を見て笑顔を見せる。


「落ち着いて座っているのが気に障ったかな? しかし、焦ったところでしょうがないからね。君達もゆっくりすると良い。どちらにせよ待つのなら、座っていても変わらない」

 

 いつまた襲撃が起こるか分からない状況で、よくこんなに冷静でいられるな。

ルーベスも変わり者だけど、この人も変わっている。


「大丈夫だった?」

「私の心配はいらないわ。貴方より慣れてるもの」

 髪飾りをほどいたせいで、少し乱れた髪を呪義手で整えながら彼女は答える。


「それはそうだけど──ね」

「問題はアナタの方だったのよ。──慣れない義手でよく頑張ったわね」

 

 珍しくクレアラが僕の事を褒めてくれる。少し彼女からの当たりが柔らかくなった気がする。

 

 裏口と言っていた方向から爆発が聞こえ、床が振動する。

 レニエが噴き出す煙と共に扉から出て来る。


「元当主様の人形が数体立っていました。裏口も固められたせいで逃げるのが難しい状況ですね」

「手回しが良いことだな」


「あぁ、チェックメイトではないかね」

いつの間に転移したのか、部屋の端にバーディクトが壁にもたれ立っていた。レニエとトマーチンはマシンガンをバーディクトに向ける。更にトマーチンは懐から手榴弾を取り出し、持ち手の親指をピンに引っ掛けていた。


「この状況は逆じゃない?」

「そうでもない」

 僕の言葉を軽く否定し、バーディクトは自分の指を打ち鳴らした。

 

 それを合図に部屋のあちこちに八体のアデライン人形が転移してくる。状況は一変した。数で言ってもこちらが負けている。この状況で乱戦になって果たして生き残ることができるだろうか?

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