依頼者

やっぱり彼が今回の依頼者だったらしい。自分も来るとは一言も言ってなかったくせに。


再生し終わった人型ゴーレムの一体がガーデアに襲いかかる。

彼女は人とは思えない跳躍力でゴーレム達の頭上を通り過ぎる。


地面に降り立った彼女は、髪を結んでいた三日月型の髪飾りを残った右手で解き、手にぶら下げる。

髪飾りから解かれた銀色の髪が柔らかく広がる。

彼女の持つ三日月型の髪飾りが赤い輝きを放つ。

それを自身の頭上で回転させながら、反転して襲い掛かってきたゴーレムに向けて、三日月のついた髪飾りを振るう。


刹那、手に持ったチェーンの部分は手の平一杯に太くなる。飾りは一―メートルをゆうに超える巨大な三日月の刃に変化した。刃はゴーレムをやすやすと両断する。


その勢いはゴーレムを切っただけでは止まらずブレサイアに向かって飛んでいく。

その刃に晒されたブレサイアの一人は瞬時に祈り、その場から転移して逃げる。


巨大化した髪飾りは、すぐにまた小さく変化しガーデニアの手の内に戻る。

転移を終えて、僕らから離れた場所に再び現れるブレサイア。


僕は倒れていた犬の足が再生を終える前に、首元に歩み寄り首筋のEの文字をだけを狙って撃ち削り取る。瞬く間に犬のゴーレムの一体が土くれに還る。


再生が済んだ人型のゴーレムの一体が、走りながら僕に近づいてくる。

ドタドタと地響きを立てながら、うるさいったらありゃしない。


落ち着いた動作でバックステップをしながら相手との距離を保ち、走ってくるゴーレムの膝を打ち抜き転倒させる。倒れたのを確認し、すぐに接近して首筋のEに弾丸を打ちこみ、その一体も土くれへと変化させる。


バッドデイも慣れた要領でゴーレムの攻撃をかわしながら、足に向けて銃を撃って態勢を崩し、裏に回って首筋に弾丸を打ち込んで破壊する。


「ソイツもお願いね。犬は苦手なの」


それを見てガーデニア残った犬の始末もお願いしてくる。

僕もバッドデイも同時に犬に銃を撃ち始める。

左右に飛び跳ねながら、銃をかわしながら僕に飛びかかる。

僕は一旦銃を撃つのを止める──


足が細いから横に動かれると狙いにくい!

できるだけ引き付けて、犬が口を開けて飛びかかって来たところを狙いすます。二丁のハンドガンを構え口の中にめがけて、連射した。


犬の頭が吹き飛び、床に落ちる。頭のない体を身悶えさせている。

バッドデイが倒れた犬に歩み寄りながら、落ち着いて弾倉を交換する。

僕も撃ち尽くした両手の銃の弾倉を投げ捨てた。ジャケットの内側から弾倉を取り出し入れ替える。


文字が再生したのを見計らい、ふたり同時に犬の首筋を撃つ。

お互いの弾がぶつかり、EだけではなくMの余計な文字まで削りとる。


僕と彼はヤレヤレといった感じで、お互いに大きく溜息をついて顔を見合わせる。


犬の頭部が再生を終えると、大口を開けてバッドデイに噛みつこうと飛びかかる。

彼は左手の銃の弾倉の部分で、力任せに犬の頭を押し付けて地面に叩きつけた。

そして無理やり口を閉じさせる。その状態で完全に文字が再生するまでしばらく待ち、首筋に再びEの文字が現れたのを確認して銃を接着させ、そこだけを打ち抜いた。


「息が合わねぇえな。おかげでカッコつかなかっただろ」


「息がピッタリあったせいだろ。大人がグチグチ泣き言を言うなんてみっともないね」


振りむきざまにブレサイア達に向けて二人とも銃を構える。


もう一体残っていたペンデュラムで両断されたゴーレムは、何故か体を再生できずに体を引きずりながらガーデニアに這いよっている。

 特に行動を起こさず、それを冷たく見下ろし続けるガーデニア。

 バッドデイが離れた場所から、ゴーレムの首筋に銃弾を撃ちこみ、土くれに戻す。


「ずっと待ってたのだけど、随分と行動が遅いんじゃないかしら?」

「もう少し良い女なら待たせるつもりはなかったんだけどな」


皮肉に減らず口で対抗するバッドデイ。


「そう、残念ね。思い当たるところも無いのだけど。コレが気になるのかしら?」

 ブラブラと垂れ下がった袖を軽く揺らしてみる。


「関係ない相手に喧嘩を売ってる場合じゃないでしょ。今はアイツらをどうするのかが先決だろ」


 両手の銃をそれぞれのブレサイアに向けているが、このまま撃っても当たらないのが分かり切っているから引き金を引けない。


「ハンドガンでは不便じゃないかね? ブレサイア相手には?」

 椅子に座り戦いを見守っていたブラインドマンが声を掛けて来る。


「お前らの獲物の方がよっぽど不便だろ?」


 バッドデイの言う通りだ。剣なんて時代遅れだし、かたや髪飾りにも使えるペンデュラムだ。普通に考えたらそっちの方がよっぽど不便だ。


しかし二人の戦い方には一切の不便さは感じさせない。ブラインドマンはブレサイアと同じような転移が使えるし、もう一人の女の身体能力は人間を超えている。


「重宝しているよ、我々にとってはね」


 椅子に腰かけながら、ブレサイアに向けて血濡れの剣を向けるブラインドマン。

しばらくの間三者三様で睨み合いが続く。緊張で銃を握る手に汗が流れるのを感じる。


 すると急に後ろ側にいたブレサイアが、前に立っていたブレサイアの元へ歩み寄り、背後から首元に噛みつくと血を啜り始める。


 突然背後から掴まれて噛まれて、何が起こったから分からないままに慌てる、前に立つブレサイア。


 しかし、次第にその体から力が抜けて、だらり腕を落とす。

 ブレサイアが人を襲うのは見たことがあるが、ブレサイア自身を襲うのを僕は見たことがなかった。

 嫌な予感が走り、僕とバッドデイはお互いにブレサイアに向けて銃の引き金を引く。


しかし銃弾は途中で青白い炎によって燃え尽きてしまい、相手の体には届かない。


「本来、ブレサイアは人の血と祝福を奪う奴らだ。余り見られるものではないがブレサイア同士で血を奪い合うとどうなるか見たことあるかね?面白いモノを目にできる」

 

 ことの成り行きを知っているかのように、ブラインドマンが冷静に状況を説明してくれる。血を吸われたブレサイアがミイラの様なカラカラに干からびた顔に変貌して地面に倒れる。

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