第31話 作戦その一・ランニング

 次の日の早朝。


「はぁ……はぁ……」


 心地いい風と暖かな日差しを浴びながら、まことらんは河川敷を走っていた。


 スポーツウェアに身を包んで、やる気十分っ! なのだけど……。


「はぁ……はぁ……」

「ほらほら、どしたーっ? まだ走り始めたばかりだろー?」

「きっ……キツすぎですよ……っ」


 隣を並んで走る蘭の声に、真は息を切らしながら答えるしかなかった。


 軽いウォーキングから始まり、徐々にスピードを上げていく。


 そして、ある程度体が温まってきたら、ペースを上げて……下げて……上げて……の繰り返しだった。


 美風みかぜ先輩曰く、このアップダウンが、足に負荷を掛けられていい運動になるらしい。


 走りながら聞いていたから、あまり覚えていないけど。


「はぁ……はぁ……美風先輩、ちょっと休憩しませんか……? はぁ……僕、もう一歩も動けません……」


 と言ってその場に立ち止まると、真は膝に手をついた。


 美風先輩の方はというと、息一つ乱していないどころか、汗すらかいていなかった。


 さすが……サッカー部のエース……。


「体力をつけるには、やっぱり走るのが一番だろ?」

「そうかも……しれませんね……っ。ふぅ……」


 息を吐きながら、真がTシャツの襟をパタパタしていると、


「……ッ!!?」


 蘭は慌てて顔を逸らした。


 こんなときに限って顔が……ニヤけちまう。


「ご……ゴホンッ。あ、あのさ……」

「はい、なんですか?」


 わざとらしい咳払いをしてから、蘭は言った。


「えっと……誘っておいてなんだけど……昨日まであまり体調よくなかったのに、ランニングはまずかったか?」

「!! い、いえっ、熱はとっくに下がっていましたし、ただ食欲がなかっただけなので。それに……」

「それに?」

「体を動かしたくて、ウズウズしていたんですっ。だから、ありがとうございます、誘ってくれて」

「そ、そうか、ならいいんだっ。………………ヨシッ」


 真からは見えないように小さくガッツポーズをする蘭。


「? ところで、どうして今日誘ってくれたんですか?」

「え? それは……まぁ、心配だったから……と言うか……」


 と呟きながらチラッと視線を向けると、


「…………っ」


 真が目を見開いていた。


「えっ……もしかして、あたし…――」

「嬉しいんです、とても……」

「へっ?」

「えへへへっ」


 一瞬不安になったが、どうやらそれは勘違いだったらしい。


「……ふっ、笑う余裕があんなら、ここからは走るぞーっ!」

「えぇー!? ……はいっ」


 真の返事を合図に、二人はランニングを再開したのだった。

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