第30話 ミーティング・ガールズ

 その日の夜。


 時刻は九時を回ったところ。


 これから、間々水ガールズ(香織かおりを除く)によるミーティングが始まろうとしていた。


 ブゥウウウーッ。ブゥウウウーッ。


 早速グループ通話が始まり、開口一番に声を上げたのは、


『こんな夜になんだ?』


 ぶっきら棒な声のらんだった。


『誰か、なにか聞いてないか?』

『さあ……? わたしはなにも……』


 蘭の質問に答えたのは、ボソボソ声のさくらだった。


 もう少し声を張って欲しいけど……まぁいいか。


『私も、それを聞きたいわ』


 カタカタッ、カチッ、カタタタッ。


『? うさぎ先輩?』

『なにかしら?』

『えっと、今なにをしているんですか?』

『ランクマよ。最近、新装備が追加されたから、いろいろ試してるの』

『ふーん。というか、なんでグループ通話なんだ? 同じアパートなんだから誰かの部屋に集まれば――』

『あら、じゃああなたの部屋に集まる?』

『へっ?』

『あのゴミ溜めみたいな――』

『ご、ゴミ溜めじゃありませんッ!!』

『えっと……掃除は小まめにしないとすぐ汚れが…――』

『さくらまで……っ!?』


 ピロリンッ。


『もう始まってたんだ』


 蘭の抗議を防ぐかのように、梨奈りなが通話に参加した。


『あっ、梨奈ちゃん』

おせぇよ』

『お風呂に入ってたんだから、しょうがないでしょ。髪も乾かさなきゃいけないし』

一言ひとこと言ってから行けよっ!』

『ところで、梨花りかはまだなの?』

『ああぁ……実は今、風呂に入ってて……』

『はぁ……。集合時間を指定した張本人がお風呂? まあいいわ、待つ時間が勿体ないし、あの子が来たら教えて頂戴』


 カタカタッ、カチッ、カタタタッ。


 バンッ!!!!!


(((……!!?)))


 そのとき突然、大きな破裂音が鳴った。


『あらごめんなさい、ちょうどヘッショ喰らったから、つい。………………覚えてろよ?』


 う、兎さん……怖えぇぇ……っ。


 ゲームって、どうしてこんなに人間の本性が出やすいのだろう。


 操作するキャラクターに感情移入しているから? それとも、単純に夢中になるから起きることなのか。


 ゲームは奥が深い……。


(リアルに壁越しに聞こえてきたんだけど、台パンってあんなに響くの?)


 三人の中で一番恐怖を感じた梨奈なのだった。


『あいつがなにするのか、聞いてないのか?』

『なーんにも』

『? なに考えてたんだ?』

『なにも今始まったことじゃないわ。毎度のことよ』


 そんなやり取りをしていると、


『ああぁ~さっぱりしたぁ~っ♪』


 濡れた髪をタオルで拭きながら、梨花が戻ってきた。


『あっ、噂をすれば。少しは急げーっ』

『えぇ〜。これでも、自己ベスト更新なんだけどなーっ』

『遅いわよ』

『ごめんなさ~~~いっ。いやあ~湯船に浸かってると、つい眠気がねぇ~』

『はぁ……のぼせなかっただけ褒めてあげるわ』

『やった~! うさセンパイに褒められちゃった~♪』

『はいはい、よかったな』


 カチカチッ、タタッ。


『うしっ! 終わりーっ』

『ん? うさセンパイ、なにしてるのー?』

『……さっき説明したからもういいわ』

『わたし聞いてないよ~っ!』

『兎先輩、もうランクマはいいの?』

『ええ。とりあえずは、ねっ』

『ランクマ!? 言ってくれたら一緒にやったのに~っ!』

『あなた、お風呂に入っていたじゃない』

『それもそうか~あははは~っ』


 いつの間にか、梨花のペースに乗ってしまっていった。


『さてと……じゃあ聞かせてもらおうかしら?』


 すると、梨花は濡れた髪を拭いていた手を止めて、話を始めた。


 それを隣で聞く梨奈は、普段は天真爛漫な梨花がたまに見せる真剣な表情に目が止まった。


『実は――』


 昨日の夕方。


 梨花はアパートの前で、出てきた琴美ことみとバッタリ会った。


「ミミちゃん!?」

「あっ、えっと……こんにちは」

「なんでなんで~っ♪」


 予想していなかったためびっくりしていると、こっちに来た理由を話してくれた。


 どうやら、学校を休んでいた真のことが心配で様子を見に来たらしいのだけど。


 まことに『大丈夫だから』と言われ、尚且つ、誰にも会いたくないということで部屋に入れてもらえなかったらしい。


「それで、マコマコの具合は……」


 と尋ねると、さっきまでの暗い表情から一転して、明るいものに変わった。


 なんでも、真に元気を出してもらうために、香織と一緒に料理を作ったという。


 それを聞いて、梨花は考えた。


 ――『わたしたちにも、なにかできることはないかな?』……っと。


 あの梨花の真剣な声に、みんなはただただ耳を傾けていた。


 いつもは和気あいあいとしているが、このときばかりはしーんっと静かになっていた。


『そんなことがあったのね……』

『あたしら、なんにも知らなかったのか……』

『……ぐすっ……』


 スマホ越しに、さくらの鼻をすする音が聞こえた。


『どうかなー?』

『あたしは一応、ゼリーとかヨーグルトとか渡したけど』

『えっ、いつの間に~~~!?』

『誰にも会いたくなかったっぽいから、玄関のドアノブにかけといた。無理に部屋に上がる理由もないし』

『へ、へぇー……』

『さすが、梨奈ちゃん……』

『なかなか、やるわね……』


 で……できる女だ……っ!!


 無意識にこういうことができるから、男女両方から人気があるんだろうな。


 バレンタインの日の凄まじさを、他の四人は知っている。


『そうね……。じゃあ、各々やってみましょう』

『よぉ~しっ!! やるぞーーーっ!!!』

『おおおぉーっ』

『お、おぉーっ』

『おおぉーっ』


 ………………………………………………。


『息合わねぇ……』


 そう言って、梨奈はそっと通話を切ったのだった。

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