第26話 買い物にはハプニングが付き物 -3-

 お昼頃。

 

 まことたちは、お店を出て通りの方に向かって歩いていた。


「つ、疲れた……」

「ママ、大丈夫?」

「あはは……ほんと、いろんな服があるんだね……」


 あれから、試着を十回以上することになり、すっかりヘトヘトだった。


「最初に着た服、買ったんだね」

「ああ、はい。さすがにいつもこれだけというわけにはいきませんから。替えは必要かなと」

「その白のワンピース、いつも着てるけど、お気に入りなの?」

「……まあ、そんな感じです……。とても大切な服なので……」

「ママ……」

「あっ……でも、あんなに安くしてもらっちゃって、ほんとによかったんですか?」

「いいんだよっ。司紗つかさがいいって言ってたから♪ …………残りの分は前もって払ってあるし」

「え、今なにか言いました?」

「ううん、なんでもな〜いっ♪」

「……あの、ちょっといいですか」


 琴美ことみ香織かおりを手招きすると、近づけてきた耳元に顔を寄せて、


「――あの服、実は管理人さんが用意したんじゃないですか?」

「……ふふっ、ナ・イ・ショ♡」

「…………」


 はぐらかされて、なんだか面白くない琴美であった。すると、


 ぐうぅぅぅ~……。


「……管理人さん?」

「あははは……お腹、空いちゃった♪」


 ということで、梨花りか先輩に連れられてやってきたのは、ハンバーガーの専門店だった。


 値段は、たまに行くファストフード店より少しお高め。


 梨花先輩曰く、『こっちに来たら、お昼はここで決まりっ♪』らしい。


「なに食べよっかな~。じゅるりっ」

「食べ過ぎないでくださいね?」

「わかってるよ~♪」


 それから注文を済ませて席に着き、待つこと十数分後。


「お待たせしました」


 注文したハンバーガーが運ばれてくると、店員の女性がテーブルの上に次々と、ハンバーガーのセットを並べた。


「ごゆっくりどうぞ」


 ……ゴクリ。


 よだれが出てしまいそうになる、このジューシーなお肉の匂い。


 ……早く食べたいっ!


 前では早速、口をいっぱいに開けた香織がハンバーガーを頬張っていた。


「ん~~~ッ!!!」


 相変わらず、美味しそうに食べるな……。


 こっちも、早く食べよう。


「いただきますっ」


 ……。


 …………。


 ………………。


 それから食べ進めつつ、次にどこに行くのか話し合っていると、梨花のスマホに通知が届いた。


 相手は、今日来られなかった梨奈りなだった。


「『今日帰るの遅くなりそー』だって」

「思っていたより撮影時間が延びてるのかな?」

「えぇ〜。『梨奈がいないと寝られないよー!』っと」


 ピロリンッ。


『平気で寝てるくせによく言うよ』

「うぅーん……。『梨奈の髪に顔をうずめてないと、寝不足になっちゃう!!』……これで、どぉ!?」


 ピロリンッ。


『変態か』

「『双子の姉が塩対応すぎる件』」

『…………一人で寝ろ』

「うぅぅ……」


 それから何度かやり取りをしたところで、梨奈は仕事に戻って行ったのだった。


「ああ〜楽しかった♪」


 梨花は、満足した顔で最後の一口をパクっと口に入れた。


「いつもそんな感じなんですか?」

「そだねー。こっちから送ったらほとんど返ってこないけど」

「あぁ……」


 なぜか、これ以上は触れてはいけない気がした。


「あっ、琴美、口元にソースが付いてるよ」


 真はテーブルに置いてあった紙ナプキンでキレイに拭き取った。


「あ、ありがと……っ」


 恥ずかしそうに顔を赤くする琴美。


「ねぇ、琴美」

「ん?」

「……本当は、僕のことが心配で来てくれたんでしょ?」

「!! やっぱり、気づいてたんだ……。いつから気づいてたの?」

「部屋で話してたときかな。琴美は噓を吐くとき、いつも決まって瞬きの回数が増えるから、すぐにわかったよ」

「さ、さすが……です……」

「舐めてもらったら困るなぁ〜。ママは、子どもの些細な動きをよく見てるんだよ?」

「…………っ」


「「「………………」」」


 鈴川すずかわ兄妹以外の三人の頭の中は、『どうして、ママって呼ぶんだろう?』でいっぱいだった。


 昨日のように、はぐらかされるのがオチだということはわかっている。


 でも……やっぱり気になるっ!!!




「ふぅ~。食べた食べたっ♪」


 それにしても、まさか、こんな美味しいハンバーガーを食べられるお店があったなんて。


 梨花ちゃん、やる~っ! ハンバーガー五つぺろりだよっ♪


「あの、お店を出る前に、ちょっとお手洗いに行ってきます」


 と言って席を立つと、真ちゃんは店の奥にあるトイレへと向かった。


(わたしも行っておこっかなぁー……トイレ?)


 今の真ちゃんは、女の子の格好をしているけど、オトコの娘だから……男子トイレ、だよね?


「トッ、トイレは…――」

「? なんですか?」


 慌てて呼び止めると、真ちゃんの足取りは男子トイレの方へと向けられていた。


「なっ、なんでもない……っ!」

「? すぐ戻ってきますから」


 そう言って、小走りで男子トイレへと入っていた。


「はぁー……」


 どうやら、余計な心配だったらしい。


 すると、ちょうど中から出てきた利用客の男性が何度も入り口をチェックしていた。


「だ、だよねー……」

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