第23話 大人なチョコにはご注意を♥

「ねぇ~マコマコーっ。あれなぁ~に~?」


 梨花りかが気になったのは、クローゼットの前に置いてあった箱だった。


 表面には、高級チョコ専門店のマークが描かれている。


「この前、管理人さんに貰ったんですよ。なんでも、親戚の人から貰ったとかで、そのお裾分けだそうです」

「ふぅ~ん、わたしたちというものがありながら、マコマコだけにねぇ~」

「ほほぉー」

「な、なんですか?」

「「別にぃぃぃ~」」

「うん? あっ、よかったら、みんなで一緒に食べませんか?」

「え、いいの!?」

「はい」

「……っ!! マコマコ、大好き~っ♡」


 梨花はまことをギュッと抱きしめた。


 いつものメンバーからすれば、いつもの光景なのだが。


「なっ、なな……っ」


 それを知らない少女が一人、ここにいた。


「ママから……離れてくださーーーいッ!!!」


 琴美ことみ颯爽さっそうと魔の手から真を救い出す? と、




「ママ?」




「あ」


 梨花が不思議そうな顔で琴美を見ていた。


「そ、それは……」

「そういえば、屋上でご飯食べてたときに、自分のこと『ママ』って言ってたっけ」

「え、そうなのか?」

「思い出したわ。確かにそんなことを言ってたわね」


 え。


「わ、私も、実は気になってました……っ」


 ええぇ……。


「どうしてなのかな〜?♪」

「えーっと…――」


 ――ピンポーン。


 そのとき、グッドタイミングと言わんばかりにインターホンが鳴った。


「ママ……お兄ちゃん、出てきてっ!!」

「え、うん」


 真は立ち上がると、部屋を出て玄関の扉を開けた。


「はい――」

「帰ってきたよーっ♪」

「管理人さん? お仕事の方は、もういいんですか?」

「うんっ、今終わらせてきました!」


 なんて、ハキハキした声なのだろう。


「あっ、今、先輩たちみんなが集まってますよ。琴美に紹介したくて」

「そうなんだ♪ じゃあ私も仲間に入れてもらおう〜っと」


 香織と一緒に部屋に戻ると、


「これ美味しい〜♡ なんというか、大人の味?」

「苦いけど、なんだこれ、うまっ!」

「口に入れた瞬間に広がるカカオの香りと、とろりと溶ける濃厚なチョコのハーモニー……」

「どうりでなかなか予約が取れないわけだ」

「美味しいわね、けどこれ……」


 各々が、さっき言っていたチョコを食べていた。


 すると、その様子を眺めていた琴美がこっちを見てコクリと頷いた。


 ……どういうこと?


 琴美の頑張りは、どうやら真には伝わらなかったようだ。


「あっ、それ私が真ちゃんにあげたチョコーっ! 私も食べるーーーっ♪」


 ピロリロリンッ♪


 香織が仲間に加わった。


 ……。


 …………。


 ………………。


 どうしてこうなった……?


「ふにゃぁ~~~っ?」

「ひっく……ッ」


 部屋のなかで、香織とさくらはとろけた顔でフラフラと体を揺らしていた。


「やっぱり、そうだったのね」

「え、なにがですか?」

「これを見なさい」


 と言って渡された箱の裏面を見てみると、


「……もしかして、お酒が入っていたんですか?」

「そうよ。あの二人だけということは、単純にお酒に弱かったのね」


 お酒が入っていると言っても……


「だ~か~ら~、Kカップは……クィーンカップなんですぅ……っ!」


 なんの話!?


「あれれ~? クィーンって、Kじゃなくて~Qじゃないの~?」

「えっ……? ……し、知ってましたよ~っ? それくらい……ぐすん……っ」


 ただでさえ真っ赤に染まっている顔が、さらにその色を濃くしていく。そして、なぜか泣き始める始末。


「ち~な~み~に~♪ 私のおっぱいも~~~Kカップでぇ~~~すっ♪」


 そう言って、香織は自分の胸を下から持ち上げた。


 ――たゆんっ♡


『…………ッ!!!!!!??????』


 本人とさくらを除く全員が、その光景に呆然としてしまった。


「二人って、酔っ払うとこんな感じになるのか……っ」

「どう~? たゆんっ、たゆ~~~んっ♪ あはははは~っ!」

「えいごの……デェスドは……いい方なんですからね……っ! ほんと……なんです……ぐすんっ」


 収拾しゅうしゅうがつかない状況って、こういうことを言うんだな……。


「……あ。ぼ、僕っ、お水を持ってきます!」

「あっ、わたしも手伝う!」


 二人がキッチンでお水の用意をしている間も、カオスな状況は続いていたのだった。

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