第21話 し、沈む……!

 次の日の朝。


「………………ハッ」


 設定した時間よりも前に目覚ましを止めた琴美ことみは、布団から起き上がると、


「んん~~~っ!!」


 グッと体を伸ばした。


 プルプルプル……ッ。


 伸びをするところが猫に似ていると言われたことがあるけど、猫好きだから逆に嬉しかったりする。


 ザァァァァーーーーーッ。


「ん?」


 カーテンの向こうから聞こえる音が気になってシャーっと開けてみると、


「……うわぁ、すっごい降ってる……」


 外は、これでもかと言わんばかりのどしゃ降りの雨だった。


「雨か……。せっかく、ママとお出かけしようと思ってたのに……」


 こんなことなら、こっちに来る前に天気予報を確認しておけばよかった。


「うーん……仕方ない、明日行こっと」


 琴美の切り替えは早いのである。


「さぁーって、ママもまだ寝てることだし、ちょっとは私が成長したところを……ところを……」


 琴美の瞳は、呼吸のたびに揺れる大きな双丘を捉えた。


(デカい……)


 と心の中で呟きながら、ふと見下ろしたが。

はぁ……。


 自分の『それ』と比較するだけ無駄ということか。


 ……今はそんなこと、どうでもいい。


(あっ、あの胸が……ママを………………篭絡ろうらくしたんだ!!)


 それが大きな勘違いだということは、時期に気づきます。


「ぐぬぬぬぬ……ッ!!!」


 それにしても、普通あんなに揺れるもんなの?


 ふと気になって何気なく指を当てると、


 ――――むにゅっ。


「……っ!!?」


 し、沈む……!?


 柔らかく、そして弾力のある――――おっぱい。


「…………ま、負けた……っ」


 そのとき、試合終了を告げる笛の音が鳴り響いたのだった。


「……って、こんなことをしてる場合じゃなかった!」


 琴美はささっと布団を畳んでから洗面所で顔を洗い、持ってきた私服に着替えた。


 ママたちが起きる前に、朝ご飯の準備だっ!


 このために、昨日来る前に材料を買ってきておいたのだ。


 その材料を冷蔵庫から出して、キッチンの台に並べた。


(よぉ〜しっ、やるぞーっ!)


 ……。


 …………。


 ………………。


「「おおぉーっ」」


 キッチンからのいい匂いで目を覚ました二人が見たのは、炊き立てのご飯、焼き鮭、お味噌汁、玉子焼き、きゅうりの浅漬けだった。


 ぐぅうううう~~~。


 ぐぅうううう~~~。


 お腹から音を鳴らしている二人が準備したローテーブルの上には、見事なまでの日本の朝食が広がっていた。


「お味噌汁は煮干しの出汁だしで作ったんだ~♪ 具は油揚げと長ねぎだよっ」

「琴美……っ」


 すると、真は徐に琴美の頭を優しく撫でた。


「ママは嬉しいよ……。キャベツとレタスの見分けが付かなかった、あの頃が懐かしい……」

「……ッ! はっ、恥ずかしいから言わないでよ……一応、気にしてたんだから……っ」

「拗ねているところも可愛いなぁ~。そう思いますよね、管理人さんっ?」

「美味しそう〜っ♪」


 真と琴美は顔を合わせると、自然と笑みがこぼれた。


「せっかくの出来立てですし、早く食べましょうか」

「うんっ! もうお腹ペコペコだよーっ」

「ご飯いっぱい炊いたから、たくさん食べてねー」

「なんとっ!?」


 真たちは、並べた座椅子に移動すると、手を合わせた。


「えへへっ、じゃあいただきまーすっ!」

「「いただきますっ」」


 三人は手に持った箸で、ご飯を口に運び…――




 それからというと、炊き方の失敗で固すぎるご飯をお供に、おかずを美味しく食べたのだった。


(はぁ、ママみたいにうまくいかないな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る