第11話 サッカー少女の考え事・2

「――ハッ」


 目を開けると、そこは教室だった。


「いつから……」


 ぼんやりとした意識の中、まことは過去の記憶を振り返った。


(うーん……あれ? 思い出せない……?)


 ふぅ……。


 憶えている範囲で順を追って行けば、思い出せるはずだ。


 確か、お昼休みに先輩たちが教室に来て……それから屋上に移動して、三人でお弁当を…………お弁当………………


(あっ……思い出した。管理人さんからもらったお弁当を食べたんだ……っ!)


 弁当箱の中には、半分を占めるご飯と、からあげ、玉子焼き、ちくわきゅうり、ブロッコリー、そして…………プチトマト。


 一見、普通のメニューのようだが、今思えば怪しい点がいくつもあった。


 まず、ご飯がいつものようにベチャっとしていたこと。そして、メインでもあるから揚げを一口食べたとき、「!!? ごっほ……ごっほ……」と、なぜか咳込んでしまったことだ。


 その理由は、単純に味が濃すぎだったからだろう。恐らく、味付けの塩こしょうを入れすぎたのが原因だ。


「………………」


 あの味を一言で表すとすれば、『嫌でも目が覚めるような味』かな。


 今思えば、表面の色が普通より黒かったし、異様に固かった気がする。追い打ちになるが、ジューシーさもまったくなかった。


 そうだ、どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろう。


 あの後、梨花先輩たちと別れて……急な腹痛で慌ててトイレに向かって……保健室に行くほどでもなかったから、そのまま授業を受けて……今に至る。


 どうやら、放課後を迎えて完全にダウンしてしまったらしい。


 カバンから出したスマホを見ると、十六時を過ぎていた。


(一時間くらい眠ってたのか……ん?)


 画面を切ろうとしたとき、通知が来ていたことに気づいた。


『よくがんばったねっ♪』

『おつかれ』


 二人のあの顔から察するに、『間々水』の住人としては避けて通れなかったのだろう。


「はぁ……帰ろう……」


 それからカバンを肩にかけて、真は教室を出た。


 冷蔵庫の中はほとんどなにも入ってないし、帰りにスーパーに寄っていくとしよう。




 それから昇降口を出て歩いていると、グラウンドで女子サッカー部の部活が行われていて、


「パ~スッ!」


 その中で、一際大きい声を出している人がいた。

 

 その人は、無駄のない動きでディフェンダーを抜き去ると、あっという間にゴールネットを揺らして、渾身のガッツポーズを決めた。


「よっしゃー!」


 ……すごい。


 真は、自然と足を止めてその姿に見入っていた。


「いいシュートだったよ、らんっ」


 え? ……美風みかぜ先輩!?


「どうだっ! あたしが編み出した、新しいシュー……あ」

「蘭?」


 美風先輩と一緒にいた人がこっちを見た。


 な、なに?


「誰、あの子? 蘭の知り合い?」

「…………っ」


 そんな二人のやり取りを遠くから見ていた真はというと、


「?」


 頭の中にはてなマークを浮かべていたのだった。


「あ、あいつ……っ」


 すると、次の瞬間、蘭は喋っている人を置いて猛ダッシュで行ってしまった。


「……うん?」

もしかして、ガッツポーズを見られたことがそんなに恥ずかしかったのかな?




 その日の夜。


「へぇ……そうすりゃあいいのか」


 蘭はポテチを片手に、テレビに映るサッカー特集の番組を眺めていた。


 なにか参考になることはないか、探すためだ。


 と言っても、実はさっきから推しのチームが映るのかどうかばかり気にしていたりする。


 放送終了まで残り十分。さすがにもう映らないかぁ……。


 ポリポリ……ポリポリ…………


「あれ?」


 いつの間にか、袋の中が空っぽになっていた。これだから無意識は恐ろしい。


「うーん……」


 買い溜めはしてるけど、今日はいいかな。この前、制限なしで食べ続けたら、体重がすごい増えてたし。


 ふと画面に目を戻すと、ちょうどシュートを決めてポーズをする選手と、そこに駆け寄る選手たちが映っていた。


 やっぱり、この瞬間が一番気持ちいい…――


「…………見てたんなら、見てるって言えよな……」


 まぁ、こっちが練習中だから言えるわけないけど。


「…………はぁ。やっぱり……もう一袋、食べよっかな……」


 他に誰もいない部屋で一人呟く、蘭なのであった。

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