第9話 ドタバタ・スタート♪

 まことは昇降口で靴を履き替えると、昨日の記憶を辿りながら階段を上がっていた。

 

 今日から授業が始まるのだが、初日から六時間分あるという。


「はぁ……」


 タフにもほどがある。まぁ、それが当たり前と言われてしまうと、言い返す言葉がないのだけど。


(確か、この階だったっけ)


 教室の場所は、昨日行ったことがあるから、迷うことはなかった。


 ドキドキ……。


(うぅぅ……緊張する……)


 昨日は顔合わせ程度だったからなんとか乗り切れたけど。


 震える足取りで廊下を進み、ついに、目的地である教室の前に着いた。


「はぁ〜……ふぅー……」


 一度深呼吸して、真はスライド式の扉を開け――


「マコマコじゃ〜んっ♪ おぉ〜いっ」


 声のした方を見ると、廊下の奥から金髪ツインテールの女子生徒が手を振ってきた。


「おはよーっ♪」


 えっと……ツインテールだから、妹の梨花先輩だっ。


「お、おはようございます、梨花先輩っ!」


 姉と顔がうり二つのため、それぞれのポイントで見極めるしかない。


 ちなみに、二人が下の名前で呼んでいいということで、勝手にそう呼ばせてもらっている。


「おはよー……ふわぁ~……」


 と呟きながら、姉の梨奈りなは大きく口を開けて欠伸をしていた。


「おはようござい――」


 そのとき、梨花が正面から真をギュッと抱きしめた。


「り、梨花先輩!?」

「その制服よく似合ってるよ〜っ♡」

「あっ、ありがとうございます……っ。えっと……周りから見られて……」

「んん〜? なにかな〜?」

「周りの人たちが……見てますよ……?」

「そんなこと気にしな〜い、気にしな〜い♪」


 そうは言っても……


(気にします……っ!)


 すると、今にも寝そうな梨奈が言った。


「ここに来たってことは、あたしらに用でもあった……?」

「え? 僕はただ、自分の教室に入ろうとしていただけで……先輩たちこそ、どうしてここに?」

「どうしてって、ここ、二年の階だから」

「……へっ?」


 一瞬の沈黙の後、真は慌てて教室の扉の上にあるプラカードを確認した。


「……っ!?」


 そこには、一ではなく二と書かれていた。


「ということは、つまり……」

「マコマコの教室は下だよっ♪」


 えぇぇぇぇえ……ッ!!?


 どうやら、ぼーっと考え事をしている間に、階を間違えてしまったらしい。


 キーンコーンカーンコーン。


 ま、まずい!?


「じゃ、じゃあ僕はここで……っ!!」


 真は急いで階段へと向かった。すると、後ろの方から、


「マコマコ~っ。お昼、一緒に食べよう〜ねぇ〜♪」


 梨花の元気な声が廊下に響き渡っていたのだった。

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