03 餘目

 なんにもないよ。

 いや、これはなんにもないって。何もいません。いてません。

 何でって。

 理由とかじゃないですよ。おれは事実を言ってるだけ。ないからないって言ってるだけ。

 そんなはずないって?

 えっとさー。

 あなたが、何か憑いてんじゃないかって思っておれを呼んだね。そうだね。

 で?

 あなたが何か憑いてんじゃないかって思ったから、憑いてるって決まる? 決まんないよね。その判断はおれがするよね。あなたには判断できないでしょ。いやそれは分かる、おれらはね、本体は見えないけどそれ以外の力の有り無しはわかる。目の前の人間に力も感じる力もないのは、わかるの。あなたが本物の霊能者だったら、自分で何とかするでしょ。

 だからさ。

 本来なら、憑いてませんでした〜よかったね〜で所見料いただいてお別れよ。

 でもあなたはそれじゃ困るってゴネてる、これが今現在ね。そしたらね。あ、泣かないで聞いてもらえる? おれ優しさでこの商売やってる訳じゃねえからさ、あんま聞き分けないと殺すよ。

 ほら黙れるんじゃん。嘘泣きよくねえよ。バレてると百倍ムカつくから、お勧めはしないわ。

 え? いや人間は殺せるよ、ちょっとおい、面白ぇな、よく考えて? そりゃ憑き物は消せないよ、霊を消すのはめちゃくちゃ難しいんだって、さっき言ったろ? でも人間を殺すことはそりゃできるよ。

 できるでしょうよ。生きてる身体を殺すだけのことなら、子どもにだって。

 だって身体殺すだけで霊は殺さねえもん。それは、有を無にするんじゃなくて、三を一にするくらいのもんだから、あんま難しいことじゃないわ。

 そうだよ、身体死んだからって中身の霊は消えねえよ。だからこの世に霊のさわりみたいなもんがあるんでしょうが。

 それを踏まえておれの話を真剣に聞いてほしいんだけどね。

 いてません。あなたには、何も。






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