第15話

 バスには蓮が乗っていた。ヨッと遠足に行く子供のような気軽さで挨拶される。

「鬼迫の旦那に頼まれてさ」

 訊いてもないのに答えてくる。蓮はとにかく早く現場に着きたいらしい。

 苦笑しながら、景色が流れるのを見やる。

 土地開発はまだまだ進んでない所も多く、路上にドラム缶を使って焚き火をしている家族もいた。

 家族か……。

 世の中にはタラレバはない。頭では解っているのに、ついifのストーリーにすがってしまう。

 こうだったら良かったのに、あの時ああしていれば。

 考えだしたらキリがなかった。

「もう着くね」

 蓮の楽しげな声にハッとする。

 バスを降りて、団地に向かった。

 今回は指定されている分、楽だ。

 巴達に負担をかけずに済む。

 バスに乗ってる時に聞いたが、堂本姉弟は休んでいるそうだ。死者の匂いなどを嗅ぐわけだから相当メンタル面に負担が伴うらしい。

 なるほど、見舞の時の空元気はそういうことかと、独りごちる。

「僕さ、公平の剣と盾になるよ」

「えっ」

 唐突な申し出だった。

「はっ?」

「ん?」

「どうしたんだよ蓮」

「だから〜霊感ゼロって、危ないよなって改めて気付いてさ」

 つまり、足を引っ張ってると……。少しムッとした。

 それを悟られたのか。

「公平のために、何かしたいんだよ。他意はないよ〜」

 昔の嫌な癖が出てると実感した。

 人がせっかく手を差し伸べてるのに不信のためにその手を払い除けてしまう。

「わかったよ、じゃあ蓮は俺の騎士様だな」

 二人で笑いあった。少し気が楽になる。足りないところは補えばいいだけだ。シンプルなことじゃないか。

 バスを降りて団地に向かう。

 足取りは少し軽やかになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心霊庁捜索課保護係 ヒロロ✑ @yoshihana_myouzen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ