第13話

 心霊庁霊災対策課保護係しんれいちょうれいさいたいさくかほごがかり

 視える視えないに関わらず、心霊現象が原因で霊障被害に遭った人達のモニタリングやアセスメントをし、認定された場合。

 霊災被害金(通称お見舞い金)が出される。

 不動公平は心霊庁の職員ではあるが、霊感がないためストーカー事件の折り、霊障を受けていた。

 三日の高熱が明けてから蓮達が見舞いと称して見舞金をどう使うか会議をしていたわけだが。

 その霊災を扱う部署の主任、片桐晃かたぎりあきらの突然の訪問であった。

 モニタリングは済ませたはずだがと、いぶかしむ公平に、彼はさっきと違う柔和な顔に戻っていた。

「訊きたいことってなんですか?」

「……具合はどうかな」

「さっきの掛け合いを見れば判ると思いますけど元気になりましたよ。まさかそれだけじゃないですよね」

「実は君のお母様、たまき様について伺いたい」

 公平は絶句して固まった。まさか母の名前が出るとは思わなかった。心臓の鼓動が早くなる。緊張が公平の全身を包む。

「霊災被害を扱ってると様々なケースに出会う。その中で異質に思ったのは君のお母様が『解決』した事案だ」

 俯いて無言をつらぬいた。

「なぜか君のお母様、環様の解決する事案では霊災被害が無いのだよ」

 知らない。母がどうしてるか何をしてるかなんて知らない。もう解放して欲しい。

「母の霊能力者としての力は隔絶してます。それだけのことでしょう」

「もし、彼女のお力添えをいた……」

「嫌だっ!」

 言葉を遮り叫んでしまった。

「俺に母は居ない。あの人は化物なんだ」

 公平のあまりの拒絶反応に、片桐は二の句を継げなかった。

 彼は名刺をそっと置いてその場を立ち去った。

 今さら何なんだよ……。

 紺色のカーテンを乱雑に閉めた。

 やめたはずのタバコが無性に吸いたくなった。

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