第二章 過去の影

第12話

「あんたね、心霊庁の職員として少しは恥を知りなさい」

 巴のいつもの罵詈雑言が飛ぶ。

 公平は叱咤激励と受け取っていた。

「エニシダさんは、なんて言ってるの?」

 公平は答えず、そっぽを向く。

 蓮が代わりに巴に答えた。

「黙秘しますだって」

「ハァ? なにそれ初めて聞いたんですけどウケるわある意味。流石ね」

「え、もしかして霊感ゼロだから?」

 公平は皆のリアクションを見て頭を抱える。その可能性が高いことに。

「不公平だァあああ」

「うるさいわね、不公平って言いたいのはこっちよ。ちゃっかり霊災認定れいさいにんていされてお見舞い金貰っててさ」

「こっちはずっと高熱出して寝込んでたんだぞ」

「なによ、熱なんて寝てれば冷めるわ。いつかはね」

「巽くん、何とか言ってよ」

「僕に振らないで……」

「蓮」

「僕は焼肉、喰いたいな〜」

「あたしは巽と温泉よ」

「お前ら、ほどほどにしとけよ」

 開いていたドアから入ってきたのは心霊庁霊災対策課保護係しんれいちょうれいさいたいさくかほごがかり片桐晃かたぎりあきらだった。

 ツーブロックの刈り上げに、ファイルを持つ指の先の爪が綺麗に整えられ光っていて、几帳面さを醸し出している。

「晃っちも行かない? 焼肉」

「温泉はあくまで家族風呂よ、他人はノーカウントよ」

「不動公平くんに聞きたいことがある、お前らは邪魔だ、消えてくれ」

 柔和な顔付きからは想像出来ない凄味を出す辺り、公平は片桐のことを役付の職員なんだなと改めて思った。

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