第一章 初任務

第1話【遭遇】


 功徳市の人口は約二十万人。地方としては大きな市となる。

 不動公平はリクルートスーツをもう一度撫でて歩き出した。アスファルトを蹴る足は重くのろい。緊張もあったが、なにぶん心霊現象を扱うからだ。

 ゴクリと生唾を飲んだ時、眼の前の電柱の影を黒猫が通った。

 いつものように白い布手袋を取り出し装着する。

「よしよしよーし」猫撫で声で近づく公平。

 その耳朶に突然割り込む者の声が入ってきた。

「君さ、どっち?」

 突然の事に驚き振り向いた。

 背後には白髪の少年。

 しかし、スーツ姿だった。

 首を傾げて困惑していると、少年は問答無用で公平に組み付いた。

 ぎりぎりと腕を締め上げられる。悲鳴を出そうにも痛すぎて息を吐くので精一杯だった。

「この感触、人間か」

 開放された公平は「当たり前だろ」と苦しげに怒鳴った。

「ゴメンゴメン、僕さ。感度良くて重宝されるんだけど、逆に良すぎて間違えるんだよね」

「な、何に?」

「浮遊霊」

 公平は言葉が出なかった。普通の人間を幽霊と間違えるなんて。いや、それよりもなぜ組み伏せられたのか。

「申し遅れました」急に丁寧な言葉遣いになった。

「心霊庁捜索課保護係、ケースワーカーの大菅蓮と申します」手が切れそうな新品の名刺をうやうやしく公平の眼前に出された。

 先輩、なのか? だとしたらやはり心霊庁なんかに入る事になったなんてやっぱり不公平だ。

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