第31話 魔剣士が刀に出会ったら

「これで依頼完了です!お疲れ様でした!報酬はあちらで受け取ってください!」


「あぁ」


 勇者が死んで──いや、数年が経った。懐かしいものだ、今でも時折脳裏にあの光景が蘇ってくる。


 勇者と対峙した時の、あの手の痺れ。勇者最後の技。死に際の奴の高笑い。崩れゆくダンジョンに全てを飲み込む暗い闇。そして初めて放った輪廻回廻。


 輪廻回廻によってあの黒い球体はどこか遠くに飛ばされた。きっとこの世界とはまた別のところに行ったのだろう。そう思うとなんだか申し訳ないような気もするが……。


「全ては勇者が悪い。うん」


「急にどうしたん?」


「ん?あぁ、ベリアか」


 俺が一人納得していると、いつの間にか横にベリアが立っていた。彼女も数年前と比べると随分成長したものだ……だがとある一点に置いては話は別だったが。どこがとは言わない。絶対に。


「なんだか失礼なことを考えている気配がする……」


「なんだそれ」


「わかんない……けど、なんかムカつく。蹴らせろ」


「なんでだよ」


 俺はベリアにそうツッコミながらギルドを後にした。するとベリアが俺についてきた。どうせ酒場に行く気なのだろう。そして俺の金で酒を飲むつもりなのだ。


 とことんシスターからかけ離れている存在である。


「酒場〜、酒場〜!」


「行かないぞ」


「強制」


「自分のは自分で払え」


「えー?いいじゃん別にさぁ〜。私よりも稼いでるんだし」


「今もらった金はこの刀の維持費に費やすからお前にやる金は一文たりともねぇよ」


「ぶー。ケチ」


 そう言い合いをしながら俺たちの足は自然と、行かないと言ったはずの酒場へと向かい始めていた。


「いらっしゃい」


「……あ」


「っし」


 横でベリアがガッツポーズしている姿を見て、俺は初めて嵌められたことに気がついた。……意識すれば抜け出せたのだが、いつの間にか足がここへと向かっていたのだ。


「……やられた」


「おじさんいつもの一つ!」


「はいよ。リオンは?」


「……いつもので」


「おう」


 俺とベリアはいつも座っているところへと向かい、並ぶようにして座った。店の中を見渡してみれば、まだ夕方前だというのに既に飲みつぶれている奴が少なからずいた。


 ……いい大人が何してんだか。


「はいよ。エールとつまみな」


「ありがとー!ほら、リオンかんぱーい!」


「はぁ……乾杯」


 俺とベリアは手に持っていた杯をコツンとぶつける。そしてベリアは一気に、俺は少しづつ飲み始めた。


「ぷっはあ!!美味しいいいいい!!!仕事後の一杯さいっこおおおお!!!!」


「……うるせぇ」


 横で叫びながら物凄い勢いでつまみを喰らうベリアをよそに、俺はつまみをちびちびと食べつつ飲むというのを繰り返していた。


 ベリア……側から見たら狂人そのものだぞ。


「ねぇねぇリオン」


「……なんだよ」


「今度さ、一緒に受けてほしいクエストがあるんだけど、受けてくれない?」


「……始めからそれが目的かよ」


「そうだよ?で、どう??」


「……」


 ベリアが口にしたその言葉に、俺は黙らざる終えなかった。


 ライネス最強の冒険者。


 誰がそう言い始めたのか知らないが、いつの間にか俺の二つ名としてそれが定着してしまっていた。


 何故だろうか。


「俺は別にライネス最強じゃないぞ。最強は別にいるだろ。それこそギルマスとか──」


「そのギルマスが勝てないって公言したんだよ?だったら最強の称号はリオンにあるんだよ」


「……んな馬鹿な」


「新緑のダンジョン単独踏破に加え、裏ダンジョンである深緑のダンジョンもこれまた単独踏破……更に魔の森を狩場にし、あの最奥に住むドラゴンとも対峙できる技量を持つ剣士。これだけで十分じゃない?」


「……だがなぁ、それくらいなら別のやつでも」


「それだけでなく、ライネスにはほとんどいないS級最速昇格に加え、L級昇格の話まで来てるんでしょ?L級と言ったらみんな人間を辞めたような存在ばかり……そんな存在の一人になるとギルドが判断するほどの存在なんだよ?リオンは」


「……」


 確かについ最近L級昇格の案内とか言って手紙を渡されたが……俺はそれをいまだに受け入れることができないでいた。


「なんでL級に昇格しないの?すれば王族とも知り合えるチャンスなんだよ?」


「……王族、ねぇ」


 初めは権力欲もあったが、あの日記を読んでしまえばその欲も一瞬で消え失せた。今のS級でもめんどくさい出来事はまぁまぁあるが、それでもL級になった途端降って来る面倒事に比べるとマシだろう。


 特に王族。いい人もいるはいるが、会った王族がもし傲慢で、自分の手足のように俺を使い潰そうとしてきたらと思うと怖くてしょうがない。


「王族には興味がないな」


「えー……なんか意外」


 俺が素直な感想を言うと、ベリアはまるで信じられないものを見たかのような表情を見せた。まぁ、普通なら少しでも裕福に過ごしたいと思うだろう。


 だが俺はそんな生活には懲り懲りだった。


「俺はただ、刀を振るえれば、それでいい」


「ふぅん」


 刀と出会い、俺の価値観はぐるりと変わった。


 それが良かったのかどうかは知らないが、少なくとも──




 ──今の生活は充実している。俺はそう思った。





 完。



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 これにて完結です!ここまで読んでくださり誠にありがとうございました!


 只今新しい作品を書いている最中なので、もし良かったらその作品も読んでもらえると幸いです!


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 ではまた次の作品でお会いしましょう!

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魔剣士が刀に出会ったら 外狹内広 @Homare0000

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