第22話 魔剣士が崖っぷちに立たされたら

 遅れました!すみません!



 


 「ッ!?ヴァアアアアア!?!?!?」


 「っ!?」


 俺が尻尾を斬った。そこまでは良かった。だが、問題はその後だった。


 「ヴァアアアアルルルルルル!!!」


 「……鳴き声が、さっきと変わった……?」


 『っ!?これはっ……!リオン!気をつけろ!』


 「ジュシュア……?」


 『……!』


 そうジュシュアが言った瞬間、俺たちが今まで戦っていた合成獣キメラの奥から何かが現れた。


 その奥にあるのは137層に行くための通路だけだ。それにあの通路はせいぜいサイズを縮めて狼くらいの大きさになったジュシュアがギリギリで入れるくらいの大きさしかない。だから違うはずだ。


 そんな願いも、次の瞬間あっさりと崩れ去ってしまった。






 「クァアアアア!!!」





 『っ!?137層の…… 合成獣キメラか……!』


 「ここで俺たちを潰すつもりかよっ!」


 『どうやらダンジョン側も本気のようだな……これだと最奥層である138層の合成獣キメラも、もうじきやってくるぞ』


 「……いいや、もう遅い」


 『……そうだな』


 そして俺たちはその二体の合成獣キメラの奥からやってきた新手に対し、悪寒を感じた。

 今までの合成獣キメラとは違う、


 この世界で放つ圧は魔力によるものか、の二つだけ。つまり──





 《失せよ》




 「ぐっ!?」


 『っ……気をしっかり持て、リオン……!』


 まさか、こんなのがいるとは想定していなかった。


 合成獣キメラがいるなんて。


 『あの邪神は……そうか……なるほど』


 「……何か知っているのか?ジュシュア」


 『それは後にしよう。とにかく──っ!?』


 ジュシュアは後ろを向いて固まった。それに疑問を感じた俺はジュシュアと同じように後ろを向く。


 「っ!?」


 そして言葉を失った。


 



 ──ダンジョンが消滅し始めている。





 ダンジョンの消滅が進めば、その中にいる生物も消滅してしまう。この消滅が起きるのはダンジョンの最奥にあるダンジョンコアを破壊した時のみ起きる現象だが……まさか。


 『あの邪神擬き、ダンジョンコアを破壊してここに来た、という事か』


 「自分諸共俺たちを消滅させる気かよ!?」


 『それほど、この奥にあるものを見せたくなかったのかもな。それとも、単純に我らを排除したいのか……』


 ダンジョンの消滅は幸いにも緩やかに進んでいるので、消滅する前に目の前にいる三体の合成獣キメラを殺して早く進めば問題ない。


 だが……。


 「神と戦った事ないぞ!?」


 『だろうな。だから我はあの邪神擬きと対峙する。お前はあの二体を殺してくれ』


 「……あぁ」


 俺は手負いのメタルサラマンダーとドラゴンの合成獣キメラと、新たに奥から出現した、これまたドラゴンと今度はヴァルグニルが合わさった合成獣キメラと向き合う。


 ヴァルグニルという魔物はメタルサラマンダーと同等かそれ以上の強さを持ち、個体によっては天候を変えるほどの竜巻を起こすことができる。


 これも推奨冒険者ランクはS級だ。


 「神話の怪物が、出てくるなんてなぁ……」


 だがこのヴァルグニル。実はもう。遥か昔の神話にて、ヴァルグニルは悪の怪物として神々に葬られ、そして数を大きく減らしたとされている。


 そして俺が生まれる100年くらい前までなら実在していたのだが、当時のL級の一人の冒険者の手によって全てのヴァルグニルが駆逐された。故にヴァルグニルの素材を用いた武具は国宝として指定され、大事に保管されているものがほとんどなのである。


 「……嵐の王」


 俺は幼少期にスラムの物好きが口にしていたそのヴァルグニルの二つ名を口にする。


 そして俺は、ここに来る直前にジュシュアに言われたことを思い出し、それを決行することにした。


 「……二体を相手取るのは流石にきつい。まずは──」


 俺は地面を踏み締め、駆け出すと同時に魔力を脳に流した。


 「っ!?」


 瞬間、世界が灰色一色に染まった。


 目の前の二体の合成獣キメラは止まったまま動かない。しかしそれは俺もだった。


 (ここで……!)


 俺はそれを認識した後、両足に魔力を流し始める。すると、足だけはしっかり動くようになった。


 俺の加速された認識に足が追いついたのだ。


 「ふっ!」


 そして脳から魔力が抜け始め、この灰色の世界に色が戻ろうとする。その前に俺がメタルサラマンダーの合成獣キメラの首元へと辿り着き──




 「豪刃、居合斬り!」


 


 その太い首を叩き切ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る