第21話 魔剣士が強敵に出会ったら

 136層にたどり着いた瞬間、肌を突き刺すかのような鋭い魔力が俺たちを襲った。


 「っ!?これはっ……」


 このダンジョンに入ってから初めて感じるほどの魔力。135層にいた時に感じた時もそうだったが、こうして近くまで行くと、その凄まじさを改めて感じることができた。


 『ドラゴンとメタルサラマンダーの合成獣キメラか……だがそれ以外のも混じっているな、これは』


 メタルサラマンダーとは主に火山に生息する、サラマンダーの特異個体だ。その強さは一体で一つの小国を壊滅できるほどで、推奨冒険者ランクはS級以上とされている。


 その特徴はなんと言ってもその体だろう。その名の通り、全身がアダマンタイトでできており、並の武器では一撃与えるだけで壊れてしまうほどの強度を持っており、更にその硬さを駆使した尻尾の一撃は巨大な岩を一撃で粉々にするほどの力がある。


 そしてサラマンダーとあるように、炎を口から吐くことも可能だ。そして、その炎は一瞬にして周囲を業火の海と化すことができる。もし人間がその炎をその身に食らったら、すぐさま全身が灰になるだろう。


 そんな凶悪なメタルサラマンダーだけならまだなんとかなったかもしれない。だがそれに加えてジュシュアと同じ種族のドラゴンが混ざる、なんて。


 「……っ」


 俺は自然と刀を握る力が強くなった。目の前に死が迫っているような錯覚に陥りそうになる。


 『これは、我だけでも一応は倒せはするが……それ相応の覚悟をしないと勝てぬな』


 「……俺とジュシュアが共闘すればどうなる?」


 『勝てはする……それ以上は言えぬ』


 「……分かった」

 

 俺は刀に魔力を流し始めた。身体強化が使えないのなら、せめて刀が折れないようにしないと。





 ──そして、深呼吸。





 「行くぞ」


 『出遅れるなよ』


 そう言ってニィィっと獰猛な笑みを浮かべたジュシュアはいきなり合成獣キメラに向かって突進し、


 『オラアアアア!!!』


 「ヴァアアアアアア!!!」


 その鋭い爪で肉薄し、奴の体に深くその爪をめり込ませた。それに対抗しようと合成獣キメラはその硬い尻尾でジュシュアを叩こうとした。


 『ふん!!』


 「ヴァア!?」


 だがそれをされる前にその剛腕で合成獣キメラを持ち上げ、俺の方に投げ飛ばしてきた。


 まさか自分が持ち上げられるとは思っていなかったのだろう、いきなりのことで何も対応できず、それを許してしまった。


 「紫電一閃!!」


 そして飛んできた合成獣キメラに俺は渾身の紫電一閃を放った。だがそれに気づいた合成獣キメラはその身を縮こませ、体を固めた。


 

 ガキン!



 「ちっ」


 俺はすぐさまその場を離れる。身体強化があまり発揮できていない分、なるべく早めに。


 直後、さっきまでいた場所に巨体が落ちてきた。


 これはチャンス──


 『その場から離れろ!』


 「っ!?」


 ジュシュアの叫び声に俺は更に奴から離れた。そしてジュシュアのそばまできた瞬間──





 ──世界が変わった。




 『っ、これはメタルサラマンダーの獄炎世界か……!まさかそれを発動できるまで強い個体だったとは……!目算誤ったっ……!』


 「これがあの獄炎世界……旅の途中でふと耳にしたことがあったが、これは凄まじいな。というか、あっつ」


 『こうなってしまった以上、なるべく速くやつを殺すぞ。でないと、燃えて死ぬ』


 「……だろうな。このままだと10分もたたずして俺は燃えるかもな。くそっ」


 熱すぎて汗が止まらない。そのせいで思考がままならない。


 『来るぞ!』


 「っ!」


 「ヴァアアアアア!!!」


 さっきよりも動きが速くなった合成獣キメラはその背にあるドラゴンの翼で一気に俺たちのところまでやってきて、


 『うおおおお!!』


 ジュシュアのとほとんど変わらない爪で俺の脳天を貫こうとした。だがその直前にジュシュアが俺の前に移動しそれを防いでくれた。


 『今っ!』


 「ああっ!」


 俺は即座にジュシュアの後ろから合成獣キメラの横に移動する。


 「豪刃!」


 そして魔力をできるだけ流して鋭くした刀で奴の尻尾を斬ろうと思いっきり振るった。


 「はあっ!」


 すると面白いくらいにスッと刃がそれに通り、さっきできなかったことがあっさりできてしまった。


 

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