第3話 魔剣士が刀に出会ったら

 「おーう」


 「またお前かよ。最近めっちゃ来てんなぁ」


 「悪いかよ」


 「いいや、問題ねぇ。金吐き出してくれるしな」


 「正直だねぇ。ま、それがいいんだがな」

 

 いつもの酒場に入って店主のおっさんの前のカウンター席に座る。するとすぐにエールが俺の目の前に出てきた。


 「今日もゴブリン共を狩ったのか?餓鬼共のためにとっとけよ」


 「うっせぇ。ゴブリンなんざすぐ湧くだろうが。それに今日はなんか乗り気になんなかったんだよ」


 「気分で新人の仕事をとるなよ。いい大人がよ」


 「これがいい大人に見えるか?酒飲んでるこれが」


 「そうだな。お前はいい大人じゃねえな。訂正するぜ。お前はクソな大人だ。餓鬼のことすら考えられない、な」


 「冒険者になれんのだって15とかからだろ?あいつらはもう餓鬼と呼べるもんじゃねえよ。それに俺だってまだ20とかだしな」


 「もう20、の間違いだろ」


 「うっせ」


 俺は勢いで一杯エールを飲み干した。そしてすぐにおかわりのエールとつまみが俺の目の前に置かれる。

 そのつまみに手を出そうとした時、隣から伸びる手が見えた。

 俺はその手からつまみを救い出して、そしてその手に向かって平手を打つ。


 「いてっ……ひっど〜。女の子に手ぇ出しちゃいけないんだぁ〜」


 「お前はどちらかというと女じゃねえから心配するな。お前はただの盗人だ。俺にとって盗人には性別なんて関係ないからな」


 「え?リオン奢ってくれるんでしょ?だったら盗人じゃないよ?」


 「んなわけねえだろ。それよりもシスターが人のもん盗んでもいいのか?」


 「シスターはどんな罪でも許されるんだよ」


 「そんな暴論許されるわけねえだろ」


 ケチ〜と言いながら伸ばした手を引く彼女は、さっき会ったベリアだ。意外と戻ってくるのが早かったな。


 「おじさんいつもの」


 「一丁前のシスターが何酒飲んでんだよ」


 「いいじゃん美味しいんだからさ〜」


 はぁ、と俺がため息を吐いていると、おっさんはエールを彼女に出しているところが見えた。

 なんだかんだ言って客と可愛い子には甘いのだ。いい歳して何やってんだか。


 「おっさん、普通お前は止める側だろうが。それを何平然と出してやがる」


 「俺のモットーはお客大事にだからな。無茶なもの以外は基本対応する。そうすれば金を吐き出してくれる」


 「後ろ本音出てるぞー」


 「お前にそう言ったってどうせ明日も来るんだから別にいいんだよ」


 「そーだそーだー。私に酒を飲ませろー」


 「それが問題なんだよ」


 シスターだろお前。教会の孤児院を運営してる一人だったろお前。

 そんなお前が酒飲んでていいのかよ。


 「子供に何言われてもしらねぇからな」


 「それは大丈夫だよ。逆に応援してくれるから」


 「………は?どういうことだよ?」


 「教えなぁ〜い」


 そう言っていたずらが成功したみたいな顔で笑う彼女に、俺は頭の中にハテナを増やしたのだった。




 

 次の日。

 俺はそろそろちゃんとした剣を買おうと思い、泊まっている宿の近くの鍛冶屋に来ていた。この店はとあるドワーフが経営していて、この街一の腕前を持っている、と俺が勝手に思っている店だ。


 「おっさん」


 「おお、リオンか」


 「邪魔すんぞ」


 「儂の邪魔すんなよ」


 「へいへい」


 俺は適当に飾ってある武器を見ては手に取り、感触を確かめる。が、どうもしっくりくるものがない。勇者パーティ時代に使っていた剣はそれ自体が魔術の媒体みたいな感じになっていたからな。そういう武器が少ない以上、俺に合う武器がないのはしょうがないのかもしれない。

 最悪ダンジョンのドロップ品に期待するしかないのだが……。


 「おっさん」


 「ん?邪魔すんなとさっき──」


 「他の武器、なんか無い?」


 「そんなら奥にあるぞ。勝手に見とけ」


 「あざっす」


 俺は言われた通り、店の奥にある部屋へと進む。地味に奥へと行くのは初めてだった。見るとそこには表には無いような見たことのないいろんな武器が揃っていた。


 「ふむふむ」


 俺は歩きながら様々な武器を物色する。ここにある武器はどれも一癖が強いものばかりで見ていて飽きることはなさそうだ。


 「ん?」


 とその時、何かが俺の目をよぎった。

 その方を向くと、


 「──っ!?」






 俺はその武器を見た瞬間、目を奪われてしまった。






 それは不思議な武器だった。片方にしか刃がない、反りのある剣。いや、これは剣と呼んでもいいのだろうか。なんて滑らかなんだろう。これは一種の美だと思った。

 と、俺がその不思議な、でもなぜか目が離せない武器を眺めていると、丁度作業が終わったのか、おっさんが俺のところまでやってきた。


 「どうだ、何か見つか────おお、それか」


 「………なぁ、おっさん。これはなんて言う武器なんだ?」


 俺は震えた声でそう尋ねる。


 「ああ、それはな──────」













 「──────刀。名を、妖刀武蔵というものじゃ」


 変わり映えのしない日になるはずだった今日、俺は、この妖刀武蔵に心を奪われた。


 

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 第四話は明日の17:00頃投稿します。

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