第2話 魔剣士が辺境に逃げ込んだら

 俺が王都を抜け出して、丁度一年が経った。

 俺はゼン改めリオンと名前を変えここ、辺境の地ライネスで暮らしていた。国外に出ようとしたが、流石に取り締まりを強化していて出ることが出来なかったのでその一歩手前のここに今は冒険者として暮らしている。


 冒険者になったのは、元々冒険者として勇者パーティに入る前は活動していたから、ある程度は冒険者について覚えていたからだ。


 そして魔剣士ゼンは未だ指名手配されているが、指名手配の紙に書かれていた絵はどう見ても俺じゃなかったので、気づかれることはないだろうと思いたい。まだ誰からも“ゼンだ!!”って言われてないしな。

 なんで画家とかに頼まなかったんだろうと思ったが、まぁそこは気にしないでおく。

 最悪仮面とかをつければいいだけだしな。怪しさは増すけど。

 そもそも俺の顔なんて勇者の影とかに隠れていたせいで覚えてるやつなんざほとんどいないと思うし。目の色とか髪の色とかいろんな部分変えてるし。


 今の俺の見た目は何というか、普通だ。金髪だった髪の色を黒髪に変え、そして目の色は青から濃い灰色に変えている。この姿はどこにでもいる人……だと思う。何だか言っていて心配になってきた。


 「おう、リオン。今日も魔物狩りか?」


 「ああ。ちょっと昨日飲みすぎちゃってよぉ、金が……」


 「それはお前の自業自得だろうが……ま、何度も言っているが、魔の森の方には行かないようにしろよ」


 「分かってるって」


 門番と軽い挨拶をしたのち、俺は街を抜けた。

 

 辺境の地と呼ばれているここライネスには三つの狩場がある。


 一つ目は今俺が向かおうとしているライネスの真正面にある草原だ。ここには基本的に低級の魔物───つまり、ゴブリンやウルフだな───しかいない、初心者大歓迎の狩場だ。


 二つ目がライネスの東側に位置する山だ。そこには中級───オークやハイウルフなど───が生息している。


 そして三つ目がさっき門番が言っていた草原の奥にある森。通称魔の森。そこにはブレス一つで街を二つほど焼き払うことができると言われているエレメントドラゴンを頂点とした生態系が出来上がっている。その為、そこにいる魔物はとても強い。エレメントドラゴンに匹敵するような魔物はいないが、それでも街に降りてきたら災害レベルで被害が出るであろう魔物がいっぱいいる。


 今の俺の装備では勝てるかどうかもわからない。着の身着のままで逃げてきたからな。一応金はいくつかあったし、魔物を狩りながら街を転々としていたおかげで幾らか金は得られていた。

 その道中で持っていた装備は壊れた為、勇者パーティの時に使っていたものよりいくらかグレードが下がる。


 「はあ」


 息をするようにゴブリン五体を魔術で屠る。一年前の、空を飛んだ時にできた火と風の魔術を同時に使うデュアルマジックという技術を自分のものにできるように俺はこの一年それを極められるように使い続けた。


 そしてなんとか実践でも使えるまでにはでき、そのお陰かは知らないがつい最近、初めて魔術階級一段の魔術を使うことができた。ついに壁を越えられたと分かった時は自然と涙が溢れたものだ。


 なんせ、壁を越えるまで5年かかったからな。人によっては一生越えられないとまで言われているので、というか超えられない人が大半なので、俺は才能があったのだろう。


 魔術には魔術階級と言って、下から七級から七段まである。五級、四級と下がっていって、一級まで行ったら次は一段となり、そこから上がっていって最後にはその力は星を滅ぼすと言われている七段に到達する。

 一級から一段へと行くには才能とそれに見合った努力が必要とされ、それが真の実力者となれるかどうかの壁となっている。俺はつい先日までその壁を登っている途中だった。


 一級まで行くのにはそこまで時間は掛からなかったが、一段まで行くので躓いていた。それはきっと勇者パーティでは大体魔術はカレンが担当していて、俺はあまり使っていなかったのもあったからだろう。勇者パーティにいた時は身体強化くらいしか魔術は使っていなかったからな。

 

 「後はウルフだけ───お」


 「あらま」


 と、俺がウルフを探そうとした時、草原の奥から一人の女性が現れた。

 彼女の名はベリア。一応ライネスにあるエリス教の教会に所属しているシスターである。


 しかし耳にはシスターとは思えない柄のピアスがあり、目元には隈ができていて見た目が完全にシスターの清楚感の真逆を行っているのだが、本人曰く、“シスター革命だよ。シスターもファッションに目覚めなきゃ”とか言っていた。


 そんな濃い隈を作りながら言ったその言葉に説得力は皆無だったが、腰まで伸びているかもと思えるほど伸びている金髪だけはとても綺麗だ。髪だけは。


 ただでさえ整っている顔が目元の隈によって台無しだが、彼女は変える気がないらしい。なんか残念だ。残念シスター。


 「お前なんでここにいるんだよ。まだ15とかだろ?」


 「15でも外に出れるんですぅ〜。そんなことよりもリオンだってなんでここに?」


 「普通にクエストだが」


 「そう言えば冒険者だったっけ。ランクは?」


 「C」


 この国、いや、この世界には冒険者なるものが存在する。冒険者には下からE級、D級、C級、B級、A級、S級、L級の7つに分けられていて、魔物を狩ることができるようになるのはD級からだ。

 昇級方法は基本的には試験だが、何か大きな功績────例えば魔物の軍勢から街を守る────を成した場合には無条件で上がるケースがある。


 そして当たり前だが、級が上がれば上がるほどその級を所持している人数も減っていく。A級より上となると本当に少なくなっていって、確かA級が冒険者全体の0.3%でS級が0.02%、そしてL級は何万といる冒険者の中でわずか3人だ。いかに人数が少ないかがわかる。


 また、冒険者はB級に行けば十分実力者と呼ばれる。A級より上になるには、人間を辞めた何かにならなければならないとまで言われているからで、それほど実力が隔絶しているのだ。L級なんて、一人で一国の軍隊を相手取っても勝ててしまうほどの実力があるとの噂が挙がるほどだ。


 「C級ねぇ……絶対実力詐欺ってるっしょ」


 「事実に決まってんだろ。ほら」


 俺はポケットに入っている冒険者カードをベリアに見せる。

 ベリアは俺に近づいて俺が持っているカードをまじまじと見た。


 「……本当だ。B級以上はあると思ったのに」


 「俺がそんなあるわけないだろ」


 「いやだって、さっき魔術使ってるとこ見たけど、ゴブリンとか瞬殺だったじゃん」


 「あれくらい普通のCでもできるわ」


 「そうだけどさ……」


 そう言ってはいるが、彼女は納得がいっていないようだ。


 「あ、ウルフだ」


 それからしばらくして、俺がベリアと話している時にベリアの後ろでウルフが三体現れた。

 

 「ウィンドショット」


 俺は彼女を無視して風の三級魔術、ウィンドショットを三つ出して、ウルフ三体の眉間を貫通。

 そしてすぐにウルフの死体のところへと赴き解体を手早く済ませ、必要ない箇所を火魔術で燃やす。


 「これで終わりか」


 「このクエストD級のものよね?なんでC級のリオンがやってるの?」


 「ん?ああ、乗り気にならなかった。それに今朝見たクエストでいいのなかったし」


 「ふぅん。あっそ。あんま新人の仕事取らないようにね」


 そう言ってベリアは街とは反対方向、草原の奥へと向かっていった。


 「んじゃあ私はもう少し用事を済ませて帰るわ。今日もおじさんのとこ行くんでしょ?」


 「ん?まぁな」


 「(よしっ)……それじゃあまた後でね」


 一瞬ガッツポーズをしたが、なんでだろうか。まぁ気にする必要はないか。

 俺はベリアと別れて街へと戻った。



 ライネスに着いた俺は、早速ギルドへと向かいクエストの達成連絡とゴブリンとウルフの討伐証明となる耳を提出して、金をもらって冒険者ギルドを出た。


 「……ぼちぼちか」


 いつもの酒場に向かいながら稼いだ金を見る。やはり少ない。まぁ一日分過ごすだけなら問題ない。


 「酒飲むか」

 

 時間はもう、夜になりかけていた。



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 第三話は明日の17:00に投稿します。

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