第56話「戦いの日々」

「おにーちゃん! 手伝ってください!」


 デモンロードを討伐しようとしているフォーレからヘルプが届いた。ボス部屋の前へのポータルを開ける課金アイテムも送信してきた。このゲーム、基本的にアイテムは手渡しだが課金アイテムを使用すればアイテムを転送することが可能だ。課金優遇、P2Wなどと呼ばれ嫌われていることは百も承知のはずだが、運営は一切改めるつもりはないようだ。


 幸い、ギルドの雑務も終わっていたので、ギルドにいたヴィルトとメアリーとフィールズとファラデーに声をかけた。


「フォーレとマクスウェルがデモンロードと戦っている。俺に協力依頼が届いた、数は多い方が良いので時間がある者は戦闘用装備に切り替えてもらえないだろうか」


「分かりました!」


「物好きね」


「よっしゃ! 久しぶりの大舞台だな!」


「ラスボスの討伐なんて滅多に出来ないな!」


 もちろんこの先サービスが続く場合は新しいラスボスが実装される可能性はある。今の時点でのラスボスという意味だ。ゲーム特有のダウンロードコンテンツがこのゲームでは何度も配信されている。しかし、現時点では少なくともラスボスという位置づけになっている相手だ。


「着替え終わった」


「終わりましたー」


「最強装備を持ってきたぞ」


「俺なんて課金武器を持ってきたぞ」


「おま! 課金武器は反則だろ!」


「いいじゃねえか! せっかくのお祭りだろう? 精々踊ってやろうじゃねえか!」


 皆ノリよく参加を決定してくれた。戦闘に参加する人数は無制限なのでメアリーでも立派な戦力の一人にはなる。少なくともいないよりはずっとマシだ。


「ギルマス! ポータル開いてくれ」


「ああ、覚悟はいいな?」


「リアルで死ぬわけじゃあるまいし覚悟なんてあるわけねえだろ!」


「違いねえ、俺たちはただ戦うだけだからな!」


 俺はフォーレから送られてきたポータル接続アイテムを使用した。部屋の真ん中に光の柱が出現する。


「準備は出来た、最善を尽くすだけだ」


「ギルマス! 発言が小物だぞ、もっと大きくラスボス討伐済みギルドになるぞくらいのことは言えよ!」


 ファラデーの言葉ももっともかもしれない。俺は失うもののない戦いに参加するのだ。ぶっ潰すくらいの宣言をしてもいいかも知れない。


「じゃあ魔王のところに突っ込むぞ! 俺たちの力を見せてやれ!」


「「「「おー!」」」」


 そして俺たちは全員でポータルに飛び込んだ。


 その先は荒れ果てた地に繋がっており、所々マグマが噴き出し地面には草一本生えていない。視界の端に『体感温度を制限しています』という表示が出た。このヘッドセットのセーフティがかかる程度には過酷な環境のようだ。そしてその荒れ果てた地に、フォーレとマクスウェルはいた。


「大丈夫か?」


 俺がそう問いかけるとフォーレが現状を説明した。


「今のところ三分の一まで削るのには成功しましたね、今ではすっかり自己再生で回復していやがるでしょうけど、希望事態はありますよ」


「さすがに二人でクリアは厳しかったわ」


「二人でラスボスと戦ったのか!?」


 ファラデーが驚きの声を上げた。無理もない、そもそも二人で戦うようなボスではないからな。


「必殺技の直後の無耐性タイムを狙ってデバフと異常ステばらまけば多少は勝負になりますよ。もちろんタイミングは厳しいですがね」


「無耐性タイムなんてあるのか?」


「時間は短いですが僅かにあります。必殺技の直後零点数秒を狙えば睡眠から毒魔でばらまけますよ。時間が短いので一発入れられれば儲けものですが……」


「じゃあそこでデバフをかけて、成功したら集中攻撃でいいな?」


「ああ、まだ報告が上がってない弱点だな、そこを狙えば可能性はあるだろう」


 そして俺たちはデモンロードの待っている扉の前に立った。


「準備はオーケー?」


「完璧です」


 それだけ聞いて俺はドアを押し開けた。


『人間ごときが調子に乗ってよくここまで来たものだ、褒美に我の力で地獄へ送ってやろう』


 決まりきったNPCの台詞と共に戦闘が始まった。


 ファラデーが真っ先に殴りかかったのだが、僅かに減ったHPゲージは自己回復ですぐに元に戻った。


「おいおい……どうやってこんなものに勝つんだよ」


 フォーレはそう言うファラデーに指示を出した。


「私が状態異常をぶち込むまでは防御に徹してください! とりあえず攻撃を受けないことを考えてください。


 人型の魔王は目から光線を出した。軽くかすっただけでHPをかなり削られた。


「ヒールを頼む」


 ヴィルトが俺の方によってきてヒールで回復してくれた。HPバーは大体満タンになる。


『死ねぃ!』


 今度は手から炎を噴き出す。コレについては予習済みで距離を取っていれば届かない攻撃だ。


 それを知らないメアリーが炎に触れてHPを削られる。


「きゃ!」


「待ってて! すぐヒールを!」


「ヴィルト! 次の攻撃はHPの一番低いものを狙ってくる! 回復じゃなくシールドを張れ!」


「了解!」


『プロテクション』


 ヴィルトのシールド魔法で防護壁がメアリーの前に出現する。そこへ魔王がとっておきの一発をたたき込んだ。


『我の力を知るがよい!』


 闇の奔流を流して攻撃してくるのだが、ヴィルトのレベルが高いので攻撃を通さない。その攻撃が止んだときにフォーレがスリップダメージの攻撃をとばした。


 魔王がよろける、どうやらスリップ状態に入ったようだ。


「全員攻撃! 死ぬ前にヒールを!」


 全員が集合して攻撃を仕掛ける。二人だったときとは桁違いであろうダメージがボスに入った。


「いける! このまま押すぞ!」


「任せなさい!」


 マクスウェルが待っていたとばかりに魔力を大量に消費する光魔法を放った。


『ジャッジメント!』


 天から落ちてきた光の塊が魔王に直撃する。MP消費が大きいだけあってHPが一気に削られた。残り半分!


『我の力を知るがよい!』


「必殺技来るぞ! 誰がターゲットだ?」


「フォーレちゃんです!」


 くっ……マズい、デバフ役を落とすわけには絶対にいかない。


「フォーレにヒールを……」


 そこで駆け出す影があり、魔王とフォーレの間に立った。


「私でも……これくらいは!」


 メアリーは自分が魔王の必殺技のダメージを全て受けて倒れた。


「くそっ! ヴィルト! リザレクションを!」


「もう一度スリップ入りました!」


 どうする? 手数はもうあまり無い。マクスウェルはMPを大量に消費する攻撃を使ってしまっている。ここからどうやって倒す?


「マクスウェル! コレを使え!」


 フィールズが投げた小瓶をキャッチしたマクスウェルはそれが何であるか確かめる手間も惜しんで飲み干した。


『ジャッジメント!』


 光の塊が再び魔王に直撃してHPをゼロになるまで削りきった。


『我が……負けた……だと……グオオオオ」


 魔王は体を崩し消えていった。画面の隅に出た『デモンロードを討伐しました』の表示で戦闘が終わったのを理解した。


「勝ったぞ!」


「よっしゃああああ!」


「疲れたわ、体の方は動かしていないはずなのにものすごく疲れた……」


 こうして俺たちの戦闘は終了した。魔王の玉座に帰還用のポータルが展開されている。そして俺たちはその中へと飛び込んでいった。

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