第55話「不屈の魂」

 その日、ギルドハウスにいなかったフォーレから直通チャットが入った。


「お兄ちゃん聞いてください! デモンロードを半分まで削るのに成功しましたよ!」


「すごいじゃん」


 新規ボスのデモンロードを討伐出来た非カンスト勢はいない。自己回復を持つのでカンストしていないと削るのが非常に難しい仕様になっている。それを俺の妹は半分まで削りきったということだ。


「マクスウェルと一緒に行ってるんだろ? アイツの戦略か?」


「お兄ちゃん、私への信用が無いですね……私の立ち回りのおかげですよ」


 そいつはすごい。フォーレも随分と成長したものだ。俺の頼ってパワーレベリングしていた頃からすれば見違えたな。人間僅かな期間でもきちんと成長していくものだ。俺にへばりついてプレイをしていた頃からは信じられない成長だ。


「ハウスに帰ってきたらビールを用意して待ってるよ、マクスウェルも含めてお疲れ会をしよう」


「期待して待ってます! 時間的にもう一戦出来そうなのでそれではまた」


 プツンと回線は切れた。半分までとはいえ削ったのはすごい、新ボスの評判を聞くかぎり、カンストパーティでもプレイスキルが未熟だと回復にダメージが追いつかないと聞いているからな。


 俺は空中に購入ウインドウを開いてビールを選択したゲーム用クレジットが消費されるのに同意すると一瞬で冷えたビールが一パックテーブルの上に出てきた。


「ギルマス、何かのお祝いですか?」


 ハウスでグダグダしていたメアリーが俺に訊いた。妹の自慢をするのはなんだか気恥ずかしかったが、この世界では兄妹と公表しているわけでもないな。


「フォーレ達がボス相手に善戦したそうだからお祝いをしようと思ってな、メアリーも飲めるか? なんならコーラでも用意するが……」


「いえ、私もビールにします。仮想アルコール機能を有効にすればいいんですよね?」


「そうだ、いい気分になれるぞ」


 メアリーはウインドウを開いてあちこちをタップしている。どこに設定が隠れているか分からないのだろう。教えることは簡単だが、ゲームに慣れてもらうために自分で見つけてもらうとしよう。


 そしてあっちこっちにウインドウを広げたあとでようやく該当の設定を見つけたらしくチェックボックスをオンにしていた。


 その後すぐ、ギルドハウスのポータルが光った。


「いやー負けたわね!」


「でもいい勝負してましたよ? 削る勢いが回復より早かったです!」


「こっちの耐久を犠牲にしてたけどね……」


 今日の反省をしながらフォーレとマクスウェルが帰ってきた。


「あら、ギルマス、ビールなんて用意して何かのお祝い?」


「ああ、お前らが善戦したって聞いたんでな、新戦略を発見したお祝いだ」


「それは景気がいいわね、私とフォーレちゃんが主役って事でいいの?」


「ああ、二人が主役のパーティだ」


 そう聞くとフォーレとマクスウェルはいつまでも冷たいビールを手にして俺に一言『ありがとう』と言った。


「じゃあ二人の善戦に乾杯!」


「「「かんぱーい!」」」


 フォーレとマクスウェルはゴクゴクと飲んでいる。対照的にメアリーの方はちびちびと少しずつ飲んでいる。俺は普通に飲んで喉を潤している感覚を得た。もちろんゲーム内のできごとなので実際に水分が得られるわけではないが、それは気分の問題だ。


「ところでどんな戦略を思いついたんだ?」


「聞いてください!」


 ドヤ顔でフォーレは語り始めた。


「デモンロードは範囲ダメージのスキルを使った後に硬直があるんですね、そこを狙って削りつつ、スリップダメージを与える攻撃をして回復量を減らすわけですね」


「スリップダメージなんて効くのか?」


 大抵のボスは耐性を持っていると思うんだが、実際削ったので効いたのだろう、信じがたいことだが。


「必殺技の直後は無耐性になるようなんですよ、そこを狙ってステータス異常をぶつける戦法を思いつきまして」


 マジか……そんな弱点があったのか、海外勢も未発見の弱点だろう。


「フォーレちゃんがすごいのよ、無耐性になる時間は一秒もないのにキャスト時間含めて正確にデバフをかけてたわ」


「フォーレって地味にそういうところすごいよな」


 俺の褒め言葉にいい気になってフォーレは二缶目を開けた。


「そうなんですよ、一瞬の隙を突いてぶち込むのが大変でしてね、今回は失敗したところをつかれて攻撃されて全滅しました。次は負けませんよ!」


「惜しかったみたいだな」


「うーん……成功率七割くらいだったのでもう少し目押しのタイミングを計らないといけませんね」


「それでもフォーレちゃんはよくやったわ、普通のパーティならボッコボコにされてたでしょうね」


「マクスちゃん……勝たなきゃ何の意味も無いんですよ、負けは負けです」


「あなた、意外なところでシビアな考え方してるわね」


 マクスウェルも二本目を開けた。


「今度は討伐を本気で目指しましょうね」


 マクスウェルも思い切り乗り気のようだ。フォーレほどの戦闘大好きではないが、出来るところまでなら頑張りたいようだ。可能性がゼロではないならチャレンジしたい、その精神は大事だと思う。


 マクスウェルは二本目を一気に飲み干して、ゴミを消滅させると言った。


「私は明日からデスマだからもう終わるけど、フォーレちゃん、次は必ず勝ちましょうね?」


「もちろんです!」


 二人はハイタッチをして別れた。俺はギルメンが成長していることに感謝をしたのだった。

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