第16話「ハーフアニバーサリー記念ビール」

「半年記念品がコレねぇ……」


 マクスウェルは呆れ顔で全ギルドに配布されたアイテムを見て呆れている。正直俺も少し呆れているところだ。


「お歳暮じゃあるまいしビールってどうなの?」


 そう、サービス開始半年記念での報酬はギルド全てに配布された。それがこのビールセットだ、きちんとギルド所属人数分調整が入って配布されている。一応、本当に一応なのだがこのゲームの売りは冒険と生活であって、仮想アルコールが全年齢で合法的に摂取できることではない。そのコンセプトを根底からひっくり返すような記念品だった。


「まあまあ、いいじゃないですか! せっかくギルドハウスに届いたわけですしみんなで飲みましょうよ!」


 テーブルに上に置かれた箱を見ながらフォーレがそう言う。保存しておいてもデータなので劣化することはないが、飲む以外の使い道がないのでその意見にも一理ある。


「じゃあサービス開始半年とギルド設立半年を祝って今いる皆で飲むか」


「しょうがないわねえ」


「私……あんまり仮想アルコールって有効にしたこと無いんですよね……」


 不安を浮かべるメアリーにマクスウェルは冷静に返答する。


「別に酩酊する必要は無いのよ。こういうのは皆で同じものを飲んで結束を高めるものだもの、別に仮想アルコール設定がオフでも問題無いわ」


「そ……そういうことなら……」


「ビールは冷えてるわよね?」


 それについてはフォーレが答える。


「そうですね、冷蔵庫で冷やした感じの温度で固定されているようですね」


「マクスウェル、程々にしておきなさいよ?」


 最近表に出てこなかったヴィルトがマクスウェルに釘を刺す。しかしマクスウェルの方はまったく気にしていない様子だった。


「ギルマス、今いるギルメンに一人一本配布しておいて残りは倉庫に入れておきなさい。好きなように飲ませたらマッハで無くなるわよ」


「じゃあフォーレ、ヴィルト、マクスウェル、メアリーで四本だな?」


「ギルマス……自分を忘れてるわよ?」


「俺はあんまり飲むとギルド運用に差し支えが……」


「いい? それなら仮想アルコールは無効にしておけばいいの、ここでの目的は……」


「ギルドの結束を高めるため……か?」


「分かってるじゃない」


 そう言われてはしょうがない。メニュー画面を開いて仮想アルコールのデータ量を『小』に設定する。コレならビール一本くらいで酔うことは無い。とはいえ運営が配布したビールが一缶五百ミリリットルと多めであることは気になるのだが……


 そして全員にビールの缶を配って円卓に就く。みながそれを囲って座って乾杯をした。何故かギルマスの俺が音頭を取るのではなく代表したのはマクスウェルだった。適材適所というやつだろう。


「それでは、ギルド半年を祝って! 乾杯!」


「かんぱーい!」


 プシュとビールの缶を開け皆で飲み込む。苦味が口の中を洗い流す。


「プハァ! このために生きてるって感じですね!」


 そんなアル中みたいな事を言っているフォーレに俺は直通チャットを開いた。


「お前まだ高校生だからな? その事はちゃんと覚えておけよ?」


「そういうしがらみが無いのがこのゲームノンリアルファンタジーオンラインのいいところでしょう?」


 そう言って直通回線は切られた。このゲームをこの中で一番楽しんでいるのは妹ではないだろうかとさえ思えてくる。


「ふぃ~……やっぱりビールは美味しいですねえ!」


「なかなか良い飲みっぷりね、フォーレちゃんもいやなことがたくさんあるクチかな?」


「そりゃあありますよ! リアルなんてクソゲーですからね!」


 現実をクソゲーと言い切る妹。俺はそこまで言い切ることは出来ない。そこが兄妹の決定的な違いなのだろう。


「まあ飲みなさいな、いやなことは飲んで忘れるに限るわよ!」


 マクスウェルがアル中への道へ妹を引き込もうとしている。いくら身体依存が仮想アルコールに無いとしても、大量に脳にデータを送り込んで酩酊感を得るのは体に問題無いのか議論されている。


「しかし運営にしては気の利いたプレゼントだったわね。もっとシケてるかと思ってたわ」


「運営だってたまにはやるだろうさ、なんたってデータベースをいじるだけなら人件費だけで出来るからな」


「夢が無いわね……運営が優しくなったって言いなさいよ」


「あいにくそこまで信用しちゃいない」


「『無能で済むことに悪意を見出すな』って言葉を知らないの? 悪意なんてそうそう無いものなのよ、世の中にはね」


「ああビールが切れました! もう一本欲しいですね!」


「人数分しか配布されてないんだから却下だ。多分運営もそう言う反応を期待して配布したんじゃないか?」


「悪意を見出してるわね……」


 こうして夜までハーフアニバーサリーのお祭りは進んでいった。結局フォーレはプリミアの露店にビールを買いにいっていたので運営の企みは成功だったと言えるだろう。フォーレは仮想アルコールの影響を減衰無しにしていたのに平気で二杯目を飲むのを見て仮想とは言えアルコールって怖いなと思った。

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