私のお姉ちゃんは発情期?

このしろ

第1話

「おぉぉぉおんっ!」


 隣の部屋から響くキサキお姉ちゃんの咆哮に、私はいつものように目が覚めた。


 深夜12時になると、キサキお姉ちゃんは毎日、こんな感じで、男のような唸り声をあげている。私も中学三年生という大層な年ごろで、ついつい、キサキお姉ちゃんが男の人でも部屋に連れ込んで、発情しているのかなんて思ったが、どうやら違うらしい。


 毎日こんな声を挙げられていては、私も睡眠障害を起こしかねないので、気になって玄関に行っても、私とパパとキサキお姉ちゃんの靴が綺麗に並べられているだけで、他人の靴はどこにも見当たらなかった。


 でも、キサキお姉ちゃんは美人だから、靴なんてなくても、彼氏が部屋に忍び込んでいる可能性だってある。


 きっと―――いや、間違いない。


 キサキお姉ちゃんは自分の部屋で………やってるんだ………。


 今日も私はキサキお姉ちゃんの咆哮―――もはや雄たけびと言っても過言ではない声を訊いて、ベッドから滑り落ちてしまった。


「ぐへっ!」


 腰を打ち付け、鋭い痛みを感じて、完璧に目が覚める。


「も、もう我慢できない!」

「おぉぉぉぉおんっ!」


 私が憤りすら感じ始めても、キサキお姉ちゃんの咆哮は止まらなかった。


「お姉ちゃんは大学生だからいいけど、私は時間にシビアな中学生なんだよ⁉ 明後日は中間テストだってあるし、今年は受験なんだよ⁉」

「おぉぉぉおんっ!」


 私の声に反応するような咆哮に、自分のなかで何かが切れる音がした。


「せ、セックスなら外でやってよ!」


 自分でも何を言っているのかわからず、部屋を飛びだして、パジャマ姿のままキサキお姉ちゃんの部屋の前に来た。


 パパは、「お姉ちゃんにも色々あるから仕方がないよ」なんていってたけど、仕方がなくないでしょ! 


「き、キサキ姉ちゃん! ちょっと静かにしてくれない?」


 部屋の向こうから反応はなかった。


 というか、すっごい静かになった。


 謎の咆哮が聞こえるとき、キサキお姉ちゃんの部屋からは、騒がしい雰囲気が漂っているのだが、それすらも無くなった。


 私の声に怖気づいたのだろうか。


「とにかく、私は明日も学校だから」


 それだけ言い残して、キサキお姉ちゃんの部屋の前から立ち去ろうとする。

 足を自分の部屋へ向けた―――そのとき、


「い、いやぁぁぁぁあん!」


 卑猥な絶叫が、家中に響いた。


 や、やっぱり、彼氏と一緒に………!


 私は怒りではなく、羞恥心すら覚えて、


「き、キサキお姉ちゃん⁉」


 キサキお姉ちゃんの部屋の扉を全力で開けた。


 すると―――、


「綾香? どうしたのこんな時間に」


 キサキお姉ちゃんは椅子に座りながら、きょとんとした表情でこっちを見ていた。


「あれ………。か、彼氏は?」

「彼氏? なんのこと?」

「え、」


 思ってもいなかった、至って普通な様子のお姉ちゃんに、私は素っ頓狂な声をあげる。


「あんたも受験近いんだから、夜更かしなんかしてないで、頭を休めるためにもちゃんと寝ないとダメよ?」

「え、う、うん………。じゃあ、おやすみ………」

「おやすみ」


 まるで何事も無かったかのように、ゆっくりと扉を閉める。


 だ、だよね………。まさか、いくら美人なキサキお姉ちゃんでも、彼氏を部屋に連れ込んで………。なんてね……。


 馬鹿な自分の考えを払拭すべく頭を振って自分の部屋に戻ろうとした。


「あ、あんっ……! だ、ダメぇっ!」

「キサキお姉ちゃん!」


 間違いなく声が聞こえた方にあった扉を開く。


「え………」


 私は絶句した。


 そこにいたのはキサキお姉ちゃんと彼氏………ではなく。


「そ、そこにる女の人は、だれ?」


 キサキお姉ちゃんはベッドに身を沈め、誰かに抱き着くよな姿勢を取っていた。


 綺麗な二色のロングヘアが同じベッドの上でたなびいている。


「ち、ちがうの! 綾香! これには訳が!」

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