エンデイル・リオン

鯉王

プロローグ①

梅雨明けの朝、少しばかり淀んだ空気の中、俺は校門から出た。


いつもと変わらない、もはや原型を留めていない瓦礫だらけの住宅街が見える。


夏が近いからだろうか、小鳥たちがさえずり、瓦礫の隙間から草木が背を伸ばしている。




「あれからもう1ヵ月...か。」




忘れもしないあの悲劇を脳裏に浮かべていた時、強い風が俺の背中を押した。


そうだ、今はとにかく任務を遂行しなければならない。


そう心のなかで呟いた俺は歩いて10分ほどのマンションに向かった。




そのマンションは先程の住宅街に比べると損傷はマシだが、どう見ても人が住んでいるようには見えない。


そんな廃墟に俺は一人で赴いた。




一部屋ずつ、入念に室内を確認していく。


どの部屋も生活感が無いものばかりだった。




コツコツコツと自分の足音だけが廊下に響いた。




そんな中、3階の部屋で俺はあるものを見つけた。




血痕。




それもまだ新しい、。新しいと言っても数時間前のものだろうが。




そして俺がその部屋から出ようとしたその時、ゴトンっと鈍い音がした。




「あ、、、」俺は思わず声を漏らした。


というのもクローゼットの中に誰かいるのがわかったのだ。




「だ、誰かいるのか?」


「・・・・・」


返事がない。




仕方なく俺はクローゼットを開けることにした。


ゆっくりと近づいて静かに俺はクローゼットを開ける。




すると、そこには少女が一人うずくまっていた。




「大丈夫か?お母さんやお父さんは?」と問おうとした瞬間ハッとした。




彼女の両親は恐らく・・・




そう思っていた矢先、少女がクローゼットから飛び出した。




マズイ・・・




意外にも足が速く、ようやく追いついたと思ったらそこは一階のロビーだった。




「大丈夫か?」


俺は言葉選びに慎重になりながらもストレートに質問をぶつけた。




すると、この時初めて少女が口を開いた。


「お兄ちゃんだって、あいつらの仲間なんでしょ!!殺されたママやパパが言ってた!今生きてる人はみんなあいつらのスパイで、私たちを騙してあいつらのもとへ連れて行くんだって!!!」




そういってその少女は俺の手を振り払ってマンションの外へ再び走り出した。




彼女がマンションの前の道路に出た時、前からドシドシと大きな音が聞こえてきた。


だんだんとそれは大きくなっていき、ついにその正体を現した。


【≪クリスタルゴーレム≫Lv.90】


そいつは2メートルは絶対にあるであろう半透明な体を持ち、対象を仕留めるための砲台が両肩、両腕、両膝に装備されている。


確かにレベル90なのも納得だ。




そして何やらその砲台に光が集まっていく。


どうやら俺たちを砲撃するつもりらしい。チャージ時間は長く見積もって5秒くらいか。


「こんな時に出て来るなんて、ちょっと俺ついてないな。君、早く後ろに下がって!!」


とは言ったものの恐らくゴーレムと遭遇した衝撃で気絶してしまっている。




すぐに俺は彼女の前に立ち、巨大な敵と対峙した。




仕方ない、「【電装展開ガーメント・オン】」




その言葉と共に俺は灰色を基調としたコートに包まれる。


そしてその右手には猛々しい大剣が握られていた。




―【一閃バーサーク】―


その光輝く一太刀でゴーレムは綺麗に両断された。


両断された胴体はほとばしる炎と共に爆散した。




俺は爆散していくゴーレムを横目に振り返った。


少女はまだ気絶しているみたいだ。




そろそろ学校に帰還する時間になり、俺は「本部」にチャットを入れる。


『D地区のマンションにて少女を保護、念のためヒーラーの方々を用意しておいてください。』




その後、俺は学校までの帰路についた。




その途中、俺はふとあることを考えた。


この子で一体何人目だろうか・・・


あれ以来多くの人を救ってきたが、救えなかった者のほうが圧倒的に多い。




できるだけのことはしたつもりだが、もしかしたら万に一つでも彼らを助ける方法があったのかもしれないと思えば思うほど、じくじくたる思いにふけってしまう。




そして、学校に帰ったらこの子にも伝えないといけない。


1カ月前、この世界で何が起こったのか。


そして、俺たち≪エンデイル・リオン≫は何をしているのかを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る