幼馴染が洋服を見せに来た!

 ある休日のお昼前。


 生産性のない日曜日を謳歌する湊月の鼓膜を揺らす、家の中で高らかに響き渡るインターホン。


 ベッドでダラーっと、干からびた鰹節かつおぶしのようになっていた湊月は、のっそりと起き上がり屋外が映し出された映像を見た。そこには、前髪を忙しなくいじっている幼馴染の姿が。


「はーい」

『あ!湊月!良かったぁ……家にいてくれて』

「志穂?……えっとー、まぁいいや。ちょっと待ってて!」


 湊月は、画面越しでも分かる心から安堵した表情を浮かべた志穂を迎える為に、すぐさま玄関口へと足早に向かう。


 もちろん、唐突に家に来た理由に関して気にはなったものの、志穂が何一つ連絡をしないで家に訪れる事など今まで無い──いや、あの告白の日を抜けば無い為、並々ならぬ何かがあるのだろう。


 勢い良く扉を開く。そのまま外に出ると、門の前でソワソワと身振りが落ち着かない様子の志穂と目が合った。


「あ……!お、おはよう……」

「おはよう。どうしたの?」

「えっと、特に理由があって来た訳じゃないんだけど……その……」

「うん?」

「新しく買ったお洋服があまりにも可愛くて……それを、一番に湊月に見てほしくって……」

「……ッ!そ、そうなん、だ」

「う、うん……」


 志穂からの、あまりにも直線的で真正面で──透明すぎる純粋なその表現に、湊月は言葉に詰まって視線を下げてしまう。


──告白してきてからというもの、ストレートに気持ちをぶつけられる事が多くなったような気がするな。


 嬉しい反面、それに勝るくらいの気恥ずかしさ。もっぱら最近の志穂と夏音の二人は、甘い言葉と勢いのある好意によって湊月の心臓を破壊する、さながら湊月特化型の暗殺者と言ったところ。


 暖色を帯びているほんわかとした沈黙の空気が、この場に漂う。陽だまりの中にあるそのだんまりを破るように口を開いた湊月。 


「えっと……とりあえず、上がっていく?」


 言い終えてから、この文言は流石に気持ち悪かったかもしれないと、少し後悔した。だが、そんな事は意にも介していない志穂は、屈託のない笑みを浮かべて、


「うん!!」


と、声高らかに頷いた。







「おじゃましまーす」


 前回来た時は、あんなにも緊張感と切羽詰まった感情が顔に出ていた志穂だったが、ドアを開けた湊月のピッタリ後ろにくっついて部屋に入ってきたその表情にそれら一切は見受けられない。むしろ、嬉々とした高揚が滲み出ていた。


「未羽ちゃんは?」

「未羽は部活の大会って言ってた」

「そっか。未羽ちゃんバスケとっても上手だもんね」

「未羽は俺と違って本当に運動神経良いからな。兄として不甲斐ないよ」

「湊月もやる気さえあれば運動神経良いじゃない。私知ってるよ?体育の短距離測定、体育祭の選抜リレー選手に選ばれたくないからって少し手を抜いてるの」

「ウッ……いや、そんな事は……」

「だって見たもん。湊月が日曜日なのに学校があるって勘違いして、すんごい速さで通学の道走ってたの。視査だから正確じゃないけど、少なくとも去年の選抜の選手の何人かよりは速かったわ」

「……えっとー。頼む!!それは俺と志穂だけの秘密って事で……特に、体育の館田には……」

「え~どうしよっかな~?館田先生に言っちゃおうかなぁ~?」


 にやりと口端を上げて言う志穂。それに対し、掌を合わせてすり寄る湊月。和やかな空気感に包まれる二人。


 ふと何かを思い出したように「あ……」と声を出した志穂は、着ているセーターの裾を軽く摘まんで、


「ねぇ、どうかしら?新しいお洋服!」


 湊月は、少し恥ずかしがりながら上目遣いで尋ねてきた志穂の全身を、上から下までじっくりと見つめた。


 今までの──清楚と、そう呼ばれていた頃には絶対に着なかった類の洋服。


 一見して分かるその際どさ。グレーを基調とした所々黒のラインが引かれているセーターは、美しい太ももに若干掛かる丈の長さであり、まるでスカートかのようになっている。


 そして、これでもかと言わんばかりに露になっている、美しい造形美を呈した二本の脚は、誰であろうと視線を奪われてしまうだろう。靴下は黒のロングではあるが、それ以外は何にも覆われていない太ももと膝、膝裏はとてつもなく扇情的だ。


「……あ、下はちゃんとショートパンツ履いてるからね?」


 そう言って、ヒラヒラとしたセーターの裾をぴらっと捲った志穂。


 確かに、ネイビーのショートパンツが見えるが、特にそういう訳では無くても何だかいけないものを見た気持ちになってしまう。


「うん。めちゃくちゃ可愛い!」

「そ、そーう?ふーん。うん………えへへ」


 一目見た率直な感想を述べた湊月。それを聞いた志穂は、堪えきれないにやつきを隠す為に、口元を手で隠した。


「本当に、この可愛い恰好を俺に見せる為だけに来てくれたの?」

「え……うん。ごめんね。急だったよね……」

「いや、嬉しいよ!志穂のこういう服装凄い新鮮だし!」

「ふふ!喜んでもらえたなら良かった!」

「でもさ、本来の目的を果たしちゃったわけだけど、これからどうするの?」

「あ。考えて、なかったなぁ……あはは」


 成績優秀、品行方正な自慢の幼馴染だが、たまにこういう抜けたところがあるから、湊月としては親しみやすい。


 少し考えた後、湊月はある一つの提案をした。


「……じゃあさ、久しぶりにどこか出かけない?」

「お出掛け……?」

「うん。今日から、『竜王転生!』の実写映画公開されてんだけど、確かあのアニメと原作志穂も好きだったよね?」

「えぇ!?あれって今日からだったの!?」

「そうそう。だから……もし、その。時間があればだけど……」

「行く!!絶対行く!!!ていうか、湊月私の好きな作品覚えててくれたんだ!」

「そりゃまぁ……一応、幼馴染、だし?」

「~~──っ!!もう!大っ好き!!!!」


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