「電波ソング歌ってたら連れが泣いた」

ヒコサカ マヒト

「電波ソング歌ってたら連れが泣いた」

 あのこが歌っていた。


 物悲し気な曲調に似合わない楽し気な歌声と笑顔。踊り出しそうな程に軽やかに足と手で拍子を取り、時折にくるりと回ってみせる。

 自分の知らない歌だった。


 曲調も知らないが言葉は聞き取ることすら出来なかった。意味のない音の羅列に聞こえ、自分が耳慣れないそれを連続で口にするのならばややストレスを感じるだろうけれど、あのこはそれを滞らせることなく口から歌として紡いでいく。


 あのこは異世界から来た、といつか言っていた。

 あまり信じていなかった。


 転生者、あるいは転移者の記録は残っているけれど極稀で、自分がその稀な人物に出会うような者だとは思えなかったから。あのこも自分が信じていないと分かっていて、最近は冗談交じりにしか言わなくなった。


 少なくとも自分の知らないところから来たのだと思い知らされた。


 あのこに出会う前から旅をして結構な道程を、それこそ世界中を歩いてきた心算だった。その途中であの子に出会い、共に歩くようになって、短くはない時を過ごした。そんな自分が聴いたことのない歌だった。


 涙が溢れた。


 あのこは自分の知らない、それこそ異世界のような遠いところから来た。そんな遠いところから来たのだから、あのこは何処へだって行けるのだろう。自分の知らない、手を伸ばしても届かない、そんな遠くへ。いつか、いつだって、今からだって。


 寂しくて仕方がなかった。

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「電波ソング歌ってたら連れが泣いた」 ヒコサカ マヒト @domingo-d1212

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