第36話


僕は琥珀色の液体を飲みながら、一人きりのリビングで白い箱を眺める。


そしてこの家の地下に眠る僕のコレクションを思い、天井に向けて溜め息を吐く。


僕だけの為に展示された作品は現在9体。


エンバーミングを施した作品を保冷庫に入れる前にたくさん並べたかったのだが、もうその夢は叶いそうになかった。


最新作の小山るうが最後の作品になるかもしれない。


栞と暮らすようになれば、地下室に美しい女を招待する事は不可能に近い。


たとえ栞が家に居なくとも、何処で誰が見ているか分からない。


だが結婚すれば自然と僕の中で栞は「動くコレクション」になる。


10体目のコレクションは生きた栞。


生まれてくる子供が女の子であれば、11体目になる。


それでいいのかもしれない、と自分に言い聞かせる。


僕が今まで9回も繰り返してきた事は、決して許される事ではない。


発覚すれば死刑は確実だ。


目黒 修:「はぁ……」


酒臭い溜め息を吐いて、白い箱を静かに開ける。


中には小さなダイヤモンドが並ぶ栞の指輪と、シンプルな僕の指輪が上品に並んで収まっている。


栞の指輪は間接照明の光を反射して美しく輝いていた。


しばらくは忙しい毎日になるだろう。


『スリムな体でウエディングドレスを着たい』という栞の要望で、お腹が大きくならないうちに結婚式を挙げる事になった。


結婚式場や日程、招待する範囲やその他にも決めなければならない事が沢山ある。


今日は午前中の内に、僕の実家へ栞を連れて行った。


付き合い始めた頃から既に紹介をしていたので、僕の両親は栞との結婚と新たな生命を祝福してくれた。


すぐに結婚できない理由を知っていた母は泣いて喜んでくれた。


喜ぶ両親に見送られ、僕たちは役所へ向かい、婚姻届を提出してきた。


今日から栞は『内田栞』ではなく『目黒栞』になった。


そんな僕の妻は母親と一緒にウエディングドレスを選びに出掛けている。


僕は父親が結婚式で着ていた純白のタキシードを着る予定なので、栞に比べたら結婚式の準備なんて健康管理くらいだ。


僕は空になったグラスをシンクに置き、もう足を運ぶことはない地下室に向かった。


半月ほどすれば栞はこの家で暮らし始める。


だから地下室に続く扉は塞いでしまわなければならなかった。


僕の禁断のコレクションは絶対にバレてはいけない。


バレたら全てのコレクションは奪われ、最愛の栞も僕の元から去り、何もかも失った僕は死刑になってしまう。


最悪の事態を避けるために、僕は地下室は封印する。


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