第10話
眩しい太陽の光で起こされた。
薄いグリーンカーテンの隙間から光が射し込み、寝室を柔らかく照らしていた。
ベッドから上半身を起こし、目を擦りながらカーテンの隙間を覗く。
今日の天気は良さそうだ。
あくびをしながら立ち上がり、カーテンを開け放つ。
僕の目にはまだ太陽の光は刺激が強すぎた。
僕は手をかざし、目元に影を作る。
目黒 修:「いい天気だなぁ」
予想通り、空には雲ひとつ無い快晴だった。
空気の入れ替えの為に窓を開けると、外からの風でカーテンが舞い踊る。
僕は着替えを済ませ珈琲片手に、リビングで朝刊を読む。
これは毎朝の習慣である。
早起きをした日曜日だからと言って特に予定は無いので、ベッドの隣に置いてある木製の本棚の前に立つ。
何だか読書をしたい気分になったのだ。
目黒 修:「やっぱ、これかなぁ」
一冊の小説に手を伸ばす。
僕はこの小説の作家が好きで、気が付けば本棚は8割ほど彼の作品で埋まっていた。
僕はコレクターなので、基本的に集められる物は色々集めている。
小説は決まっていつも同じ出版社から発売している文庫本を買っていて、ここの出版社は背表紙が黒で統一しているので、僕の本棚は何処を見ても黒一色で染まっていた。
僕が100冊以上ある中から取り出した一冊。
これは主人公の男が性欲を満たす為に地下室に女を監禁する物語。
男は拉致した女を‟コレクション”と呼んでいる。
僕は性欲の為に女を監禁しているわけではないが、この男に親近感が湧き、この小説は僕のお気に入りの一冊になっていた。
僕はその小説を手に、先程座っていた椅子に座り直す。
ぬるくなった珈琲を啜りながら小説を読み始める。
細かな描写がリアルで、頭の中では主人公が滑らかに動き、映画を観ているような感覚になる。
この作家は、物語の中へ読者を引きずり込む言葉遣いが巧みだ。
僕はもう、この作家の創り出す世界から逃れる事は出来なかった。
いつ頃から読み始めたか細かい時間は分からないが、気が付くとお昼をとっくに過ぎていた。
おやつの時間の方が近い。
目黒 修:「やば……」
最後まで読みたかったが、仕方なく小説にしおりを挟み本棚に戻す。
遅い昼食をとって、散歩に出掛けることにした。
これは日曜日の習慣なのだ。
時間は決めていないので今日みたいに夕方近くに散歩に出掛けることも多々ある。
支度を済ませて、家を出る。
視界に入った空を見上げると、遠くの空は淡いオレンジ色に変わっていた。
履き慣れた白い運動靴で歩き出す。
僕が散歩を習慣付けているのは健康の為と、美しい女を探す為である。
だが、今日も手に入れたくなる美しい女は見かけられなかった。
あまりにも夢中になって探し歩き回ったので、いつもなら来ない所まで来てしまった。
目黒 修:「はぁ……」
往復2時間の未収穫である。
帰宅した時には夕飯の時間になっていたが、空腹ではなかったので無理に食べる事はしなかった。
その代わりシャンパンと華奢なグラスを手に、地下室へ下りる。
硝子の向こうに居る會澤小春に視線を向けると酷くうなされていた。
一体どんな夢を見ているのだろう。
昨日運んだ食事には殆ど手を付けていないようだった。
本当に毒入りだと思っているのだろうか。
このまま食事をとらないつもりなら明日にでも僕の作品にしてしまわないと、痩せてしまう。
僕は硝子張りの部屋を通り過ぎ、一つの扉を開けた。
そこは僕の癒やしの空間だった。
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