第5話


今夜は栞とデートの約束をしていて、都内にあるイタリアンレストランに来ていた。


内田 栞:「綺麗なお店だね」


栞は久々のディナーに少しはしゃいでいる。


目黒 修:「久しぶりだし、ちょっと良い所にしてみたんだ」


含み笑いで言う。


雑誌に掲載されていたレストランで、お洒落な盛り付けや野菜を中心にしたコースなど女性向けの内容だったので、栞なら喜んでくれると思い、今朝予約をしておいたのだ。


はにかんだ栞は、左手で顎まで伸びた前髪を耳に掛ける。


今日は胸元の大きく開いたお洒落な花柄のワンピースが栞にとても似合っていた。


いつもポニーテールにしている髪は解かれ、毛先が胸元で揺れている。


店内は淡いオレンジ色の光に包まれ、控えめな小さいダイヤのピアスが光を反射している。


赤や黄色の野菜に囲まれたフィレ肉のステーキを、ナイフで小さく切って栞は上品に口へ運ぶ。


内田 栞:「美味しいね」


目黒 修:「うん、美味い。このお店は正解だね」


栞が小さなフィレ肉の塊を飲み込み、赤ワインに手を伸ばす。


ワイングラスを回すように揺らして香りを楽しんだ栞は、赤ワインを口に含んで喉を潤した。


胸元が開いているおかげで、喉の動きが良く見える。


僕は食道を潤しながら胃に流れ落ちる赤ワインを見透かすように、白い肌の首からワンピースに包まれた鳩尾を見つめた。


なんだか今夜の栞は、いつにも増してとても美しく見える。


いや、栞は美しいのだ。


僕にとって、欠点の無い女性と言えるだろう。


森岡静菜がコレクションに加わったので、今、地下室は空いている。


この状況は最愛の栞をコレクションしたいという欲望を大きくさせてしまう。


コレクション室に横たわる栞は、きっと誰よりも輝いて見えるだろう。


想像すればするほど今すぐ家に連れ帰って、硝子部屋に閉じ込めてしまいたくなる。


しかし栞を地下室に招待するのは欲望と同じくらい抵抗があった。


目黒 修:「(可能な限り栞とは一緒に居たいけど、僕は耐えられるんだろうか……)」


栞と会話をしながら、いつも僕は頭の片隅でそんな事を考えている。


◇◇◇


今夜も手を出したい衝動に打ち勝った僕は無事に栞を家まで送り届けることに成功した。


家に帰り、空になった硝子部屋を見ると寂しさを感じた。


可愛がっていたペットが居なくなった空っぽの檻を見ている気分だ。


なるべく早く新しいを置いておきたい。


僕は冷やしておいたシャンパンを持ってコレクション室に足を運ぶ。


そこには桜色のマニキュアとペディキュアを丁寧に塗り重ねた森岡静菜が、眠るように白い台の上で僕を待っていた。


近付いて舐めるように眺め、その美しさに溜め息が漏れる。


目黒 修:「はぁ……」


心の中で何度も褒め称えながら、僕はグラスに注いだシャンパンを口に含む。


ルネサンス期の美しい絵画を眺めているような、とても贅沢な時間だ。


次は誰にしようか?


僕の周りには沢山の美しい肉体を持つ芸術作品たちが歩き回っている。


人間の手では創ることの出来ない自然の美しさ。


遺伝子の絶妙な組み合わせでしか生まれない


それが


そして美を司る


自然とは、本当に素晴らしい。

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