言えない事

仕事が、無事に終わって更衣室で帰る準備をしていた。


「あんたさー。崎谷さんに弁当作ってんの?気持ち悪」


初めて見る女の人は、私にスマホの写真を見せてきた。


「すみません。帰るので」


バチン…


突然、その人に頬を叩かれた。


女は、やはり怖い。


「次、崎谷さんに近づいたら許さないから」


「失礼します」


私は、更衣室を後にした。


怖い目だった。


崎谷さんは、イケメンだと思う。


その上、優しい。


だから、女性が放っておかないのがわかる。


急いで、帰る。


とにかく、家に帰りたかった。


いつも通る細道に入った。


今日に限って人がいた。


「あー。あんただ。あんた」


スマホを見ながら、男が二人近づいてきた。


ブザーをポケットにしまった。


「まあ、こんなブーでも女だからいっか」


「マジでするの?」


日本語を話しているのだろうか?


「失礼します」


「帰さないよ」


一人の男に腕を掴まれた。


「痛いです。離して」


「俺らもあんたみたいなのとするの嫌なんだけどさ。金もらってるからね、わかるよね?豚ちゃん」


「やめて下さい」


ギリギリと腕に力をいれられて、折れると思った。


自転車が通って、腕を離された。


「さっさと終わらせようぜ」


「じゃあ、動画ちゃんと撮っとけよ」


そう言って、壁に押し付けられた。


「嫌、やめて、離して」


「暴れたら、殺すぞ」


キスをされそうになって、そう出来ないように必死で抵抗する。


なのに、キスをされてしまった。


嫌だ。


助けて


手探りで、鞄から折り畳み杖が取れた。


ガンっ


「いってーな」


相手にどうにか当たった。


「やめて」


防犯ブザーを引っ張って、放り投げた。


「うっせー。止めろ」


「どうしましたか?カツアゲですか?」


自転車に乗ったカップルが近づいてきた。


「行くぞ」


二人は、逃げていった。


「大丈夫ですか?」


「はい」


「カツアゲですか?」


「あっ、はい」


優しい女の人だった。


「この時間、人通り少ないから気をつけて下さいね」  


「ありがとうございます。」


私は、頭を下げて、鞄を拾った。


防犯ブザーを拾って、止めた。


走って逃げれないから、ここを使うのは今日で最後にしよう。


防犯ブザー買っていてよかった。


必要ないと思っていたけど、役にたった。


家に帰って、何度も唇を洗った。


気持ち悪い…。


崎谷さん達には、会えない。


頬の赤みと掴まれた腕が赤かった。


冷凍してたぶりと大根を調理した。


これを、渡してあげよう。


崎谷さんに、優しい言葉をかけられると断れなかった。


また、かずさんと美陸みろく君の家に来てしまった。


「ただいま」


「おかえり」


「美陸、冷やすのなかったっけ?」


「アイスノンなら、あるよ。」


「それ、貸して」


崎谷さんと美陸君とリビングにきた。


「りーちゃん、何かあったの?」


「たいした事ないです。」


「嘘つくなよ。腕、だして」


「はい」


「これ、すごい力で掴まれたね。男でしょ?」


美陸君に言われて頷いた。


「何もされなかった?」


「はい、大丈夫です」


キスをされてしまったのに、嘘をついた。


二人に、嫌われたくなかった。


本当の事を言って、もう会わないよって言われたくなかった。


美陸君は、アイスノンで、腕を冷やしてくれる。


二人は、怖くない。


大丈夫。


「温めます。」


ぶり大根のタッパを持って、キッチンに行く。


火にかけながら、怖かったのを思い出した。


太った私に、興味ある感じではなかった。


昔、仲良くなった人に襲われた事があった…。


今みたいにキスされて、ムカムカしてくるから考えるのをやめた。


男なんか嫌いだと思った。


ぶり大根を器によそった。


「ごめんなさい。今日、これしかなくて」


「大丈夫だよ。二人だったら、惣菜だから…。気にしないで。手痛かったのに、ありがとう」


「りーちゃんは、食べたのか?」


「はい」


「なら、そこで腕冷やしときな」


やっぱり、二人は優しい。


「はい」


怖くない。


私は、ソファーに座って腕を冷やした。


掴まれた部分が、痣になってきそうだった。


気持ち悪かった気持ちが、二人を見ていると静まっていった。


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