一度囚われたら戻れない、鏡の〝あちら側〟

 洞窟の奥にあるという、異界と繋がっているとされる鏡にまつわるお話。

 時代もののホラー、あるいはファンタジー掌編です。
 何がいいってもう雰囲気が最高。物語全体に漂う、硬質で硬派な手触りがとても魅力的で、作品の世界にぐいぐい引き込まれました。

 文章も好き。綺麗で読みやすく、物語を邪魔するような余計な力みがなくて、とにかく読み心地が良いのが最高でした。

 ちょっと具体的に触れられないのが残念なんですけど(たぶんネタバレになっちゃうので)、個人的には主人公が大好きです。
 あまりどういう人物かは語られない、言うなれば「たまたま事件に関わっただけの部外者」のような立ち位置の人物、だと思うのですけれど。
 しかしこうしていざ読み終えたときに、とても強烈な個性をもって心に食い込んでくるのが本当にすごい。

 それも、キャラクターの個性だけでなく、物語の構造そのものが主人公の魅力を補強している感のあるところ。
 この感覚は実際に本編を読んでいただければわかるはず。
 ただの設定や属性でなく、「このお話を読んだ」という体験を通じて人物を好きになれる、大変素敵な作品でした。