偽物の家族

あの後、俺は、茜と眠っていた。


子供を望まなかったのは、理名に泣いて欲しくなかったからかもしれない。


俺が結婚し、妻が妊娠したら…。


理名は、あの日みたいに泣いただろ?


理名にもう二度と傷ついて欲しくなかったんだ。


赤ちゃんに振り回されて欲しくなかったんだ。


「理名ー」


「おかえり」


理名が休みの日に家に行くと、理名が手作りのスイーツを作ってくれていた。


「今日は、何?」


12歳の俺は、後ろから理名に抱きついた。


ガキの特権を使えるのは、小学生までの気がしていた。


「プリンだよ!手洗ってくる」


「はーい」


手を洗って戻ってくると、理名がダイニングにジュースと手作りのプリンを置いてくれた。


「いただきます」


「どうぞ」


「うまいよ!理名」


「よかったね!」


「美味しいでした」


「別に、怒ってないよ」


理名は、ニコニコ笑った。


「それ、何?」


「これね、試作品なんだけど!クッキー作ってみたの。お米でね!食べてみる?」


「うん」


失敗作のように並んだクッキーを理名は差し出した。


「美味しいよ、理名。僕好き」


「よかった」


そう言って、理名が笑った。


おやつを食べ終わると、理名の買い物に付き合うんだ。


俺は、わざと理名の手を握りしめる。


理名が、ベビーカーが隣を通ると目を伏せてるの知ってる。


赤ちゃんを見ないように、してるの知ってる。


だから、小さな手で力一杯握りしめるんだ。


「理名、僕が守るから」


車に乗って、理名の頭を撫でた。


理名、俺がずっと守るから


自分の子供がよかったなんて言わないでくれよ。


俺じゃ駄目だなんて言わないでくれよ。


理名は、言わなかった。


そんな言葉、何一つ…。


「俊、泣いてる?」


「理名が、子供望んでたの知ってるから」


「理名さん、出来ないんだよね」


「うん、出来ない人だった」


「私も同じだからわかる。理名さんも優生さんも素敵な人だった。」


「そうだな!」


神様は、間違ってるよ。


理名や優生さんみたいな人に子供を授けないで、俺の家みたいな腐った家族に授けて。


そう言えば、高校の時に…。


「母さんと父さんが、お前が仲良くしてる二人から金もらったん知ってる?」


「はあ?ふざけんな」


「あの人達は、払ったよ。500万」


「どういう意味だよ」


「さあな!お前を返さないって話しかな?まあ、俺達家族はここから引っ越すし!偽物の家族と仲良くやれよ」


「ふざけるな!偽物じゃねー。」


「いいじゃねーかよ。前より、二年も早く18歳には大人になれるんだからよ!じゃあな!」


そう言って、いなくなった。


18歳を越えた時に、兄貴にまた会った。


理名達は、もう500万を払ったと聞いた。


そして、俺は大河内になった。


「何で、あいつらに金払ったんだよ」


「何の話?」


「理名、優生さん、俺を金で買ったのかよ」


「そんな事しない」


「だったら、何で金なんか払うんだよ!老後の為に使えよ」


「老後なんかより、俊の未来が大切だと思ったから払ったんだよ!お金は、なくても何とかして作っていける。この家だって処分すればいいだけだ。でもな、俊の人生を壊されたら何億積んだって買い直す事は出来ないんだよ」


優生さんの言葉に、俺は泣いていた。


泣いて、泣いて、二人の息子として生きるのをさらに決意したんだ。


老後の面倒を見てやるって!


「理名さん達の家で住まない?」


「えっ?」


「私、俊の家族と住んでみたい」


「茜、いいの?」


「いいに決まってるよ!私、俊の家族大好きだよ」


「帰ってきたら話してみようか?」


「うん、話してみて」


「うん」


茜は、俺を抱き締めてくれる。


本当の家族と生きていくより、幸せな事を、理名さんと優生さんに出会って知ったんだ。


俺は、最後まで二人を見届けるよ。


お金とか好きとかそんなんじゃない。


もう、見えない絆で繋がってるんだよ。


血より濃くて太い絆。

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