第3話 あーん

「作くん、今日体調悪い?」


 椎名はそう言うと、上目遣いで小首を傾げる。


「なんでそう思う」


「だって、いつもより口数少ないし、ご飯もあんま進んでないよ?」


「俺はいつも通りだから安心しろ」


「だとしても、ご飯はちゃんと食べなきゃダメだよ?」


 と、微笑みながら卵焼きをこちらに差し出してくる。


「はい、あーんして?」


「いやいらん」


「ダメだって、ちゃんと食べなきゃ」


「自分のご飯食べてるだろ」


「メロンパン一つじゃダメだよ。私の卵焼き食べて」


「余計なお世話だ」


「作くんは私の卵焼きが食べれないっていうの?それともただ単にみんなの前であーんされるのが恥ずかしい?」


「は?」


「恥ずかしなら仕方ないな~、作くん照屋さんなんだから~。そうゆう所も可愛いだけど」


「普通に食べたくないんですけど?」


 俺はバッサリと言い切ると、椎名の目のコントラストが一気になくなり、


「へぇ~、そんな事いっちゃうんだ…………」


 卵焼きをお弁当箱の中に戻し、スマホを取り出すと、俺の親の通話画面をこちらに見せながら、


「今から、作くんのお母さんに泣きながら「実は作くんと付き合ってたんですけど、その…………そうゆう感じになってしまって、それで中に出されてしまって………作くんの子供がお腹に出来ました」って言うから」


「ちょ、待った!」


 急いで、発信を止める。


「お前親にだけは言うなっていったろ!それに、お前だって親にバレたら不利益だろ」


「……………こんな状況だから仕方ないよね」


 親にこの関係がバレたらまずい。俺は特に。

 もしバレたら親まで椎名に俺達が交際してると嘘を吐かれて、ラブラブだと勘違いして干渉してくる。


 同棲用のアパートとか契約してきそうだ。

 まぁ、椎名は親が絡んでくるのが嫌だから、親に俺と付き合ってるなどの嘘は吐いていないんだがな。


「それで……………?私の卵焼きが食べれないわけ?」


 スマホをちらつかせながら、再度俺に問う。

 ここで下手に拒んでも自分の身を危険に晒すだけなので、


「…………食べる」


 仕方なくだが食べることにした。

 椎名は返事を聞くと、パァとした笑顔を浮かべ、


「はいはい~!あーんして?」


 すかざす箸を持ち、卵焼きを口元に運んできた。


「あーんする必要はないぞ」


「あるよ?これも愛し合う私達のコミュニケーションだもの」


「あ、そっすか」


 引き攣った笑顔をすると、俺は卵焼きをパクリと食べた。

 うん、味は上手い。甘くない味付けなので俺の好みだ。


「どう?美味しい?」


 両手で頬杖を付き、俺をジーっと見てくる。

 別に、ここで普通と嘘を吐く必要もないので、


「まぁ、美味しいな」


 頬を掻きながら言った。

 すると、椎名は俺の口を付けた箸をペロリと舐め、


「そう、よかった!」


 ニコッと微笑んだ。

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