第9話 歪んだ執着(シャハル)



一目見て、あれは俺のものにしようと決めた。

レミアスからの留学生。しかも途中編入の令嬢。

一年だけの留学だなんて、おそらく婚約者を探しに来たのだろう。


静かに座って授業を聞き、ノートに書きこんでいる。

ただそれだけの動作なのに、あきらかに何かが違って見えた。

銀色の髪はレミアス国でも王族の色なはずだ。

レミアスに王女がいるとは聞いていない。ということは公爵家あたりの令嬢か。


艶めいている銀色の髪は光をまとっていて、その髪がかかる肩は華奢だ。

そのくせ制服を着ていてもわかるほど胸の質感ははっきり感じられる。

こちらを向いていないから、まだ目の色は見えない。

髪をかき上げた時の横顔に思わず見とれてしまった。

あの妖精のような令嬢は、この国では滅多に見られない極上品だ。


あれを手に入れたら、俺はあいつに勝てるかもしれない。

そう思ったら笑いがこみあげてきた。

ようやく勝てる見込みが出てきた。


授業が終わってすぐ近づいていく。

令嬢に話しかけようとしてた者たちが俺に気が付いて立ち止まる。

睨みつけるとさっと散っていった。


「おい、そこのお前。」


振り返って初めて見えた目は赤色。もしかして、石榴色なのか?

こんな幸運ってあるのか?石榴姫を手に入れることができるなんて。


「何かわたくしに御用でしょうか?」


少し落ち着いた感じの声が外見よりも少し大人びている。

公式の場に出慣れている者の話し方だった。

それならばこの令嬢は公爵家のもので間違いないだろう。

本当に石榴姫の血縁だったりするのかもしれない。


「ついてこい。」


令嬢の腕をとると、その華奢さがよくわかるほど細い手だった。

立ち上がらせると背が俺の胸にも満たない。

そのまま引っ張るように廊下に連れ出した。

このまま俺の控室まで連れて行って俺のものにしてしまおう。

レミアスの公爵家の令嬢だとしても、王子の俺なら問題ないだろう。


「ちょっと待ってください。どこに連れて行こうとしているのですか?」


力は入っていないが抵抗し続ける令嬢に、めんどくさいなと思いながら答える。


「俺の控室だ。」


「え?行く用事がありません。離してください。」


うるさいなぁ。黙ってついて来ればいいものを。


「こんな時期に留学してくるのは婚約者を探しに来たんだろう?

 おとなしく可愛がられるのであれば、俺が婚約してやってもいいぞ。

 王子が婚約者なら文句ないだろう。」


そういえば納得して素直についてくるだろうと思った。

その令嬢はうつむいて何かつぶやいたと思ったら、ものすごい力で腕が離された。


魔術か!?そう身構えた瞬間、令嬢の姿が消えた。

どうやら幻影系の魔術が使えるようだ。いとも簡単に。

信じられなかった。俺を含め数名の目を欺けるような幻影だと?


どれだけの魔力量の持ち主なんだ。

絶対に逃がすわけにはいかなくなった。確実に俺のものにしなければ。


令嬢が隠れそうな場所を探し、手分けして追いかけた。

中庭の奥まで探したが見つからず、一度教室に戻った。

そこにも令嬢の姿は見当たらず、一日中学園内を探し回った。

夕方になれば寮に戻るだろうと側近に寮の前で待ち伏せするように言ったが、

夜まで待っても令嬢は帰ってこなかったそうだ。

まさかレミアスに戻ったとは思えないが…。

とにかく令嬢を早く捕まえようと、侍従に学園で早朝から待つように指示した。


明日になれば手に入れられるだろう。逃げ場など無いのだし。

そう思っていた俺が次の日に見たのは、あいつの隣にいる令嬢の姿だった。



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