Episode.2 プリンス・トラブル

 3日後の入学式はつつがなく厳かに終わり、その次の日からもう授業が始まった。

 一限目「魔法学基礎」

 「特進総合科」担任、女教師サクス・ブライトが授業をしていた。

「いいですか、まずは魔法の基礎から。魔法とは、全ての生物が使用できる技術で、空気中の魔素を体内の魔力と結びつけて放つのが魔法です。」

 さすがは初日、多くの生徒が真剣に話を聞いていた。

「魔道具も原理としては同じで、魔力の塊である魔石に魔法式を刻み、空気中の魔素と結びつけて使用するわけです。わかりましたか?」

 教師は一通り授業を終え、教室から去っていった。

 今日はまだ初日なので、今日の授業はもう終わった。

 クラス内ではすでにグループ、もとい派閥ができつつある。

 ただの高校生相当のグループと思う勿れ、ここで紡いだ絆、いやは、今後の人生において重要な役割を果たす事が多い。

 だから、たとえ派閥の盟主リーダーがどれだけイヤな奴だろうが媚びを売ってへつらう事には、自分の将来にとって大きな意味があるのである。

 しかし、グループに入っていない者も中にはいる。

 リームである。わざわざ人に媚びへつらおうとは思わなかった彼女は、その家柄の低さから、「関係を持ってもメリットなし」と判断されたので、どこのグループにも所属していなかった。

 どうやらノアも自分を中心とした独自のコミュニティを築けた様である。あのコミュニケーション能力だ。きっとどこに行ったって友達を作れるだろう。

 そのノアからも誘われたが、彼女とは対等な友達でいたいと断った。彼女の取り巻きからは怪訝な顔をされたが。

 授業が始まりかれこれ一週間が経った。

 ノアはその日も学食でカレーを食べていた。

 当然一人である。

 リームは前世の頃からカレーが好きだった。誰でも簡単に作れる事、それでいて個性も出せる事が理由だ。

 しかし、どうも周りが騒がしい。何やら人だかりができている。

 興味を持ったリームはカレーを食べながらもその人だかりの中に入っていった。

 どうやらこの国の第一王子と誰かがトラブルを起こしている様だ。

「だから、ここは元々おれが取ってた席だ!」

「だから、言ってますよね?」

「いいや、お前のそのが気に入らねェ! ここはおれの特等席だ! 入り口に一番近いんだから。おれが来たらさっさと席を変えるぐらいしたらどうだ!」

 男はたぶん、件の第一王子だろう。横暴だ。こんな奴が時期国王になるんじゃ、この国の未来が思いやられる。

 言い争ってる相手は……ノアだ。ナイトレイ自治国のドラゴン族とはいえ王女なので、一つのグループの長になっている。しかし、ナイトレイ自治国はマジーロ王国より自治を認められているだけの弱小国、第一王子に強く出れないのは当然か。

「まったく、これだからドラゴン族は。頭の足りない『』が。お前の両親もそんな奴なんだろうな。」

 親を侮辱され、ノアは唇を噛み、我慢した。自分が手を出したら自国に危害が及ぶ可能性があるからだ。それに彼は強い。「決闘」を申し込んでも勝てるとは思えなかった。

 ノアがその場を離れて、事態を丸く収めようとしたその時だった。聞き捨てならない最低の言葉を聞いたリームが王子の前に出てきた。

「リーム……?」

 突然出てきた親友の姿に、ノアも驚きを隠せない様だった。

「オイ、何だお前。誰かと思ったら地方貴族じゃねェか。」

「地方貴族なのはあくまでおれの親であっておれじゃない。」

 王子の挑発に毅然と言い返した。

「何だよ。お前には関係ないだろ。」

「ああ、関係ないさ。だから今から関わる。だから……」

「今からこいつに……、土下座して謝れ!」

 リームはそう言いながら拳を大きく振り上げ、王子の顔面を力の限り殴り飛ばした。

 まさかの不意打ちに、王子は腰から崩れ落ちる。

 リームはその王子の胸ぐらを掴み、「誰が化け物だと……!? もういっぺん言ってみろ!」と怒鳴りつけた。

 そのあまりの剣幕に王子はビビり上がったが、すぐにいつもの調子を取り戻した。

「このおれに向かってその態度はなんだ! 一族郎党皆殺しじゃ飽き足らねェ……。お前に『決闘』を申し込む! おれが勝ったら非礼を詫びて自害しろ! そして一族郎党皆殺しだ!」

「じゃあおれが勝ったら彼女に土下座して謝れ!」


 この国の第一王子と地方貴族の少女が決闘するというニュースは、瞬く間に学校中を駆け巡った。大半は王子が勝つだろうという見解を示したが、中には王子がムカつくから負けてほしいという感情論の意見もあった。

 そもそも決闘とは、建前上は一応「生徒間は平等」を掲げているマジーロ魔法学園の伝統で、何かしらの争いごとが起こった場合の解決策の一つとして教師同伴で認められているものである。

 学園敷地内にはサッカーコートぐらい広い決闘場があり、勝敗は降参、気絶、あるいはリングアウトとなっている。

 決闘を仕掛けられたら受けるのがマナーであり、受けなければそれは恥とされる。逆に仕掛けた側は、負ければ「自分から決闘を仕掛けといて負ける」という事になるので、負ける事が何よりの恥とされる。

 大変な事になったとノアはリームに詫びた。いざという時は私が匿う、絶対に自害なんてさせないと言ってくれた。

 しかしノアに、リームはこう言った。

「安心しろ。あいつじゃ絶対におれには勝てない。だから大丈夫だ」


 決闘はそれから三日後の放課後だった。当日、決闘場には多くの生徒や教師が詰めかけた。中には何と賭けの対象にしている者もいる様だ。


 ———マジーロ魔法学園 決闘場———

「オイ、よく怖気ずに来たな。この『五王家』が一つ『ジェクトブル家』の第一王子、『バド・ジェクトブル』を前にして」

 相変わらずの煽りグセだ。っていうかコイツそんな名前だったのか。

 リームはそう思いつつも毅然とした態度でこう返した。

「怖気つく必要がないからな」

「そう言っていられるのも今の内だ。お前、おれがただの権力だけの男だと思っていたのか?」

「思ってたよ、正直」

 

 そもそも魔力は、「どれだけ長時間魔法を使えるか」「どれだけ大規模な魔法を使えるか」に影響する。当然多い方が有利である。

 そして魔力には、庶民と貴族、貴族と王家で圧倒的な差がある。それは太古の昔、マジーロ王国が建国された時、魔力が多い有利な方が少ない不利な方を支配した事が端緒となっている。

 つまり、「王家だから魔力が多い」のではなく、「魔力が多いから王家として高い地位に就く事ができた」のである。

 だから地方貴族が王族に挑む事は、魔法自体の「相性」と「練度」によっては善戦はすれど無謀な事なのだ。

 だが、いやだからこそノアは、決闘場に向かうリームにこう言った。

「ねぇリーム」

「ん?」

「地方貴族じゃ絶対に王家には勝てない。これがこの国の。だけど……」

「絶対勝って」

「心配すんな! それがこの国の常識っていうのなら、おれが変えてやる!」

 そしてリームは、颯爽と決闘の場に現れた。

 一通り煽り終わって相対する両者。

 審判となる担任教師ブライトの「始め!」の声で、ついに決闘は始まった。

 そしてこの日が、リームの世界を救う「革命」の、その記念すべき第一歩となったのだった。


 Episode.2 終わり

 Episode.3に続く


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